40歳童貞の大魔法使い様を異世界(現代日本)から召喚したけど、魔法陣の座標が間違ってて行方不明になった。

橋元 宏平

第1話 40歳童貞様の召喚

 国王軍は、長年続く魔王軍との戦争に終止符しゅうしふを打つ秘策ひさくを考えていた。

 思い付いた秘策とは、大魔法使いの存在であった。

 いにしえより伝わりし文献ぶんけんによれば、大魔法使いは強大な力を持っているという。

 しかし、国王軍に大魔法使いの資格を持つ者は誰ひとりいなかった。


 大魔法使いの資格。

 それは、40歳童貞であること。


 この世界において、おのれの性欲を耐え抜くことは苦行くぎょうである。

 何故なら、この世界の人間はめちゃくちゃ性欲が強い。

 ほとんどの男は早ければ少年期、遅くとも青年期には童貞を卒業する。

 童貞を守ろうと思ったら、人里ひとざと離れた森や山にひとりで引きこもるしかなかった。


 30歳まで童貞を守り抜けば偉業いぎょうとされ、立派な魔法使いになれる。

 40歳まで童貞をつらぬくことは、ほぼ不可能に近かった。

 それほどまでに、大魔法使いになることは困難であり過酷かこくであった。

 国王軍は血眼ちまなこになって大魔法使いを探したが、見つからなかった。


 この世界で見つからないのであれば、異世界から呼び寄せるしかない。

 異世界ならば、40歳まで童貞を貫いている者がいるかもしれない。

 きっといる。

 たぶんいる。

 いたらいいな。

 国王軍の軍事会議で、真剣に話し合って出した結果であった。


 さっそく、40歳童貞様を召喚しょうかんする儀式ぎしきおこなわれた。

 まずは、りすぐりの30歳童貞の魔法使いたちが集められた。

 魔法使いたちはいにしえ文献ぶんけんしたがって、召喚に必要な道具を集めた。

 王国敷地内に、巨大な魔法陣を描いた。

 魔法使いたちは魔法陣に魔力を込めながら、詠唱えいしょうを始める。

 そしてついに、時は満ちた。


 魔法陣がまばゆい光を放ち、周囲は白い光に包まれた。

 しばらくすると光は消え、視界が戻って来る。

 しかし、40歳童貞様の姿は見当たらなかった。

 魔法使いたちは、動揺する。


「あれ? 40歳童貞様がいないぞっ?」

「どういうことだっ?」

「儀式は失敗したのかっ?」


 魔法使いたちは、慌てて失敗した原因を探し始める。

 魔法陣を詳しく調べた結果、魔法陣の一部が間違っていた。


「あっ! 魔法陣の座標ざひょうが、間違っていますっ!」

「召喚は成功したようですが、別の場所へ転送されてしまったようですっ!」

「なんだとっ? では、40歳童貞様はいったいどこへっ?」

「早く、40歳童貞様を探すんだっ!」



 国王軍は、軍に所属する一般兵に40歳童貞様の捜索そうさくを命じた。

 国中に、「40歳童貞様を見つけた者には金一封きんいっぷう」の貼り紙が貼り出された。

 しかし行方を探そうにも、40歳童貞様の外見も名前も分からない。

 召喚した魔法使いたちさえも、40歳童貞様を見たことがない。

 この世界の人間は誰ひとり、40歳童貞様がどんな者なのか知らない。

 

 情報はたったひとつ、40歳童貞であることのみ。


 あらゆる情報網じょうほうもうもちいて探してみるも、40歳童貞様は一向いっこうに見つからなかった。 

 捜索中に兵士のひとりがareaエリア Δデルタにおいて、不審なものを発見した。

 兵士はそれを拾い上げ、部隊長の元へ持って行く。


「隊長」

「なんだ?」

「やたら手触りの良い布を見つけました」

「なに? 『やたら手触り良い布』だと? どういうことだ?」

「分かりません。ただ、こんな『やたら手触りの良い布』は見たことがありません」


『やたら手触りの良い布』

 その長方形の布には、文字のような複雑な模様が描かれている。


「これには、何が書かれているんだ?」

「いえ、自分にはさっぱり……」 

「とりあえず、解析班かいせきはんに回せ。40歳童貞様の重要な手がかりかもしれない」

「かしこまりました!」


『やたら手触りの良い布』は、解析班に回された。

 しかし、誰ひとりとして書かれている文字を理解出来なかった。

 もしかしたらこれは、大魔法使いが魔法を詠唱する時に使用する布かもしれない。


 詳しく調べると、召喚時に使われた魔力がわずかに残っていた。

 これにより、40歳童貞様がこの世界へ召喚されたことは証明された。

 だが、肝心かんじんの40歳童貞様の行方は分からないままだ。

 40歳童貞様は、一体どこへ行ってしまったのだろうか?

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