君といるとずっと繰り返すであろう日々を思う

三愛紫月

目にはいると、いつも 1話

 まただ。

 私は、また動揺している。

 ううん。

 動揺ではない。

 悲しい。

 すごく悲しい。

 それも違う。

 どちらかというと。

 苦しい?

 


 この複雑な気持ちを表現する言葉が見当たらない。


ーーコンコン


「ただいまって言ったんだけど」

「ごめん、お帰りなさい。今から、ご飯作るね」

「どうしたの?沙夜さよちゃん。家が真っ暗だったけど」

「ごめん。気づかなかっただけ」

「本当に?」

「うん」

「今朝のニュース見たんでしょ?」


 大空たく君の言葉に止まってしまう。

 ただのニュース。

 しかも、知らない女優さんの。

 なのに、私は、また勝手に傷ついている。



「無理なのわかってる。わかってるけどね。大空君との子供が欲しいって思ちゃうの」

「うん。だけど、出産は命がけだよ。ロイは死んじゃったでしょ?」

「わかってる」



 ロイとは、大空君の従兄弟が飼っていた猫。

 スコティッシュホールドのシマとお見合いして妊娠した。

 ロイは、淡いブルーの毛並みをもった雑種。

 たぶん、母親か父親がロシアンブルーじゃないかって話だった。


 ロイの出産を見せて欲しいとお願いしたのは、大空君で。

 何度も他の猫の出産を経験しているから大丈夫だよ、おいでと従兄弟は快く呼んでくれた。



 でもね。

 そんな経験なんて。

 命の前では無意味だった。

 私達は、あの日。

 命を授かるのになんて言葉はないことを思い知った。


 ロイのお腹の中には、4匹の子猫がいて。

 3匹目を出産中に突然ロイの意識がなくなったのだ。

 原因は、全くわからなくて。

 従兄弟は、慌てて獣医に連絡した。

 獣医も慌てた様子で、すぐにやってきて。

 4匹目を取り出すための、手術をしなければならないと病院へ連れて行った。


 その後もロイの意識は戻らず。

 先月、この世を去った。

 まだ幼い子供たちを残して。


 ニャーー


「タカラちゃんご飯ですか」


 ロイのお腹に残された4匹目を私達は引き取った。

 私達の宝物にしようとタカラと名付けたのだ。



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