広告代理店『きおくの都(みやこ)』

更慧整

第1話

 きおくのみやこ

 広告代理店名である。

 網湖あみこ乃斗治のとじは、そこの事業所、課長補佐・・・・・・木野きの春希はるきとは大の仲良しで5年以来の付き合いがあった。 

 付き合いはあったが5年が過ぎれば付き合いは次第になくなっていた。


「もしもし、あ、きおくの都のポスター宣伝担当の木野課長補佐ですか? あ、はい、きおく冬の里観光促進期間が終了したので返還いたします」


 業務内容が携帯電話から外部もれしていて、鉄道乗務員が話しかけていた。

 まさか、そこの乗務員室そばの車両を降車客に、乃斗治が仕事の帰宅中だなんて知りもしなかった。


「車掌さん、その電話の相手、木野って人、木野春希さんじゃ?」

「業務取引相手なので、お教えできません。申し訳ございません」 


 外部からの客の声が漏れたのを聴取できたのか、春希は、車掌に質問しだした。


「鉄道客にわたくしの知人と思われるような声がありましたが、トラブルですか?」

「あ、もしもし・・・・・・い、いえ個人情報を持ち出しを打ち消したのですがね。個人の受け答えにおきましては、業務外行為なのでお取付けをお断りしていたところです」

「業務外でも相互の連絡手段がなくなっていて、それもこのような偶然なんです。どうかその方と繋げてほしい。可能でしょうか?」

「しかし、業務取引は遂行しなければ、管理局長にわたくしが注意勧告受けますので」

「そこの所、うまくごまかしてください」


 業務用携帯電話を受け取った乃斗治。取引相手と取り次いだ。


「あ、もしもし、代わりました」

「おー! やっぱり網湖くんじゃないか。お久しぶりだね」

「えっ、木野さん、お仕事の電話中なのに、私用連絡はマズいんじゃ?」

「久々だから、いいんじゃない? そうだ、僕の一存で、廃棄用ポスターやるよ。君のウチ、テナントとして壁紙貼りしてもいいよ」

「廃棄用のポスターって駅構内のですよ。じぶん、そういう広告ポスターは勝手に持ってけません」

「所有者の代理店が言ってるんだ。問題ない。課長補佐でも取り扱い権利あるから、わたくしの一存で讓渡できるのだよね」

「そんな、しがない一般会社員が広告ポスターをもらうなんてできませんって」


 乃斗治は、車掌にことの内容を詳しく説明し、ポスターの讓渡の件で相談してみせた。


「木野課長補佐の一存・・・・・・そんな軽い判断での交渉で一般人に渡すなんて、社会的に理解不能です」


 車掌は、携帯を耳にあててもう一度交渉しだした。駅員としての義務を果たすという事で、彼はシビアに受け答えた。


「個人間の交渉で広告内容の著作権問題の発生もあります。木野さんには申し訳ないけども、こればかりはご理解いただきたい」

「車掌さんには申し訳ございませんが、そこのポスターをいただきますね。許可は得てるので。それでも、讓渡が違法なら、じぶんは木野さんのいる広告代理店に今からこれ持っていって直で交渉してきます。車掌さん、それじゃ失礼しますね」


 と乃斗治は勝手にポスターを取り出してきおくの都広告代理店へと向かっていった。


「ち、ちょっと・・・・・・お客さん!!」


 1時間36分で、現場の代理店に到着した。

 乃斗治は、携帯のフォトアルバムという画像保存ページに写ってる自身と春希の並んだ画像を宿直スタッフにチェックしてもらい強引ついでに受付カウンターに取り次いで、彼との接触に間に合わせた。


「なんでわざわざ?」

「車掌さんがシビアで讓渡してもらえなかったんで、強引にポスター取って、直に許可もらおうと、交渉しにきたんだよ」


 二人のやり取りを目撃した広告代理営業部長、藤原ふじわら有次ありじが尋ねた。


「ふかい事情は知らんが期限切れの駅構内ポスターを持ち出しこちらまで来て返還ならまだしも、讓渡が目的だとう交渉に思えるが?」

「藤原部長、そうなのですが、やはりマズいですよね? 個人間のやり取りですから」

「まあ、広告代理店の堅い掟ならば、違法として取り締まる流れだな。木野君のお知り合いの方かね、そこの人は?」

「あ、はい、部長」

「そこのキミ、持ってきてくれてありがとうね。これは掟によってシュレッダーにかけられるから、それでいいね」

「あ・・・・・・はい、そうなのですね。わざわざこの一般人のじぶんがお送りしまして大変恐縮です」

「まぁ本来は、民事で簡易裁判所の案件だが、わたしの眼鏡にかけて免じよう。今後からはご自分の勝手な判断で動かないように判断してもらいます。さ、夜も遅いから帰りましょう」


 再会を兼ねた乃斗治と春希の二人は、連絡先をメモした。

 そうして、携帯電話やメール等のやり取りで、暇な時に交渉しあうことになった。

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