第4話 報酬の提案
幌馬車が走りだし、シビルは改めて、自己紹介をと提案してきたので、あたし達は同意した。
「改めて、今回助けていただきありがとうごさいます。私はランドー商会の代表をさせていただいております。シビル・ランドローと申します。呼ぶ際は、シビルで構いません。今後、生活用品で何が必要なものがありましたら、我が商会をどうか御贔屓に、よろしくお願いいたします。」
「次は私ね、冒険者パーティー『クローバー』で、斥候兼遊撃をしている、Dランク冒険者のミラよ。本当に助けてくれてありがとう、あなたがいなかったら依頼主も守れず全滅していたわ、あなたは命の恩人よ、何か困ったことがあれば、力になるわ。」
「私ですね、同じく冒険者パーティー『クローバー』の魔法担当の、Dランク冒険者のカリンと言います。本当にありがとうございました。」
あたしの番か、正直に話すことができないからな、女神と話し合いで決めた記憶喪失でいくか。
「あたしの名前は忍だ。すまないが、話せることがほとんど無いんだ、無一文ってこと、自分の名前とできることは、あたしのスキルでわかったんだが、築いたら森の中にいて、彷徨っていたら戦闘音が聞こえてきたって感じだ。此処が何処だかもわかんねぇんだ。」
『クローバー』の二人は驚きのあまり言葉が無かったがシビルは質問をしてきた。
「纏めますと、シノブさんは部分的な記憶喪失で、自身のことは自身のスキルでしかわからず、帰る場所も無く、此処が何処かもわからず、無一文ってことですね。」
「そんなとこだな。」
あたしは、嘘をついた罪悪感から、苦笑いで答えた。
シビルは、小声で『なるほど、だから聞きたいこと』とブツブツと、呟き顎に手を当て思考しながら御者に戻った。
彼女の様子を、伺ってるとミラが質問してきた。
「シノブは、これからどうするの?記憶が無いなら行く宛も無いのよね?」
「情報を集めたいからな、でかい街とか回りながら情報集めの旅ってとこだな。」
「なら、まず冒険者ギルドに行きましょう。シノブは強いから冒険者登録してるかもしれないでしょ?調べてもらえば分かるかもしれないし、登録してなかったとしても、登録しとけば、自分の身分証にもなる、行きたいところの護衛依頼があれば、お金を稼ぎながら旅もできるわよ。」
ミラの提案も一理あるな、吸血姫の力を駆使すれば、死ぬこともないだろう。それに話を聞く限り、冒険者の方が色々と都合が良さそうだ。
そんな話をしていると、シビルが今後の提案をしてきた。
「シノブさんに提案です。」
「どうした?改まって?」
「街に到着したしてからの今後の話です。ミラさんが言われたように、冒険者登録をするべきです。ですが、登録したばかりですと、直ぐに稼げるとは限りません。」
あたしは『確かに』と頷いた。
「安定するまで、私の家を使って下さい。幸い私は、独り身です。サポートをさせてくれませんか?」
「いやいや、それはさすがにマズくないか?ついさっき会ったばかりの何処の誰ともわからない奴だぞ!?」
あたしはシビルの提案に面食らった。
「私はこれでも商人です。人を見る目はあるつもりです。それにシノブさんは、命の恩人でもあります。これは今回の報酬だと、思っていただければと思います。」
あたしは『うぅ~ん』と腕を組み思案に暮れ『はぁ~』とため息を付き、両手を上げ諦めた。
「わかった降参だ。正直その提案は助かる。」
あたしが提案に載ってくれて、シビルは安堵し、成り行きを見守っていた『クローバー』の二人は拍手をした。
そこで漸く、後ろの荷から『此処は何処だ!?二人は!?』と気を失っていた『クローバー』のマイクが目を覚ましたようだ。
シビルは幌馬車を道の端に寄せて止め、ミラとカリンは『やっと起きたか』『遅~い』と安堵しながら事情も説明しに、後方へ向かった。
後どのくらいで目的地に着くか、シビルに聞くとするか。
「シビルさん、後どのくらいで街に着くんだ?」
あたしは、話が一段落したとこで背伸びをしてほごしながら尋ねた。
「あそこの丘を越えれば見えてきますよ。後一時間ちょいと言ったところですね。」
二人で話していたら、後方から足音がし、二人が戻ってきたと思ったら、マイクを先頭にして三人で戻ってきたようだ。
あたしは、御者台から降り彼の状態を聞こうとしたら、マイクは二人の制止も聞かずに、あたしを睨み付けながら近付いてきた。
あぁ!?こいつ何、ガン飛ばしてきてんだ!?
マイクは、あたしの一歩分手前で止まり、睨むのを止めずに言葉を発した。
「お前が俺達から依頼を横取りして、助けた気でいる奴か?」
「アァ!!」
はぁ!?マジ何言ってんだ!?
あたしが激怒しそうになったところで『あんた何言ってんの!』とミラは焦って怒鳴り、マイクは『黙っていろ!!』と怒鳴り返した。
あたしは少し冷静になった。
めんどくせぇ、こいつあれだろ、今まで順調にいってたところを、女に横取りされた上に、任務失敗で名前にキズつくとか思ってるクズだろ。
よくこんな奴と今までパーティー組んでるなぁ二人は、まぁ順調にいってた分の反動ってとこか。
「おい、いちゃもんつけるのは別に構わねぇが、時と場所と状況を考えて言っとけよ、これ以上醜態さらすとマジィだろ。それに護衛は終わってもねぇんだ!今は後ろの二人に免じて許すが、二度目はねぇぞ!」
あたしは軽めに『威圧』を飛ばし、マイクは顔を青くして腰を抜かした。
「これ以上、依頼人の評価を下げたくなかったら、お前は後方で護衛だ!早く配置につけ!あんたら二人もいつまでも呆けんな!まだ護衛は終わってねぇぞ。」
あたしは言うだけ言って御者台に戻った。シビルは微笑みながら御者を再開した。
「何笑ってんだ?」
「いえ、やっぱりシノブさんは、信頼に置ける人だと思いましてね。」
あたしも笑いながら『どうだか』と返した。
ミラとカリンは急いでシノブの横に並び、決まりが悪く謝ってきた。
「シノブごめんなさい。助けてもらったっていうのに、普段はあんなことを言う人じゃないんだけど、止めるのができずにごめんなさい。」
「ごめんなさい。」
「シビルさんもすみません。依頼人の前で、とんだ醜態をさらしてしまい、申し訳ありません。」
あたしもシビルも、二人は悪くないと慰めた。
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