27 ハーレム

「──あれっ。なんか誤魔化されたけど、フィンが私以外の女の子と同棲してることは否定されてなくない?」


 背負われたまま首に腕を回し豊満な胸を押し付けてくるアリアは、思い出したかのように言った。


「否定もなにも、ただの事実だが」

「…………なんでそんなことしてるの!!」

「俺の生活環境を見かねた仲間が善意でやってくれた」

「どういう言い訳なのさ! 信じるわけないでしょ!」

「安宿でずっと過ごしてたら、いい加減まともな暮らししろって言われてな」

「えぇ……」


 なにせ馬小屋からの安宿生活だ。

 治安もへったくれもなく、常に強盗の危機に怯えて過ごす必要がある。強くなってからはすっかり襲われなくなったが、初めの頃は変態野郎に後ろの穴をねらわれることも少なくなかった。まあ、その程度の相手に後れを取ったりはしなかったが。


 俺は変態じゃないから決して興奮しないが、もしもそうなってしまったとすれば、今の俺は存在しないだろうな。


 そうなったのならばそれはそれとして興奮する。

 それが俺の生き方だから。


 前半部分を伝えると、口をぐにゃりとひん曲げた師匠が聞いてくる。


「だから言ったじゃないか。私が推薦しようかって」

「師匠にそこまで甘える気はない」


 もう俺は大人の男だぞ! 

 童貞さんだけどね。

 あ~あ、師匠と一緒に風呂に入ってたのが懐かしいぜ。なんで俺はあんなにバルンバルンのとんでもないものに興味を持たなかったのだろうか。


 ドマゾだからです。

 毎日ボコボコにされて満たされてるのに女体に興味を持つわけもなく、こちらに出てきてようやく育ったって感じだもの。


 育ってからはカルラとお風呂で遭遇したり、アストレアの下着が見えたり、マリアンヌで悪い妄想をしたりで補っているのだ。えっちなねーちゃんと遊びたい気持ちを抱えて早五年、未だに夢は叶いそうにない。


「う、馬小屋……それって大丈夫なの?」

「伊達に虐められてたわけじゃない。あれはあれで楽しい生活だったぞ」


 もちろん治ってない傷による激痛と発熱と環境の悪さのトリプルコンボを楽しんでいたが、そんな事は言わない。


 マリアンヌ達と同じか、それ以上にドマゾバレしてはいけないのがこの二人だ。


 だって普通に気持ち悪いじゃん。

 師匠にボコボコにされる代わりに気持ち良くなるのが好きで修行してました、強くなるのは二の次でしたとか。アリアの特別と俺の特別は違ったんだよ。バレたらその場で殺されてもおかしくはない。


「はは、あれだけ厳しい日々を過ごしたフィンがそのくらいの環境でへこたれるわけもないか」

「いや、それ全然喜べないでしょ……」


 アストレアの姉ことアリシアさんがそう呟く。


 なんて常識的なんだ……

 そうなんだよな、普通はそう思うよな。

 恐らく俺のガキの頃の話を聞いてるんだろう。多分ドン引きしてると思う。俺はあの日々を最高だったと思っているが、同時に他人から見ればおかしな行為だと自覚している。

 自覚しているうえで受けいれているのだ。

 そこが常識の有るドマゾの所以だな。


「ま、今ではいい暮らしをしてるみたいだが……」

「……そうだよねぇ。えっち。すけべ。このこのっ」

「おぼふ」


 背負ったアリアがぐりぐり両頬をこねくりまわしてくる。


 く、くそっ! 

 一体どうなってやがる? 

 昔はあんなに内気だったアリアがこんなスキンシップを……!! 許せん!! 絶対旅の途中で自分が可愛くて巨乳で魅力的だと言うことに気が付き数多の男をひっかけて遊んできたんだ!!! 俺にはわかるっ!! 


 ハァッ、ハァッ、幼馴染が、勇者として讃えられる幼馴染が女としての魅力を自覚して男を弄ぶようになって、その原因は旅の途中で経験豊富になったから……!!? 


 うっ……これはいけない! 

 いけない気持ち良さだ! 

 両頬を動き回る手のしなやかさ、背中に当たるむにっとした感触ッ、ふとももとおしりの感触……!! 


 落ち着けぃ!! 

 相手は幼馴染であるぞ! 

 それなのに興奮ばっかりして、恥ずかしくないのかよ! 


『きも』


 ま、マリアンヌッッ!!!! 


「……で? 実際、どうなんだ?」

「……どう、とは?」

「とぼけなくていいよ。誰が本命だ?」


 ニヤニヤした顔で師匠が聞いてくる。


 あー……

 これはあれか。

 マリアンヌか、カルラか、アストレアか。

 誰とそういう関係なのかを聞かれてる訳だな? 


 この女ァ……! 

 俺が童貞だと知ってのことか! 

 誰にも相手されてないんだが! それなのに娼館もいけない寂しい男なんだが!? 恋人はモンスターと右手だよ! 


「え、三人じゃないの?」

「……ハイエルフの常識はどうなってるんだ? フィンがそんなことするわけないだろう」

「い、いや、だって英雄ってそういうものでしょ!?」


 ギクギクギクッ!! 


 べ、別に三人全員に恋愛感情を抱いているわけでもないからアリシアさんの言うことは的外れなんだが、全員を性的対象及び興奮する対象として見ていることは間違いない。


 そう言う意味では全員だ。

 中々勘が鋭いな……流石はハイエルフの姫。

 アストレアもたまに妙に勘が良くなるから、やはり警戒するべきか。ドマゾバレだけは避けないと……! 


「ぜ、全員……!? 夜な夜な……!? あ、あわわわ……」

「違う。やってない。本当だ、信じてくれ」

「で、でもフィン、なんか女の子に慣れてるし……」


 そりゃまあ、一緒に暮らしてんだから女にだって耐性くらいできるだろ。


 頭の中での妄想と現実は別物なんだよなぁ。

 それをしっかり弁えて生きる、マゾ充の秘訣だ。


 だがしかし、この背中にあたるむっちりとした感触は紛れもなくアレ。

 これが現実これは現実これこそが現実……! 


『やかましいぞ、ドマゾ童貞』


 カルラ、それはちょっと言いすぎ。

 もう少し強めに、あとできれば俺を柱に括りつけて剣で斬りながらもう一度頼む。


「というかそもそも三人どころではないじゃないか。第二王女を囲んだんだろう?」


 耳が早ぇ~。

 つい先日のことなんだが、師匠は当たり前のように知っている。

 さっきの発言的に俺のこともちょくちょく聞いてたっぽいけど、それならちょっとくらい手紙出したりとかしてくれてもいいんじゃない? 


 俺は普通に寂しかったよ。

 放置されて気持ち良くなってもいたけど。


「第二王女は親しい友人が居ると聞く。その誰もがあまり恵まれない貴族で、なおかつ冒険者活動も行っているとか……私としては、貴族はあまりオススメしないよ。柵が多いし、教育の差が大きすぎるからね」

「それくらいはわかってる。俺は所詮農家の息子だ。身の丈に合った生活で良い」


 本当にな。

 今の生活がどれだけ最高なのか力説したいくらいだ。

 特定の相手と結ばれる以前に娼館で童貞捨てるくらいはさせてくれ。いや、普通に。これで誰かが『実はこの人とお付き合いしていて……』って言って来たらもう俺その場で爆発するぞ。


「……つまり、フィンはお相手なしってこと?」

「…………そういうことになる」

「へえぇ、ふぅん、ほ~~ん」


『相手も居ないんだぁ、童貞さんかわいそ~』

 幼馴染の勇者はそう言いたげな声で俺に身体をくっつけてくる。俺が童貞だと知って揶揄っているのだ。


 クソッ、公衆の面前だぞここは! 

 何を考えてやがるッ!! 

 やばい……! 

 下半身に力が集まっている! 

 落ち着け俺! 

 闇のマリアンヌッ、助けてくれ! 


『魔よ、消えろ』


 問答無用すぎだろ……!! 


 いくら俺がドマゾでキモいからって、言っていいことと悪いことがある。


 おのれ、闇のマリアンヌッ! 

 もう少し強めに罵ってもらえますか? アリアの煽りと一緒にね。勇者と聖女、二人に否定される俺……! 流石に罪深すぎるか。


「……え。うそ、こんな露骨なのに気が付いてないの?」

「昔からそうなのさ。それでいてたらしだから、私の手には負えない。だからこそ、フィンらしいと言えるんだけどね」

「……あなた、歳の差考えた方がいいわよ」

「はっはっは。い、いや、なんのことやら」

「…………本当に大丈夫かしら?」






 マリアンヌは家に戻り、リビングで一人俯いていた。


 何度も何度も衝撃を受けたせいで身体を動かすことができない。


 愛する男の過去。

 愛する男の身内。

 愛する男を、愛する女の登場。


「………た……」


 勇者と天星。

 明らかな好意と、自分には割り込めない関係性を見せつけられた。


「…………られた」


 第二王女達の、警戒に値しない程度のアプローチどころではない。


 自分達では入り込めない特別な関係性を構築していた女の登場に加え、拒否できない条件での強制依頼による連行。


 帰ってこれるのか? 

 自分たちのもとに、彼は戻ってくるの? 

 きっと戻ってくると信じたい自分。

 戻ってこないと告げる冷静な自分。

 その二つがせめぎ合い、マリアンヌは頭を抱え、杖を放り投げて地べたに座り込む。


「…………とられたとられたとられたとられたとられたとられたとられたとられたとられた。わたしのフィンさんがわたしたちのフィンさんがとられたとられたとられたとられたとられた…………」


 その瞳に光はない。


 そして、長い時間そうしていたかと思えば、彼女は突然立ち上がった。


「…………取り戻します。私たちの、私のフィンさんを……」


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