【短編】貴女が好き

高天ガ原

恋文

 手紙としての形式は全てすっ飛ばして、あなたに伝えたいことだけ書きますね。

 先週のデート、楽しかったよ。凄く楽しかった。だからこそ、今の状況が不満です。

 確かに、私にも悪い部分は一杯あります。


「レズでもなんでもないはずなんだけど、あなたが好き」


 そう告げたあなたは少し頬を赤らめながらも、自信があるようでした。ただ、私が鈍すぎて驚いてしまったがために、困惑しているんですよね? 本当にごめんなさい。


 あなたが「死んだお父さんのような人と付き合いたい」って言っていたから、私は完全に油断していました。

 でも、今、思えば、あなたは最初から私に全力だったんだと思います。文化祭の準備が始まる先週、唐突に私の手を握った時も。


「日曜日にさ、デートに行こうよ」


 そう告げるあなたの目は断らないと見抜いていたかのようにまっすぐと私を見ていました。私はいつもの冗談かと思いましたが、あの時、あなたの手は少しだけ汗ばんでいたように思います。


「デートなんて大袈裟だなぁ。いつものように遊びに行こう、で良いじゃない」


 私はそう言いながら、あなたの手を握り返しました。だけど、あなたは強く言い直しましたね。


「いいや、デートだよ。大事な、大事な、デート」


 私は意味も分からず「あー、そうなの?」とか言って聞き流しましたが、あなたには大事な意味のある宣言だったんでしょう。

 だから、あの日。いつも着ないような服を着て、メイクもしっかりと決めたあなたが私を待っていたんだよね?


 いつもなら約束の時間にピッタリで来るようなあなたが、三〇分も前から待っていたと聞いて驚きましたよ。時間にはピッタリが良い、物事は思ったように進んで欲しい。そんなあなたがずっと私を待ち焦がれていた意味を私は理解していませんでした。

 そして、サプライズのように行き先を変更したかと思うと遠出して美術館に連れて行って。絵の前に行っては「この絵、どう思う?」と私に微笑みかけました。コンクールに出すのをためらいながらも、美術部として油絵を描いていた私としては溜まらなく楽しい時間でした。私の言葉を聞いては嬉しそうに「じゃあ、きっと。もっといい絵が描けるようになるね」って言っていたあなた。そんな時間が特別だと分からなかったのは、ひとえに私とあなたが同じ女であったからでしょう。


 お昼ご飯を食べる前に、あなたから告白されて私は戸惑ってしまった。本当に申し訳なかったと思っています。


「あたしが男だったらなぁ……」


 少し前から聞くようになった愚痴をポロッとこぼしたあなたは、私の反応を見て、それ以上は言いませんでした。


 そして、結局、あなたは私に大した話をすることもなく、デートを終わらせてしまいました。少し寂しかったです。でも、女同士の恋愛なんてよく分からないし、そんなものか、と思ってしまった自分もいます。

 ただ、私は知ってしまいました。あなたが文化祭で故人の企画を出そうとしていたことを。教師達に交渉して教室を確保しようとしていたことも、私の絵を全面的に出したブースにしたいって考えていたことも。とある先生から聞いてしまいました。

 ねぇ、この手紙を読んだなら。


 私と文化祭でブースを出しませんか? 明後日には、企画書の締め切りが来ちゃうけど。あなたと一緒に頑張りたいって思ったんです。

 私は自信が持てないからコンクールとか、実力勝負に挑まなかったんです。でも、ずっとあなたは「天才」「才能がある」と褒めてくれましたね。


「努力している人が評価されるべきなんだ」


 そう呟きながら、私の絵を見ていたあなたが大好きです。厳しいけどしっかりしていて、他の人がサボった分まで頑張る私を叱るようなあなたが大好きです。「他の人のために頑張るんじゃなくて、自分のために頑張って欲しい」って抱きしめてくれたあなたがたまらなく愛おしいんです。


 だから、私ともう一度、話しませんか?

 日曜日から、ずっとあなたは曖昧なことを言って私を避けていますよね? そのつもりがなかったとしても、私にはそう見えています。……あなたの告白に即答できなかった私も悪かったと思っています。でも、勝手に振られたつもりになって逃げないでください。


 私、あなたのことが大好きです。レズじゃないけど。


 友達として、とかじゃなくて。一生を共にする仲間として、あなたを愛しています。

 もし、あなたが死んだお父さんのような男性を見つけて、結婚したとしても、私はあなたを手放したくありません。


 お返事、待っていますね。

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