せっかく主人公になれたと思ったのに、また転生させられて今度はモブキャラになってしまった······

朔月カイト

   プロローグ



「は!? もう一度別のキャラに転生し直して欲しい?」


 夜、自室で寝ている時に、以前俺をギャルゲーの世界に転生させた女神に、再び神界へと呼び出されたと思ったらこれだ。


「ふざけないでくださいよ! そんなことになったら、これまでヒロイン達と結ばれるためにしてきた努力が、全部無駄になってしまうじゃないですか!」


 俺はその理不尽な要求に、憤りながら声を荒らげた。


「そうは言われても、もう決まっちゃったことなのよね。私にはそれを変更する権限はないわ」


 悪びれた様子も見せずに、女神が淡々と告げる。

 金髪碧眼で、彫刻のように整った容貌というのが、逆に俺の苛立ちを募らせる。


 俺は、その澄まし顔を、助走をつけて一発殴りたくなる衝動に駆られながらも、ぐっと堪え、どういう経緯なのかを聞いてみる事にした。


「そもそもどういった理由でそんなことになったんですか。以前ここに来た時は、命を捨ててまで人助けをしたあなたへのご褒美に、大好きだったゲームの世界に主人公として転生させてあげますって事だったじゃないですか」


 そう。俺は、居眠り運転で歩道に突っこんできた暴走トラックに轢かれそうになった少女を、身を挺して救った事で、それを痛ましく思った最高神様の慈悲により、学生時代にやりこんでいたギャルゲーの世界に、再びの生を受ける事になったのだ。


「それがね、私がちょっとしたミスをして殺しちゃった引きニートの男性に、お詫びに君が今いるのと同じゲーム世界に、主人公として転生させろってお願いされちゃってね。こっちのミスで死なせちゃった手前、断り切れなかったの」

「えぇ······」


 ミスで殺したってなんだよ。

 女神がするとは思えない、鬼畜の所業じゃないか。


「ね、お願い。ヒロイン達の攻略は、また新しく転生したキャラで再開すればいいじゃない」


 と女神──改め駄女神が、拝むように両手を合わせる。


「それだと今まで俺が積み上げてきた分、新らしく主人公になるやつの方にアドバンテージがありまくりだと思うんですけど······まぁいいです。どうせ嫌だって言っても無駄なんでしょうから」


 俺は、物事には諦めも肝心だと、見切りをつける事にした。

 じたばたと足掻いてみたところで、結果は変わらないのであれば、それは徒労でしかない。

 非効率にエネルギーを消費するのは、俺の主義に反する。


「ありがと。さすが話が分かるわね」

「それで、新しく転生するのってどんなキャラなんですか?」

「えっ!? それ聞いちゃう? 転生後のお楽しみにとっておくことをお薦めするけど」


 女神が、突然酷く狼狽えた様子を見せる。


「なんでですか。事前に知っておいてもかまわないじゃないですか。もったいぶらないで、早く教えてくださいよ。ていうか教えろ」


 俺が強い口調で催促すると、女神は口ごもりながら、小声で呟いた。


「モブ······」

「は?」

「だからモブよ! モブキャラ! 仕方ないじゃない! そのキャラしか空きがなかったんだから!」


 逆ギレぎみに女神が声を大きくした。

 こいつ開き直りやがったな。


「はぁ······モブですか······」


 期待はしていなかったが、脇役でもいいから、せめてネームドキャラがよかった。


「でも安心して。モブの中でも割りかしいい男だから。見た目陰キャで友達がいないってだけで」

「付け加えられた要素で台無しなんですけど」

「まぁまぁ、ポジティブに考えれば、ミステリアスで孤高の存在って事じゃない」

「ものは言いいようですね」

「それじゃあ、そういうことで。そろそろ時間だから、これでさよならね。新しい転生キャラでも頑張ってね」


 女神はそう別れを告げると、俺を元いたゲーム世界へと送還した。


 俺は、今後の学園生活に不安を抱かずにはいられなかった。



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