第3話 沙羅

大好きだったおばあちゃんが亡くなったのは、去年の七月のことだった。



その後、おばあちゃんのこの家に住んでいるのが“ささら さら”さん。

おばあちゃんが使っていた家具も設備もそのままに、ここで暮らしている。



おばあちゃんが亡くなって、四十九日が過ぎた頃、わたしはこの家の前を通りかかって、なんだか無性に寂しくなって泣いてしまった。

さらさんはその時声をかけてくれて、以来、仲良くしてもらっている。



さらさんは、なんだかみんなと違った雰囲気の人。

ここだけの話、さらさんといると、おばあちゃんと一緒にいるみたいな気持ちになる。


おばあちゃんの名前も“さら”だった。


「あの“沙羅しゃらの木”の、沙羅さらだよ」と、庭の木を指さしながらおばあちゃんは言っていた。





やがて、さらさんが庭から戻ってきた。


農作業の帽子を外したさらさんは、腰にまで届きそうな長くて艶々でカールした黒髪を垂らしていた。


「さらさん。さっき言ってた“龍”って、ドラゴンってこと?」


わたしが尋ねると、さらさんは首を振った。


「龍は神様の世界に住む。西洋のお話にでてくるドラゴンとはちょっと違う気がするねぇ」


さらさんはいろんなことを知っている。

そこがとってもかっこいい。



龍の子が隠れた座布団をみて、さらさんが言った。


「警戒しているんだろう。奥の部屋に連れて行っておあげ。安全とわかったら出てくるよ」


「逃げちゃわない?」


「さぁ。どうだろうね」


さらさんの言い方がなんだか適当だったので、心配になった。

せっかく捕まえた龍の子が逃げちゃうかもしれないのに……。


そんなわたしの考えがわかったのか、さらさんは言い聞かせるような、優しい声音で言った。


「ぽぽろは龍の子の気持ちも聞かずに、ここに勝手につれてきたんだろう? ここからは龍の子が決めることだよ」


そういわれて、しゅんとなった。

だって、それは確かにそうだなと思ったから。


「大丈夫。龍の子はきっと逃げないよ」

さらさんは、わたしの頭を撫でながら笑って言った。




さらさんは、なんでも知っているのだ。

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