3-2
◇
午後。俺は野田さんと共に、非常に色気のないファミレスへ訪れていた。
…デート、なのか?いや、ファミレスだし…デートじゃない、か…?
分からん、俺の人生に"デート"というイベントは未実装だった為判断できん。
「ドリンクバーと、このサラダと…あっ、エビのドリアだ。ハンバーグも食べたいなぁ…ポテトも注文しよっか。」
やや緊張気味の俺なんかとは対照的に、野田さんはテーブル備え付けのタッチパネルでぽんぽんとオーダーを送信していく。
…結構食うんだなこの子。口に出して言うのは失礼か?うん、やめとこう。
「あとマルゲリータピザと、カルボナーラもいいね。パフェはチョコレートのやつかイチゴのやつか迷うなぁ…どっちも注文しちゃおっか。」
「いや結構食うな!?」
失礼だけども口に出たわ!!化け物みてぇなオーダー量的にデートじゃない気がしてきた!!
俺のドン引き混じりのツッコミに、野田さんは可愛らしく首を傾げた。
「育ち盛りだし?」
「いやそれにしたって、いくらファミレスでも結構な金額になるぞ。」
「心配ないよ?今日は山吹君の奢りでしょ?」
「初耳だが!?」
当然でしょみたいなテンションで言われたけど何で!?てか奢られる気ならそれはそれで狂ったオーダー量だわ!!相手への思いやりが微塵もねぇ!!
そして今確信した、これは絶対デートじゃねぇ!!
俺の至極真っ当なリアクションに、野田さんは怪訝そうな顔をする。
「えっ、でも、他の男の人は私に奢れるってなると喜ぶよ?ありがたくない?」
「倫理ッ!!!」
ネジがー!!ハマってなきゃいけない部分の頭のネジが緩々だよこの娘ー!!
有り難くねぇし仮に有り難かったとしてもそれは奢られる側の台詞じゃねぇわ!!
◇
で。それらのオーダーがテーブルに到着し、俺の眼前には誕生日パーティーみたいな光景が広がっていた。
「いただきます。」
と行儀良く手を合わせて、野田さんは食事を始める。熱々のハンバーグを頬張って、ほっこり幸せそうな顔になる。
…野田さんのこういう一面が観れる鑑賞料って事で、一旦俺も諦めよう。色々。
「…てか野田さん、いっつもこんな感じで男に奢らせてんのか…?」
今日俺が食事に誘われた理由が"それ"なのだとしたら、野田さんはとんでもない青春泥棒の常習犯って事になる。
問われた野田さんは口のものを飲み込んで、"んー"と可愛らしく唸る。
「…しつこい男の人には、奢ってもらうだけ奢ってもらってポイってしてる。」
「もしかして野田さん、
悪魔にしか見えんくなってきたが?
…まぁ野田さんは自身の"可愛さ"を自覚してる女だし、一応男にしつこく絡まれてる側の被害者っちゃあ被害者だからギリギリ許される所業なのかもな。それにしたっていつか刺されそう。
「でも、私から誘ったのは山吹君が初めてだよ。」
「…え?」
と言われ、ドキッとして野田さんを見る。彼女は"きゅるん"とした瞳で俺を見て──
「…いや、もう今日は俺が奢るから。そういうのいいって。」
「あれ、今のは打算抜きだったんだけどな〜。」
…だとしたらタチが悪い。打算的であれ。惚れてまうやろ。
野田さんは食事を頬張るのを再開して、俺もとりあえず皿に盛られたポテトをつまむ。
「私、一人であんまりこういうお店入らないんだ。」
そうしてると、野田さんは食事の合間に話し始める。
「だから、気になる期間限定のメニューとかあっても…いつの間にか終わっちゃうの。一緒に行ってくれる人、いないから。だからたまにこういうお店来たら、ばくばく食べちゃうの。」
と言い、その通りばくばくご飯を口に運ぶ。フードファイターばりの食事シーンなのに、可憐さと美しさに
「…それにしたってな量だと思うけどな。」
「いっぱい食べる女の子って可愛くない?」
まぁ可愛いが。可愛いがその"いっぱい"の量が文字通り大量だとやや恐怖が勝つんだよ。
◇
それから、もりもり食べる美少女を眺めてること数分。
野田さんがデザートのパフェに手をつけ始めた頃、思い出したように野田さんはその話を始めた。
「黄昏の国にいる命って、助けられるってことが分かったよね。山吹君のナイス活躍で。」
それは、黄昏の国の話。生と死の狭間に迷い込んだ、あの白猫。それを救えたということが、どうやら野田さん的に思うところがあったようだ。
「だからさ、私たちでそういう命を探してみようよ。それで、助けよう。」
で、そんな事を提案する。無表情である事が多い野田さんだけど、この時ばかりはその瞳がキラキラ輝いていた気がする。
「…まぁ、それが出来るんならそうしたいよな。」
「でしょ?大賛成みたいで安心した。」
"大"賛成は言い過ぎだが。ただ、元はと言えば俺があの白猫を救おうと動いたのが始まりなわけで。
その俺が、野田さんのこのやる気に賛同してやらないのは違うよな、とは思う。
やれやれ、と笑う。向かいの野田さんは手元のパフェをスプーンで掬う。それから、そのスプーンを俺に突き出した。
「賛同してくれたご褒美に、あーんしてあげる。」
…で、そんな火力高い言葉を発した。
いや、いやいやいや。尻込みしていると、その俺の口に野田さんはほぼ無理矢理にスプーンを突っ込んだ。
そうして行われた、美少女からの"あーん"は…嬉しさとかよりも、恥ずかしさの方が勝るという感想。
「…どう?嬉しいでしょ?」
「…いや、このパフェも俺の奢りだし。」
「私は"パフェを分けてもらえた"という事じゃなくて、"私にあーんしてもらえた"という体験の感想を聞いてるんだよ?」
…いや分かってるけど。分かってるからこそ、そこは誤魔化させてくれ。本当に、気を抜くと沼に
「…あっ。でも惚れちゃダメだよ?振るからね?」
「………。」
…うん、この沼、強酸性だわ。
◇
「おにぃ。空は今、非常に不愉快です。」
家に帰るなり、空が玄関で腕を組み仁王立ちをして出迎えてくれた。うん、確かにとても不機嫌そうな顔だ。
「そうか。じゃあ俺部屋行くから──」
「"そうか"じゃない!!理由を聞きなさい!!」
うわ面倒くさ。こうなっては絡んでやらねば不機嫌が延長されるので、諦めて理由を聞くことに。
「…なんで不愉快なんでしょーか。」
「なんでしょーかじゃないでしょーが!!おにぃまたあの野良猫さんと一緒にいたって!?しかもデートしてたって!?」
それを問い詰められ、思わず表情を引き攣り図星を突かれた顔に。
「さっきガッ君から連絡あったの!!おにぃが野田
「あいつか…。」
空の言う"ガッ君"とは、
「なんなのおにぃ!?いつの間にそんなアオハルしてたの!?おにぃの青春って全く
「
意味分からん造語で兄を小馬鹿にするな。やや否定し切れないから厄介なんだよ。
「空、あの人嫌だ!!あの人絶対自分で自分の事カワイイって思ってるヤバい人じゃん!!」
「おめぇもそうだろうが誰が何言ってんだ。」
と言って空は大変ご立腹の様子で俺をポカポカ叩く。
…まぁ、自分で自分の事カワイイって思ってるヤバい人ってのは、正解ではある。
そしてそんなヤバい人と…今日もまた、夕方に会う約束してるって事は…内緒にしておこう。
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