モブ転生した俺の曲に、学園一の美少女が反応しました。

ふるーる

第1話 転校生(転生)

季節は夏。

どこか現実とは少し違うような、妙に鮮やかな朝の光が差していた。


久遠逢人は、校門の前で足を止めた。


(……マジか。本当にここ、あのライトノベルの世界じゃん)


気づいたのは、転校手続きの日に前世の記憶を一気に思い出した瞬間だった。

大学生だった自分が事故で死んで、この世界に転生したこと。

そして──


(よりにもよって、“あの”ライトノベルの世界かよ)


妹におすすめされたライトノベル。

恋に落ちるとヒロインが猫みたいに甘々で" 天使 "として有名なやつだ。

逢人自身は詳しくないが、登場人物の顔と設定だけは覚えている。


さらに最悪なのは──


(俺、この世界だと“高2の夏休み前に転校してくるサブキャラ”なんだよな)


攻略対象でもメインでもない。

しかも、当時ネットでは読者から、


「なんかありそうで何もない転校生キャラ」

「フラグだけ立ちそうで立たない。肩透かし」


そんな理由で軽く炎上したモブ扱いのキャラだった。


(このままだと、また“何も起きませんでした”で終わるんだよな……)



逢人は深呼吸し、教室の扉を開いた。


一瞬で教室の空気が変わる。

視線がいくつも集まる。


転校生というだけで目立つのに、逢人は見た目だけなら“美形”に分類される。

だが髪が少し長く、表情が読めないせいか、クールで近寄りがたい印象が強い。


担任の紹介が終わり、窓際後方の席に案内される。


席に着いたその瞬間──

前の列、斜め横の少女と視線がぶつかった。


白鷺 澪。


(うわ……本物だ)


作中のメインヒロイン。

透明感のある美しさで、男子からは常に視線を浴びる存在。


だが逢人は知っている。

彼女が男性に苦手意識を持っていることを。

声をかけるどころか近づくのも悪手だろう。


(俺は“何も起きなかった転校生キャラ”……この子に関わったら作品崩壊どころじゃない)


そう思い、さりげなく視線を外す。


この世界の人間は自分が作品の中の登場人物であることを知らない。

知っているのは逢人だけだ。

だからこそ、うっかり誰かのルートを狂わせるわけにはいかない。


──はずだった。


帰りの廊下で、突然声が飛んできた。


「久遠だよな?俺、宇城伊織! サッカー部。よろしくな!」


明るく、悪気のない笑顔。

逢人の記憶にある“主人公の親友ポジション”。


(……こいつと仲良くするのも、本来のルートだと問題ないはず)


「よろしく」


短く答えた瞬間、

世界が少しだけ“作品通りじゃない方向”に動いた気がした。


逢人はまだ知らない。


この転校で、

“何もなかったはずの炎上キャラ”が、

誰よりも物語の中心に踏み込むことを──




****

こちらの作品も読んでくださると嬉しいです。


勇者は気付くだろうか—俺はただ影に徹する—

https://kakuyomu.jp/works/822139840715260141


文明値という禁忌の力〜9999の少年は世界を作り変える

https://kakuyomu.jp/works/822139840830174922

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