第4話「正義のギルド」

 誠たち4人PTは、首都ミラディの北西にある丘陵地帯に来ていた。


 過ごしやすそうな上天気で、緑も映えるMAPだが、裏腹にモンスターは強力な物も多い。


「そろそろ、オーガ辺りに挑んでも大丈夫でしょう」というエルミーナの言で、ここを狩場に選んだのだ。


 丘の上で、巨体でズシン、ズシンと歩くオーガの姿を見つけると、LV17となった誠を筆頭に、平均LV15となったPTは、これを倒すべく準備にかかる。


「アタックLV2!」誠のATKが+15追加されて、


「コンボUP、LV2!」さらに誠のコンボ数が+2される。


 リフレ、レザリアの支援を受けて、誠は、オーガと間合いを詰めにかかった。


「スラッシュソバットLV1!」


 バキイッ!!


 突進しての弧を描く蹴りの「スキル」が決まり、ノックバックしてふらつくオーガ。が、すぐに立ち直り、オーガは巨大な棍棒を振り上げて、誠を狙う。そこに杖を掲げたレザリアの魔法が飛ぶ。


「ストップタイムLV1!」オーガはこれでごく短時間だが時間停止状態に陥った。時魔法使いのレザリア独特の魔法だ。


 そこにすかさず5連コンボを叩き込む誠。


 フッ、ハッ、テイッ、トリャ、「パワーフィストLV2!」


 バキッ!ベキッ!ガス!ゲシ!グシャア!!


 左右の拳を打ち込んで、前蹴り、上段蹴りをかますと、突進スキルの「パワーフィスト」を胴に深々と叩き込み、オーガは「ストップタイム」が切れると同時に崩れ落ちるように倒れて、セル状になり、かき消えた。


「相変わらず凄いコンボ…。私の出番がなかったです」


 エルミーナが半ば感嘆、半ば呆れたように言う。


「味方の支援のおかげだ。エルミーナの回復魔法は、いざという時に温存してもらわないと困るからな」


 誠は続けて「これでクエスト達成だ。さあ、ギルドに戻ろうか」といい、PTは首都ミラディの街に帰還した。


                     ☆


 ここで話は少しさかのぼる。首都の賑わいを見せる酒場にて、隅の一角のテーブルに陣取って、作戦会議めいたものをする誠たちPT。


「EXPは入るけど、GPってなかなか入らないですね」


 青いとんがり帽子を手で整えてリフレが言う。レザリアも疑似エールを飲む手を置いて、それに答える。


「報酬GPは、クエストを受けないと入らないけど、どこかのギルドに入らないといけないのよね。どうせ入るなら、いいギルドさがさないといけないわね」


「そうねえ…」


 エルミーナが、形のいい顔を曇らせて、少し考える素振りをみせる。そして、何か決心したようにPTに提案する。


「私の元キャラがいたギルドはどうでしょう?「ロウライフ」っていうんです。いい人も多いですし、下手なギルドに入るよりは、よほどいいと思います」


「私は構わないですよ。エルミーナのいたところなら、悪くなさそうだし」

「私も問題ないわ。こういうときは、ベテランの意見は聞かないとね」


 リフレとレザリアの二人が乗り気なので、誠は、一応慎重に言葉を選んでエルミーナに聞く。ギルドに入るとなれば、長い付き合いになるため、ある程度の情報は把握しておきたいのだろう。


「そこのギルドのトップは信頼できる人物なのか?まあ、お前が推薦する時点で大丈夫だとは思うが」


 エルミーナは、少し誇らしげに断言する。


「そこのギルドマスター、女聖騎士リティアは私の元知り合いです。信用はもちろん正義感が強くて悪事には手を出さない主義ですし、逆にこちらが何か悪事をすると、ギルド強制脱退ものです。ともかく、ここは私に任せてください」


                    ☆


 そして次の日、ログインして合流した誠たちは、首都ミラディの一角にある、綺麗で新しい佇まいの洋館-「ギルド」ロウライフの本部-に入ると、茶色の内装の洋館内で、広間にある受付カウンターの女性に用件を告げた。


 シルヴィアと名乗る受付の女性は、銀髪でおっとりとしたタイプの女性であった。その彼女がにっこりとした表情でいうには、


「ここは承認制のギルドになっていますので、マスターのリティアさんに直接会って了解を得てください。部屋は2Fへの階段を昇ってすぐの所になります」


「分かった。有難う」


 誠は簡単に礼を言うと、PTの皆とカウンターのある広間の左手にある、階段を昇って2Fに行き「ギルドマスター部屋」と銘打たれた扉をノックして、入る。


 部屋の中には、執務机と椅子。そして何かの趣味なのか、よくわからない奇妙な形のオブジェが沢山置かれていた。


 執務机には、マスターの女聖騎士リティアがついていた。


 白い鎧を着けて帯剣しているリティアは、ショートの黒髪に、りりしい顔立ちをしており、若い姿のアバターだがギルドマスターとしての風格を感じさせる雰囲気があった。


「見ない顔だね。参入希望者かな?」


 リティアが形のいい口を開いて聞く。


「そんなところだ。承認制と聞いたので、許可をもらいに来させてもらった。何か入団の条件とかはあるのかな?」


 誠が聞くと、リティアは申し訳なさそうに表情を曇らせて答える。


「ここは、知り合いやメンバーが、仲間を誘って承認するタイプのギルドなんだ。だから全くの知らない人を入れるわけにはいかない。すまないが、ここは遠慮してくれないだろうか」


「まあまあ、そういわずに。ここにその、知り合いからの書状をもってきています」


 エルミーナがにこやかに進み出て、リティアにその「書状」を手渡す。


 すると、それを見たリティアの顔が青くなり、次いで赤くなって、エルミーナに詰め寄る。


「どういうことだ、ジークライト! 全然、顔を見せなくなったかと思えば、他キャラ造って、しかもネカマで、初心者と遊んでいただと!納得のいく説明をしてもらおうか」


「ちょっとまってください、リティア。話を聞いて…」


 エルミーナは、事の次第をかいつまんで話した。自分のメインキャラ「ジークライト」でやることは大体したので、このゲームでの冒険をそろそろ引退しようかと思っていた所だったが、リアル友人のPTが「リーダーの武闘家が竜を倒す」のを目的にしていて、回復役がいないのと「ジークライト」で参戦したのではLV差で、PTのEXPにペナルティが付くから趣味も兼ねたこのプリースト「エルミーナ」で今はプレイしているという事を。


 それでリティアは一応の納得をした。


「…大体わかった。初心者支援もベテランの役目と言えなくもない。しかし、引退でないのなら、たまには「ジークライト」として、ギルドに顔見せ位はしてくれ。相棒だった神官のイリアも寂しがっていたぞ」


「…で、結局、ギルドには入れてもらえるのだろうか?」


 蚊帳の外になっていた誠が口を挟む。リティアは微笑してPTに向き直る。


「エルミーナ、いや「ジークライト」の認めたPTだ。入団を承認しよう。ようこそ、正義のギルド「ロウライフ」へ。モラルと決まりを守る限り、君たちはここの一員だ。クエストは一階のカウンターのシルヴィアから受けるといい」


「分かった…。これからよろしくたのむ」


 誠も律儀に一礼してこれに答えて、ギルド「ロウライフ」に入った4人は、ここの広間の女神像をセーブポイントに加えることにもして、ログインしての合流が円滑に行えるようにもなった。そして、先のオーガ退治のクエストを受けて、果たすくだりとなったのである。


 …その後、誠たちのログイン時間外に、天馬が「騎士ジークライト」として、リティアらギルドの面々に、ちょくちょく顔見せするようになり、きちんとした形で再会した彼女らを喜ばせたのは余談である…。



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