37:里の特産品
実際に襲われたのは数日前とのこと、解体はとっくに終わっているから残った素材だけを見せて貰ったが、とにかく皮がデカいし分厚い。蔵に入らないからとぶつ切りされていたが、それらを全部繋ぎ合わせると全長十五メートルのトラックくらいのサイズになりそうなんだけど……
「なんだかワニ革みたいね」
「そう言えばワニのお肉って鶏肉みたいで淡白なんだってさ」
特徴だけなら昨日食べたお肉とそっくりだ。
「ワニと言うのが何かは判らんが、我らはレイクゲーターと呼んでいる」
それならばと地面にワニの絵を描くと、それがレイクゲーターだと頷いてくれた。名前から想像するに湖に棲むデカいワニってとこだろう。
それにしても湖にいるはずのワニがなんで里を襲ったのか?
湖から流れ出る河がある。長年の事でいつからかは判らないそうだが、土砂や倒木が溜まり河の流れを阻害していたらしい。そこへ雨季だ。河が増水、普段に比べて水位がかなり上がっていた。里の方まで流れ出していたから異変に気づき、河を調査し土砂や倒木を排除した。
そして「ここからが憶測だ」とエルパチーノが言う。
河が増水したことで湖からレイクゲーターの群れが移動していた。しかし土砂や倒木を処理したことで水位が下がり湖に戻れなくなってしまう。餌に困ったレイクゲーターはより近い里を襲ったのだろう。
「レイクゲーターは五~八匹の群れで生活する。しかし河に取り残された数は少なかったようで三匹だけが襲ってきたのは幸いだった。
もし倍の数がいたなら、我らは全滅していたやもしれん」
その後レイクゲーターの侵入してきた方へ行き建物を見せて貰った。ほぼ倒壊、半壊ならまだマシと、まるでトラックが何度もぶつかったような惨状の家々を前に、「マジかよ」と声が漏れた。
「マル。いいかな?」
「そうだね。僕らも手伝おう」
「それは助かるが、いいのか?」
「決まった予定もないし大丈夫です。ただ報酬は弾んでくださいね」
「二人の助力に感謝する。お礼にコツワームの粉末を沢山準備しておこう」
いや、それはいらない。
レイクゲーターを撃退した後の倒壊した木材を、エルナのゴーレムが軽々と持ち上げ、排除していく。鈍重で使い道が無かった【
僕は以前造った〈魔道具〉の魔道ノコギリとドリル、そして新たに〈風圧式釘打ち機〉をいくつか造り彼らに譲った。
自然に生きるエルフにとって〈魔道具〉は縁遠い物だったようで珍しそうに眺めていた。使い道が無く余りまくっていた魔石を入れて実際に使って見せた。
「なんだこの道具は!? 魔術も使わずに木が切れるぞ!」
「おいおい調子に乗って伐るのはいいが、その木を誰が運ぶと思ってるんだ」
「あっそれはわたしがやるわ。任せて」
二体目のゴーレムが生み出されて、枝落としの作業をしている場所へ運んでいく。
ゴーレムの足音、僕が提供した魔道ノコギリや風圧式釘打ち機が小気味いい音を響かせる。そんな様子を遠巻きに見ている僕とエルパチーノ。
さぼっている? いえいえ現場監督です。
「人間が造る〈魔道具〉とやらがこれほど凄いとはな。恐れ入ったよ」
「普段はどうやっているんです?」
「走るときと同じさ、魔力を肉体に回して持ち上げるだけだ」
えっそれの方が凄くない? あの木なんてもう人が持ち上げていい大きさじゃあないんだけど……
休憩時間になるとオレンジ色のジュースが出てきた。とても喉が渇いているが今朝の経験から一瞬でスンッとなった。
恐る恐る、まずは香りから。
「おやこれは……マンゴー?」
「ええマンゴーだと思うけど……
ねえエルパチーノさん、これも幼虫だったりする?」
気持ちはわかるがエルナの警戒っぷりが凄いことに。
「いいやこれは香草を擦り下ろして水で割ったものだ。決して幼虫ではないよ」
それならと口をつける。甘い、疲れた体に染み渡る。
「摺り下ろすということは日持ちはしないのね。美味しいのに残念だわ」
「すまない。ここにいる間だけになるが存分に飲んでくれ」
しかし翌日以降、エルナがこれを飲むことは無かった。
なぜって、作り方が気になって見学に行ったから。マンゴー風味の香草を擦り下ろして水を加える。そのまま飲むと甘みが全くないマンゴー風味のただの水だった。ここにコツワームを乾燥させた粉末を溶かせばジュースが完成。
つまりエルフにとってコツワームを乾燥させた粉は砂糖と同義。
「……もう加工されたものは何も食べられないわ」
その後、エルナが「素材そのままのフルーツ」しか口にしなくなったのは言うまでもない。
夜はエルフ族に伝わっていた魔術を教えて貰った。
彼らが得意としているのは風水土の三つ。エルナの風は妖術なのでタイプ違いで除外。水は僕、土はエルナが習っている。無事に習得できたのは四つだけ。
◇◇─────────────────────
【
水の上を歩く
【
水中を探索する
【
地中を探索する
【
植物の成長を促進する
【
人形を召喚する
─────────────────────◇◇
【
【
【
【
今後、練度が上がればより多くの素材が利用できるようだが、いまのエルナだと『泥、水、石』に加えてより難度が高い『風』の四つが召喚できた。なおエルナが『
◆
エルフの里に来て一〇日。〈錬成薬〉を使っていた軽傷者の傷も完治。破壊されていた建物の撤去もほぼ終わっている。
これ以上ここに留まる必要は薄い。僕らは近々里を出ると、エルパチーノに伝えた。
「本当に助かった感謝する。それで、二人への報酬なのだが……
すまないがエルフは貨幣をあまり多く持っていないのだ。魔獣の素材や魔石などを譲るのでそれでどうにかならないだろうか?」
「ええそれで大丈夫です。
それに魔石や魔獣の素材なら適切な場所で買い取って貰えばかなりの金額になると思います。次の機会があったら職人ギルドの方へ持ち込んでみてください」
魔道具に入れた魔石は大きく上質で、次回は
「助言、感謝する。
実は外界で価値が高いと聞いていた〈月光草の粉〉を準備していたのだがな、その情報は誤りだったのだ。実際に見せたが神官らには『こんなものと交換では
まぁ諦めきれず何度か頼みに行ったお陰で、こうしてマル殿と会えたので結果的には良かったのだがな」
「〈月光草の粉〉ですか、もしよければ見せて貰っても?」
きっとそれが神官が言っていた砂銀と間違う素材に違いない。もし魔道具や錬金術で使える素材ならぜひとも頂きたいところ。
エルパチーノが小袋を提げて戻って来る。
「これが〈月光草の粉〉だ」
小袋から出てきたのは三〇〇mlほどの瓶。瓶の中には八割ほど青白く輝く銀の粉が入っていた。
隣で覗き込んでいたエルナの口から「綺麗~」とつぶやきが漏れてきたが……
突然、〈基礎知識(Hello, World!)〉の解説が、僕の脳内で警報を鳴らす。
◇◇──────────────────────────────────◇◇
『月光草』
月神が創り出した霊草で月の灯を受けて育つ。
『
大変貴重。
『月光草の粉』
霊草〈月光草〉を乾燥させて粉末にしたもの。長期保存可能、効能は変わらない。
粉末にする技術は
この粉末を銀と混ぜることで〈
『
聖属性を持つ特別な金属。
金属に加工されてなお原料の霊草の効果は失われず残り、月の灯を受けると武具を元の形へと再生する。
大変貴重。
『
部位欠損、あらゆる病を治す薬。
飲用しても寿命は延びない。
大変貴重。
◇◇──────────────────────────────────◇◇
えっこれヤバくない?
そして彼らが超人的だったのもエルフではなく
「エルナ、〈基礎知識(Hello, World!)〉を」と小声で伝える。
「……っ!? マルこれって」
「うん。クコスーノ王国に行かないとね」
「じゃあこのまま行っちゃう? あっごめん。いまのなし! 最後にお風呂入りたいし、スイーツを買い溜めしたいわ。街に戻りましょう」
ぶれないようで何より。
結局、僕らはレイクゲーター一匹分の素材と魔石、小さめの魔石─十分大きいが─を沢山、そして〈月光草の粉〉を一瓶貰い受けた。さらに報酬とは別に魔術も習っているし、エルナトラウマのコツワームの粉を除き、マンゴー味の香草やキノコ、薬草の種なんかも頂いている。
どう考えても貰い過ぎだが、建築用に造った〈魔道具〉をすべて置いていくのでそのお礼だってさ。
ところでレイクゲーターの魔石よ。水の魔石のようだがソフトボール大って、これいくらするんだろうね。こんな大きなの見たことないぞ……、大丈夫かな?
森の外まではエルパチーノが案内してくれた。ここから少し先へ進めば街道に当たるのであとは大丈夫。
「本当に助かった。
用事が終わったらまた里に寄ってくれ。歓迎しよう」
「あはは。そう言って貰えるのは嬉しいけど、この森を案内なしで抜けるのは僕らには無理だよ」
「確かに人族では難しいか。ではこれを使ってくれ。
里までの道を指してくれる」
そう言うや、彼は体温計くらいの枯れ木をご丁寧に二本、僕とエルナへ手渡してくれた。
「この枝を森で使えば里の方へ向くのだ」
ほうほう棒倒しの確実なヤツかしら?
違った、手の上に載せたら回るんだってさ。方位磁石みたいだ。
「老後にのんびり暮らしたくなった頃でもいいぞ」と冗談交じりに言われる。
「あぁ僕らは人族や獣人じゃあないよ。僕は真龍の半龍人で、」
「わたしは天狗の半妖怪。
だから寿命はたっぷりあるの、老後と言わずまた里に遊びに行くわ」
「そうであったか、魔力の毛色が違うとは思っていたがなるほどな。どちらも交流のない種族なので住処などは知らないが、滅んだとは聞いていない。
もし二人が〈
つまり〈
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