華蓮~カレンの幼年期

ep21:華蓮視点①

 陽太くんと美月ちゃんは、私にとって家族のような存在だった。

 私の両親は貿易商をしていて、商品の買い付けのため頻繁に海外へ行く。

 そんなとき、私を預かってくれるのが、お隣の日向家なの。


「華蓮ちゃんなら、いつでも泊まりに来ていいよ」


 日向家のおじさんとおばさんは定食屋を経営していて、自宅とお店は同じ建物になっている。

 家族の食事は、お店の仕込みのついでに作っていた。

 だから、子供が1人増えても平気だよ、って、言ってくれるの。

 私にとっては、日向家のごはんが、食べ慣れた「家庭の味」だった。



「一緒にお昼寝しよう」

「華蓮ちゃんが真ん中ね」


 陽太くんと美月ちゃんは、お昼寝のときは私を真ん中に寝かせてくれた。

 寒い冬の日には、左右から2人がピッタリくっついてくるので、私はいちばん温かく眠れた。



 公園で遊ぶときは、必ず3人で出かけた。

 私は、滑り台で遊ぶのが、ちょっと怖い。

 上がらずに近くで見ていると、陽太くんが手をひいてくれた。


「ほら華蓮ちゃん、一緒に滑ろう」


 陽太くんはそう言って、私を背中から包むように抱いて滑ってくれる。

 そうしてもらうと、滑り台の高さも速さも、ちっとも怖くなかった。



 年上の男の子たちにブランコを横取りされそうになったとき、美月ちゃんは絶対に退かなかった。

 悪いことは許さないってハッキリ言える美月ちゃんは、いじめっ子と喧嘩することもあった。


「順番でしょ! 横入りしないで!」

「なんだよ! お前、生意気だぞ!」


 身体の大きい男の子は、美月ちゃんを突き飛ばそうとした。

 でも、美月ちゃんには、頼もしい味方がいる。

 素早く間に入った陽太くんが、いじめっ子の手を掴んで止めた。

 陽太くんはもう片方の手で男の子の腕を持つと、肩に担ぐみたいに持ち上げて投げ飛ばした。

 テレビで見た、柔道の技に似てる。

 陽太くんは武道は習っていなかったけど、見様見真似で出来てしまうセンスを持っていた。


「大きいからって威張るな!」


 陽太くんに怒鳴られて、大きい男の子は慌てて逃げ出した。

 自分から喧嘩を売るようなことはしないけれど、美月ちゃんや私を守るときの陽太くんは強い。

 勝てる相手じゃないと、いじめっ子も悟ったらしい。

 その後、男の子は大人しく順番を待つようになった。



 幼稚園、小学校、中学校、高校……私たちはいつも一緒だった。

 宿題をこなすのも、遊ぶのも、いつも3人で。

 ずっとこのまま、一緒にいられると思っていたのに……


 列車事故が、私たちを引き離した。


 ガラスの破片から私と美月ちゃんを守ってくれた陽太くんは、大怪我をしてしまった。

 ハンカチで押さえて止血しようとしても、どんどん血が噴き出して止まらなかった。

 あのとき、陽太くんは、もう事切れていたのかもしれない。

 必死で押さえ続けた首の傷は、頸動脈の位置にあったから。


 助けたかった。

 助かってほしかった。

 私はもっと、陽太くんと一緒にいたかった。


 伝えられなかった想いは化石になって、私の心の隙間に入り込む。

 幼馴染という関係で終わってしまった、私の片思い。

 大切な人の死が重くて辛くて、胸の奥が痛くなる。

 もう、恋をするのはやめよう。

 陽太くんへの想いまで失くすのは嫌だから。 

 

 そんな悲しみを抱えて、私は転生した。 

 公爵家の長女として。


 カレン・フィーユ・ラ・ミシオン。


 それは、私と美月ちゃんが遊んでいたゲームに出てくる、悪役令嬢の名前だった。

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