ネット小説の世界で頂点に君臨していた俺、死んで英雄になる〜前世から受け継がれていた《文才スキル》で国を救うために小説を書いて無双します〜
五月雨前線
第0話:プロローグ
ペン先が踊る。
少し指に力を入れただけで、まるで何かに導かれるようにペンが一人でに動き、真っ白な紙に次々と文字が書き綴られていく。
「脈打つ心臓を右手で抑えながら、私は声の限り叫んだ……取り囲む人々はその剣幕に圧倒され、一様に口を閉じている……」
ペンを動かす手、その手を動かすための筋肉、情報を読み取る目、手に入れた情報を整理する脳。今の俺を構成する全てのものが、元の世界の俺のものとは全く違うはずなのに、違和感を感じないことに恐怖を覚える。
ひたすらペンを走らせる。脳内で浮かんだ文字と文字が結合し、1つの文を成し、さらに文と文が結合して少しずつ物語が構築されていく。文才バトルなる謎の勝負で勝つために、俺は小説を書いている。
紙とペンさえあれば、俺は文字を紡いで無限の物語を作り出すことが出来る。現在、紙上の世界では俺が生み出した架空のキャラクター、ドラーが大切な龍を守るために勇気を振り絞り、声の限り叫んでいる。
「ふうう……」
俺は息を吐き出し、右の拳でぽんぽんとこめかみを叩いた。全体の80%は書き終えた。完成まであと少しだ。
対戦相手のブークを見やる。ブークは苦悶の表情を浮かべながら用紙と睨めっこしていた。勢い任せで書き続けてきたツケが回ってきたのだろうか。
それにしても……ネット小説の世界で頂点に君臨していたこの俺が、まさか異世界転生をしてしまうなんて。
ペンを走らせながら俺は思わず苦笑を浮かべる。異世界転生なんて、フィクションの世界限定の出来事だと思っていたのに。いや、異世界に転生したと信じきっているわけじゃないけど。というか信じられるわけないけど。
その後小説を書き終えた俺は、原稿を謎の立方体に提出した。表面に笑顔の絵文字を浮かべ、大阪弁を操るそれはジャッジマシンと呼ばれている。文才バトルの司会進行、勝敗の判定をする役割を担っているらしい。ショートボブがよく似合う青い髪の超絶美女にさっき説明を受けたが未だに状況が飲み込めていない。
「次にベール・ジニアスはん! 聞いて驚いたらあきまへんで……な、な、なんと! 総合評価は100点! 満点やで! 大事件やで! とんでもないことや!」
「「「「えええええええええええええええええええ!?」」」」
採点を終えた謎の立方体、ジャッジマシンが俺の小説の点数を発表すると、超絶美女、文才バトルの対戦相手、そして取り巻き2人の叫び声が重なった。達成感に浸りながら、俺はふと全てが変わったあの瞬間のことを思い出していた。
あの瞬間、文永龍之介としての俺は死んだ。そしてそれは同時に、国を救う伝説の英雄ベール・ジニアスとして、この世界に転生した瞬間だった。
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