第4話 黒剣、収容領域より

 次の実技試験は、“攻撃魔法の威力測定”。

 標的となる魔石ゴーレムに対して、最低でも一定以上の破壊力を与えなければ不合格となる。

「受験番号七一番、ノア=アークライト。前へ」

 静まり返った会場に、再びノアの名が響く。

 周囲の受験生がざわめくのは、もはや恒例になりつつある。

「今度は攻撃だってよ」

「適性ゼロの奴がどうやって……」

「さっきのライトも何か裏があるよな」

 ノアはステージ中央に立つ。

 目の前には、高さ三メートルの魔石ゴーレム――学院の受験では定番の“耐久試験用標的”だ。

(攻撃魔法……普通にやれば絶対無理だな)

 魔力ゼロのノアでは、炎も雷もまともに撃てない。

 しかし、ノアには――

(……収容庫を少し“だけ”開くか)

 視界の裏側で、黒いページがゆっくりと捲れる。

 数多の“異常”が囚われている収容領域。

 その中から、ノアは一つの存在に意識を伸ばす。

 ――SCP-076-2

 封印された戦闘特化個体 “アベル”。

 その武装黒剣は、彼の象徴であり、殺戮の道具。

 もちろん本体を解放すれば会場どころか街区が壊滅する。

 だがノアは、個別収容した“装備だけ”を限定抽出する。

(武器単体なら、出力を抑えれば……バレない)

 ノアは小さく息を吐く。

「――解放SCP-076:Black Blade / 限定展開

 音もなく、空間が“裂けた”。

 一瞬、闇の爪が世界に触れたような錯覚。

 そこから、漆黒の刀身が姿を現す。

 観客席のざわめきが止まる。

 試験官の視線も、わずかに色を変えた。

「な……物質創造? いや、あれは魔力反応が……異質だ」

(ダメだ、あまり見られると面倒だ。さっさと終わらせよう)

 ノアは黒剣を軽く握り、ゴーレムに向ける。

 本来はアベルしか扱えないはずの剣。

 だがノアの収容解放は、“異常を異常のまま扱う”ことを許す。

「――これで十分だ」

 一閃。

 風が遅れて追いかけてくる。

 次の瞬間、魔石ゴーレムの胸部が斜めに裂け――

 巨体が静かに崩れ落ちた。

 会場が凍りつく。

「……解析不能。威力測定不能レベルです」

「な、なんだあの斬撃……魔力の形跡がほとんどない……?」

「剣……?魔法じゃなくて……?」

 ノアは慌てて黒剣を収束させる。

 刀身は影へと還り、空気に溶けるように消えた。

「……合格。次の試験へ進みなさい」

 試験官が絞り出すように言う。

 誰もがノアを“何かがおかしい”と察し始めた。

 だが、その視線の中でも――

 リア=エルファリアだけは、まるで別のものを見るように目を細めていた。

(今の……魔術じゃない。なんだ、それは……?)

 興味と警戒が混じった、鋭い視線。

 ノアはその視線を感じながらも、何食わぬ顔でステージを降りた。

(さて……そろそろ隠すのも限界が来るかもしれないな)

 ――こうして、ノアの異常だらけの学園生活は、ますます波乱の幕を開ける。

―――続く―――

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