ep24:華蓮視点④

 知力Dのカレンは、闇・火・風の初級魔法全てと、中級のうち消費魔力が少なめの魔法を、2歳の時点で使える状態になっている。

 その中でも闇魔法と風魔法は、コッソリ魔法の練習をするのにちょうど良かった。


「午後のティータイムまで、お昼寝するわ」

「畏まりました」


 専属侍女のメリッサに命じて、私はベッドに横になる。

 午睡の邪魔をしないようにメリッサが部屋から立ち去ると、私はムクリと起き上がった。

 ベッドから出てネグリジェの上に外套を纏うと、ステータスの魔法リストにある闇魔法を起動する。


 闇属性魔法:隠密(スカシェ)


 自分や他のものを目視できないようにする、闇属性中級魔法。

 ゲームでは、隠し攻略対象のノアール・トゥルナンが初期から使える魔法だった。


(……誰も見てないかな……)


 窓を開ける前に、外に人がいるかいないかの確認も忘れない。

 姿を隠していても、窓が開いたら不審に思われてしまうから。


 風属性魔法:探知


(よし、庭園や窓際に誰もいないわね)


 探知の魔法で脳内に浮かぶレーダー画面みたいなものに、白い光点と青い光点が映る。

 白い光点は使用人たち、青い光点は家族。

 そのいずれも、建物の中の方にいる。

 私の部屋の窓が見える位置には、誰もいなかった。


 この世界の初級魔法は、属性と必要魔力とイメージがあれば使えるようになる。

 普通の幼児なら、誰かが使うところを見たりしない限り、属性や必要魔力があっても基本的に魔法は使えない。

 私はゲームで魔法を見ているので、イメージはしやすかった。

 魔法の中には、生活魔法の【洗浄】や【乾燥】みたいに、魔力をほとんど消費しなくて誰でも使えるものもある。

 私は生活魔法もすぐに使える状態だから、コッソリ外に出たときに衣服を汚してしまっても証拠隠滅できる。


(では、ちょっとお行儀悪いけど、行ってきまーす)


 誰も見てないし聞いてないけれど、心の中で呟く。

 私は風の魔力を纏い、フワリと身体を浮かせた。


 風属性魔法:飛翔(アンヴォル)


 起動したのは、風属性の中級魔法。

 自分や他のものを空中に浮かせて移動する飛翔魔法だ。

 私は屋敷の誰にも気づかれずに、窓から部屋の外へ出た。


(姿を消しながら飛んでいるだけで魔法の技術が上がるんだから、楽な修行よね)


 こうして私は、昼寝の時間にコッソリ抜け出して、屋敷の上空で魔法の練習を重ねた。

 闇魔法のスカシェで姿を隠しつつ、風魔法のアンヴォルで飛び回る。

 前世の小さい頃は滑り台を怖がっていたけれど、この世界で魔法を使って飛ぶのは平気。

 多分、自分で速度や高さをコントロールできるからかな?

 前世で幼い頃に夢見た「自由に空を飛ぶ」ことができるのは、凄く嬉しくて楽しい。


 ……でも……


(陽太くんや美月ちゃんも一緒に遊べたら、もっと楽しいのに……)


 時折胸の奥が痛むのは、まだ前世に未練があるからなんだろう。

 陽太くんへの想いは、転生から2年が経った今も変わらない。

 帰りたいよ。

 3人で遊んだ、あの頃に……。


 涙で視界が霞む。


 私は屋敷の屋根に降り立ち、袖口で涙を拭って、眼下に広がる王都ウルバンの街並みを眺めた。

 国王陛下の居城を中心に、円状に広がる都市。

 ゲームのオープニングで見慣れた風景が、そこにあった。


(……確か、あの辺りがエトワール国立孤児院だったわね)


 私は、平民街の一角を見つめる。

 シナリオ通りなら、異母妹のルナがそこにいる筈。

 ルナは3年後に起こる聖女覚醒の後、意識を失った状態で公爵家に引き取られる。

 彼女がどの攻略対象と結ばれるかは分からないけど、私は絶対に邪魔をしない。


(断罪なんて嫌だし、追放されるくらいなら自分で国外に行くわ)


 ミシオン家で溺愛されるのは、5歳までのこと。

 ルナが来れば、父にとってどうでもいい子になる私は、この屋敷を離れよう。

 私は悪役令嬢にならない、平和な人生を歩みたい。

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