第四話 コメディな家族だね
4-1
夏休み九日目。
その日の朝、山吹家は慌ただしかった。
朝早くから俺は家中の掃除をして、珍しく空もそれを手伝う。
そんな二人の様子を眺めているのは、尻尾を振ってお座りしている小次郎と…朝食後のコーヒー飲んでる出勤前の親父。
「…何してんのお前ら。ちょっと早めの年越し準備でもしてんの?」
「だとしたら息子らの頭もっと心配しろクソ親父。」
んなわけねぇだろ、新年よりもとんでもねぇ
昨日、野田さんから"家行ってもいい?"と言われてしまった。で、妹の空とそれはそれは長ーい家族会議の末…翌日の今日、野田さんを家に招く事となったのだ。
「おにぃ!ちゃんと自分の部屋も掃除してよ!?あの女の事だから、しれっとおにぃの部屋入って髪の毛拾うつもりだよ!」
「いや黒魔術師か。」
なんの儀式すると思われてんの野田さんは?しかし心配ご無用。自分の部屋はいの一番に掃除をしてある。決してやましい妄想などしていない。
「髪の毛ならまだいいけど、陰毛拾われたら終わりだと思いなよ!余生!」
「あんまそのボリュームで陰毛とか言わんでくれない!?」
確かに拾われでもしたら終わるけど、余生!
そんな俺らのやりとりをポケーっとアホ面で眺めてた親父は、納得したかのように手を叩く。
「あぁ、あの嬢ちゃん来んのか。やるねぇ陸。」
で、クソ親父は息子弄りに勤しむ。早よ仕事行け、存在が
「浮いた話の一つもなかった息子がいつの間にかこんな立派になって…今夜は赤飯炊くか?」
「おめぇ正気か?」
どんなレベルの記念すべき日だと思われてんの?グレるぞ息子?
「ただ親からのアドバイスを一つ授けよう。避妊はしろよ。」
「おめぇマジで正気か!?」
もういいから早よ仕事行けクソ親父ぃ!?
キレる俺に、そこにあったクッションを投げつける空。
「おにぃそんな妄想してたの!?マジキモいんだけど!?一旦土下座して謝ってもらう事出来る!?」
「この場合キモいのは俺なのか!?そんな冤罪許されていいのか!?」
ギャーギャー騒ぐ俺らの
「母さん、うちの陸はこんなにも立派になったぞ…。カワイイ女の子を白昼堂々家に連れ込んでアレやこれやと欲望を暴走させる立派な──」
「おめぇはマジで早よ仕事行けぇぇ!!」
こうして、山吹家の朝は通常よりも2、3倍喧しく騒音を奏でたのだった。
うち、一軒家でよかった。集合住宅だったら近所迷惑待ったなしだったわ。
◇
そして迎えた午前10時。野田さんがうちに訪れる約束の時間。
俺と空はテーブルの椅子に座り、黙ってその時を待つ。
ピンポーン と、インターホンの音が家の中に鳴り響く。途端に俺と空は二人してガタンと音を鳴らして喧しく立ち上がる。
寝ていた小次郎もその音で飛び起きて、"ワンワン"と吠えながら玄関へ走って行く。
「こら小次郎、お前はここで待ってろ!!」
「そうよ、狩られるわよ魂を!!」
いやだから野田さんの事なんだと思ってんの妹よ!?
俺たちの制止なんか無視して小次郎は玄関に向かい、俺たちも急いでそこに辿り着き……俺と空は、一度二人して顔を見合わせて、頷く。それから、俺が代表してそのドアを開いた。
「…おはよう、山吹君。」
そうして現れたのは、野田さん。
彼女の姿を見るなり、小次郎は飛び出して野田さんの側でお利口にお座りする。
そんな小次郎に野田さんは"いい子いい子"と頭を撫でてあげていた。
「おはよう、野田さん。どうぞ、上がってくれ。」
俺がそう言うと、野田さんは小次郎と共にドアを潜る。
そうする事で、野田さんは玄関先で仁王立ちする空の前に。
「…ようこそ、野田
で、空は威圧するように腕を組み自己紹介を。警戒心MAXである。そんな空を見て、野田さんはニコリと笑う。
「妹さん…空ちゃんだ。」
と言って、野田さんは空の側まで歩み寄り…そのまま、空の頭をよしよし撫でた。
「ちょっ!?なにを──」
「カワイイ。凄くカワイイ。髪もすべすべで、肌ももちもちで、お目目もくりくりで…全部カワイイ。」
突然の愛撫に空は驚愕し拒否しようとしたが、野田さんはそれをさせまいと空の頭を自らの胸に包み込むようにして抱く。
「あぁ、いいなぁ山吹君。こんな妹がいるなんて、羨ましいなぁ。一生自慢出来るカワイイ妹だよ。」
うっとり、とした表情で、空の頭を抱きながらヨシヨシと撫で続ける。次第に空は抵抗を無くし──
「…ねぇ、おにぃ。」
野田さんに
それから、ゆっくりその顔を上げて野田さんを見上げる空。その瞳にはハートマークが。
「…もしかしてこの人、めっちゃ良い人…?」
…会合して僅か数秒。空は野田さんにメロメロになっていたのだった。早ぇよ陥落が。即落ち2コマか。
◇
とりあえずリビングまで彼女を案内して、テーブルの椅子に座ってもらい…その向かいに俺も腰を下ろす。
「ねぇ
で、陥落した妹はその魔女の隣に座ってベタベタと身を擦り寄せていた。なんでやねん。昨日までのテンションなんだったんだよ。
「ん〜、薬局で売ってた1番安いやつだったかなぁ…ごめんね、商品名は覚えてないや。」
「うわぁ、じゃあ
大変楽しそうに会話の花を咲かせてる
…妹がこんなメロメロしてる姿初めて見たわ。野田さんすげぇ。どんなフェロモンしてんだよ、兵器運用検討されるレベルだろこれ。
「…あの、野田さん。今日は──」
「おにぃは黙ってて、キモい!凪さんに
兄、泣いていいか?フシャーと威嚇するように俺を牽制する妹を見て少しだけ涙が溢れそうになったのだった。
そんな凶暴な妹を、野田さんはよしよしと頭を撫でて
「お兄さんは確かに無料会員の可哀想な人だけど、喋りかける権利くらいはあげないともっと可哀想になっちゃうよ?」
「どんなフォロー?」
俺無料会員だったんだ、泣きそう。ファミレスで結構奢ったつもりだったけど、あの程度では課金のうちに入らんかったみたい。
そんな野田さんのフォロー風ボディーブローに、空は瞳の中のハートを更に増やす。
「あぁっ、凪さんって超カワイイ上に超優しいんですねっ!信じらんない、空入信しちゃうっ!」
入信すんな、多分主神としてんのは邪神だぞその宗教。
どうやら俺という無課金アバターも発言権を得たようなので、俺はコホンと喉を鳴らして再度尋ねる。
「それで、野田さんは今日うちに何しに来たんだ?」
「あっ、うん。夏休みの宿題、答え写させて。」
「想像してたより最低な理由で安心したよ。」
ロマンスもクソもねぇや、チキショー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます