3-4
◇
その後…説明不足感は否めないが、とりあえず婆さんに風呂場へ行ってくれという事は伝えれた爺さん。だから、爺さんは受話器を元に返す。
「…これで、どうなんだ?」
それを問うと、野田さんは首を傾げる。
…助け、れたのか?手遅れじゃなけりゃ、これでなんとかなってくれると思うが。
そのままどうしようかと立ち
「えっ、どした爺さん!?」
爺さんはそのままふわふわとゆっくり天へと昇ってゆく。
「おお!この感覚、わし、目を覚まそうとしとるみたいじゃ!」
と言って、爺さんはそのまま俺たちの手の届かない高さへ。
「すまんの若いの!恩にきるぞ!わしは先に戻るとする!」
…分からない俺たちに一方的な挨拶をして、爺さんはそのまま紙が吹き飛ばされたように天へと吸い込まれていったのだった。
そのあんまりにもアレな光景に、俺は一旦沈黙。
「…向こうで目を覚ました、ってことなのかな?」
「…まぁ爺さんの言葉を信じるならそういうことだな。」
それにしたって、天に召されるみたいな演出だったから死んだみてぇで何とも言えんわ。
ここじゃ確認のしようもないから、俺たちも帰路に着くことにしたのだった。
◇
その後、元の世界へ帰ってから一応…一応爺さんが電話していた番号へ俺たちも電話をしてみた。
出たのはさっきの婆さんで、爺さんの知り合いを装って彼の様子を聞いてみたら…あの後婆さんが風呂から爺さんを引っ張り出して、頬を叩いて水を飲ませて、目を覚ました爺さんは全然いつも通りでケロッとしてたらしい。人騒がせな爺さんだ。
…とりあえず、救出には成功した。それを確認出来たので、一安心。
俺は「ふぅ」と息を吐き出し、野田さんは嬉しそうに微笑む。
「…また救えたね。やった。」
と言って、野田さんは掌を掲げて俺に向ける。それが意味するところは分かるので、俺も同じように掌を差し出して──パンっと音を鳴らし、ハイタッチをした。
…救えた。それが、また自信に繋がる。俺たちは、誰かを救える。
◇
翌日の、夏休み八日目。
昨日、野田さんの連絡先とかいう
"今日のラッキー。私の布団がお気に入りみたい。"
というメッセージと共に、布団で丸まって寝ている黒猫ラッキーの写真が送られてくる。
…そうか。これが野田さんが寝てる布団か。…そうか。テーブルに肘をつき、スマホを眺める。
「おにぃ、キモい。」
そんな俺の向かい側で棒アイスを
「キモいとは何だ。お前の言うキモいは200色くらいあるからどのレベルのキモいかお兄ちゃん分からんぞ。」
「マーブル模様のショッキングピンクが混じった限りなくゲロに近いドブ色。」
「ハイレベルじゃねぇか。」
軽く想像しただけでキモかったわ。
「おにぃさっきからスマホ見てニヤニヤし過ぎ。魔性の女の魔術にやられてんのは分かるけど、それにしたってキモい。」
「魔術って、嫌な言い方するんじゃない。俺はヒーラーに
「
どんな顔やねん。
そうは言っても、あの野田さんからメッセージが送られてきているんだ。破顔して然るべきというもの。
「あぁヤダヤダ、おにぃもキモキモアホチンパンジーになっちゃうのね。キモい顔してキモい想像しながらキモい──」
空が毒タイプのワザを繰り出してる最中、また俺のスマホから通知音が。それと共に、画面には野田さんからのメッセージが表示される。
"私からのメッセージ嬉しい?ニヤニヤしてる?"
…それを見て、俺の表情は"すんっ"と無に。
…この悪女め。男をコロコロして遊んでやがる。
その表情の切り替わりを見た向かいの空が、立ち上がって俺の背後に回りスマホの画面を覗き込む。
「…はぁ!?うわヤバ!?この人ほんとヤバいって、おにぃマジで髪の毛から尻の毛まで
「尻の毛とか言うな。」
兄のありとあらゆる毛の心配をする妹は、俺の座る椅子の隙間に尻を捩じ込んで強引に割り込みスマホを強奪する。
「空がガツンと言ってあげる!!おにぃは洒落にならないタイプのシスコンだって!!」
「おい洒落にならんタイプの誤情報タレ込もうとすんな!!」
一脚の椅子に座る大変仲のよろしい兄妹は、ギャーギャー喚きながらスマホの主導権を奪い合う。
そうしてスマホが互いの手から弾き出され、テーブルの上に転がり落ちる。それと同時に、また通知音が鳴り響く。
"それはそうと、山吹君の家に行ってみたいんだけど、どうかな?"
…俺と空は、取っ組み合った状態のままその画面を見て固まる。……………。
「…妹よ。一旦休戦としないか。」
「…うん。ちょっと作戦会議をしよう、おにぃ。」
互いに顔を見合わせて、兄妹は一時休戦で手を組んだ。
…送られてきたこの
それからの山吹家は、この爆弾処理に多大なる時間を費やした事は言うまでもない。
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