ep26:華蓮視点⑥

「カレン、王宮で貴族の子供たちを集めたお茶会があるのだけど、あなたも行ってみない?」


 4歳の誕生日を迎えた頃、母ヴィオレットが微笑みながら私に言った。

 私が知らない、4歳のカレンのイベント。

 でも、王宮と聞いた途端、嫌な予感がした。


「ううん、行きたくない。そんな暇があったら本が読みたいわ」


 私は素っ気なく断り、屋敷の書庫へ向かう。

 ゲームのカレンは書物なんて見向きもしなかったけれど、私は本を読むのが大好きだ。

 書庫から分厚い本を持ち出して抱えながら自室へ戻る途中、通りかかった父の執務室から声が聞こえてきた。


「断られてしまいましたわ」

「カレンは騒がしい場所が嫌いな大人しい子だから、仕方ないさ」


 母と父が、そんな話をしている。

 ゲームのカレンなら真逆で、社交の場となれば張り切って行くのでしょうけど。

 私は、人が多い場所はあまり好きじゃない。


「王太子殿下もいらっしゃるから、会わせたかったのですけどね」


 母の言葉を聞いて、断ったのは正解だったと思う。


 ゲームのカレンは、ルナがこの屋敷に引き取られる以前から、婚約者がいた。

 それが、エトワール王国の王太子レグルス・ドーファン・ル・エトワール。

 ゲーム画面で見たレグルスは、クラシック・ショートバック&サイドに整えた鮮紅色の髪と金色の瞳をもつイケメン。

 情熱的で行動力があり、直感力にも優れたメイン攻略対象だった。


 でも、カレンの立場からしたら、いずれ婚約破棄を言い渡してくる最悪の相手だ。

 とにかく避けて、顔も覚えてもらえないくらい無関係でいよう。


 その前に。

 両親にはしっかり意思表示しておかないと。


「お父様、お母様、カレンです。お伝えしておきたいことがあります」

「どうした? 入っておいで」


 執務室の扉をノックして、父の返事を聞いた私は扉を開けた。

 執務用のどっしりした机の向こう側に、父が座っている。

 傍らに立つ母が、何事だろうかと首を傾げてこちらを向いた。

 父も母も、私に向けるまなざしは優しく、我が子への愛情に満ちている。

 この愛情があるうちに、私の望みを伝えておかなきゃいけない。


「私は、お茶会には一切参加致しません」

「まだ一度も参加したことがないのに、拒否するほどの何かがあるのかい?」


 宣言する私に、父は真面目に穏やかに問いかける。

 4歳の娘の話をちゃんと聞こうとしてくれるあたり、彼は今のところ良い父親だ。


「私は、令嬢として社交の場に出るつもりは無いからです」

「まあカレン、それでは素敵な御縁に巡り合えなくてよ」


 社交も拒否すると告げる私に、母が心配そうに忠告する。

 この世界の女性の中には、生涯独身のまま仕事に打ち込む人もいる。

 でも、貴族の女性の多くは、働かなくても優雅な生活を送れることから、結婚する人が大半だった。


「はい、それで構いません。私は勉学だけに時間を使い、大魔導士になりたいのです」


 私は胸を張り、きっぱりと言い切る。

 他の貴族の令嬢たちみたいに、勝手に婚約者を決められたら困るし。

 その心の深いところには、今も消えない陽太くんへの想いがあった。

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