4-3
◇
それからの日々も、変わらず俺達は黄昏の国へ訪れていた。が、死にそうになってる命の姿は見つからず。
そうして、数日間何も見つからない日が続いた。
そりゃあまぁ、生死の境を彷徨うなんて事がそうそうあってたまるかって話で、そんなポンポン見つかるわけないってのは当然なんだけど。
気が付けば、もう夏休みは二週目に突入していた。
夏休み十五日目。今日も日課のように黄昏の国に訪れた俺と野田さん。ちなみに今日は散歩当番が親父な為小次郎はお留守番。
「そういや、空がまた野田さんと遊びたいって言ってたぞ。」
「ほんと?やった。じゃあまた遊びに行くね。」
いや、
まぁ俺という丁度良い玩具が必要なんだろう。諦めろ陸よ。
今日俺たちが散策しているのは、これまた駅前にある大きな商業施設。
人っ子一人いない施設の中を歩いてると、まるでこの世が終わった後の世界を見ているかのような錯覚がする。
「…ここの商品って、盗んだら犯罪になるのかな?」
「…分かんねぇけど、良心がやめとけって言ってるからやめとこう。」
店員のいない雑貨屋の前を通ってはそんな雑談を交わす。
…結局今日も空振りかな。あと数分だけ散策したら、今日のところも引き上げるとするか。
そんな事を考えていたら、ふとこの物静かな施設の中に何かの声が響いている事に気付く。
「…泣き声?」
そう呟いた野田さんは、その声がする方へ歩いて行く。
うん…確かに、シクシク泣いてるような声が聞こえる。歩く度にその声は大きくなり、そして並ぶ店の角を曲がった時──その先に、一人の男の子を見つけた。
男の子は、見た感じ小学生低学年くらいの幼さ。その子は目元を指で擦りながらシクシク泣いていた。
「どうしたのボク?何かあった?」
野田さんは側まで寄って、同じ目線まで膝を曲げる。そうすると男の子も俺達の存在に気付いたのか、その目をこちらに向けた。
「…お、お母さん…見つからなくって…」
涙を啜りながら、言葉を紡ぐ男の子。
「…迷子になっちゃって…そしたら、暑くって…気付いたら、だれも、いなくなっちゃって…!」
途切れ途切れに、部分的な情報を口にする。けど、それだけ聞いても意味不明。俺は野田さんと顔を見合わせる。
「…迷子になったのは向こうの世界の話で…その後、"暑さ"が原因で意識を失ってこっちに来てしまった…ってことか?」
「…ぽいね。暑さ、ってことは…熱中症?」
と野田さんは口にするも、あんまりしっくりこなくて首を傾げる。
…日が沈んでないにしても、今は夕方。そんな熱中症って時刻でもないけどなぁ…いや、そりゃ夕方でもそういう事はあるんだけど…。
「この商業施設で倒れたんだとしたら、絶対誰かがそれを見つけるハズだよね。」
「確かにな。…誰かに見つかりにくい場所で、死にかけてるって事か…?」
それを言葉にして、今更ながら洒落にならん事態なんじゃないかと焦り始める。
とりあえず俺も同じように屈んで男の子に問いかけてみる。
「なぁ、君は迷子になった後…どこへ行ったか覚えてるか?ほら、お母さん探しにどこか…サービスカウンターとか、迷子センターとか…」
「…さーびすかうんたー?」
…うん、分からんよな。が、男の子は思い出そうとしてくれているようだ。
「…お母さんがいなくなって…どこにいるのか分からなくて、僕…屋上でまつことにしたんだ。」
「…屋上?」
男の子の言葉に野田さんと二人して首を傾げる。…屋上って、なんかあったっけ?
「お母さんも、そこに帰ってくるはずだから。だから僕、先に中で待ってたんだ。…そしたら、暑くなって…寝ちゃって…気付いたら──」
男の子がまたよく分からない断片的な話をする。が、最後まで聞くことなく突然野田さんは立ち上がる。
それから、男の子の頭をよしよし撫でた。
「じゃあ、お姉ちゃん達がお母さん呼んできてあげる。君はここで待ってて。できる?」
「…うん。わかった。」
物分かりのいい男の子はそれに頷く。それを見届けた野田さんは、突然踵を返して走り出す。焦って俺も、それに続いた。
「ちょっ、野田さん!?男の子がどこで死にかけてんのか分かったのか!?」
「うんっ!早く行かなきゃ、手遅れになっちゃう!」
◇
鳥居を潜った俺達は、そのまま駅前の商業施設へと駆け込んだ。
黄昏の国での光景とは違い、夏休みという事もあり施設内は人が多い。
そんな中を二人で走り抜け、俺達は施設の屋上…駐車場へと向かった。
この商業施設の駐車場は立体駐車場だが、1番上の施設屋上も駐車場として開放されている。
そこは屋根もなく日差しをモロに浴びる為、あまり利用者は多くないが…今日みたいな来客数の大い日なんかは安定して空きのあるここをあえて選ぶ人もいる。
その屋上駐車場に辿り着いた俺達は、急いで停まってある車の車内を見て周る。
それほど数は多くなかったから、"それ"はすぐに見つかった。
「──いた!!」
野田さんが声を上げた。俺も急いでそこへ駆けつける。その車の窓から車内を覗くと、中でさっきの男の子が後部座席で倒れていた。
窓を叩き割ろうとしたけど、ドアを引いたら普通に開いた。鍵は閉めてなかったようだ。
そうして、俺達は車内から男の子を救出したのだった。
◇
…その後、救急車を呼び、館内のスタッフに事情を説明して…男の子の母親はすぐに見つかった。
そのまま病院へ搬送されたけど、その間に意識は戻ったようで…とりあえず、一命は取り留めた。
どうやら男の子は母親とはぐれてしまってから、車の中で待っていれば母親が帰ってくると思っていたようで…しかも間が悪い事に、車の鍵も閉め忘れていた為男の子は簡単に車内に入れて…で、そのまま熱中症により意識を失ったみたいだ。
駆け付けた救急の人に聞いたところによると、日の落ちた夕方付近でも車内での熱中症というのは依然としてあるらしい。
その後、男の子の無事を教えてくれた彼の母親から、しんどいくらい感謝と謝罪をされて…なんか滅茶苦茶疲れた1日となった。
でも、救えた。また、救えた。俺達は確かに、命を救った。
それが、成功体験として俺達の照らす道を明るくさせた。
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