第6話ずるいよ

聞き覚えのある声。



ーーほら、君はいつもずるいよ。笑 ーー


扉の方を見ると唯杏くんがいた。

少し長い襟足も、くせっ毛なところも、少し低い声もなんにも変わらない。


彼は自然と私の隣の席に座ってビールを頼んだ後に


「久しぶり。偶然だね。元気だった?」


変わらず優しく聞いてきた。


「元気だよ。」


そう返してしばらく沈黙が続いた。



彼のビールが来て一口飲むと

彼が口を開く。


「俺彩奈のこと忘れられない」


そう言われ私はどうしていいのか分からなかった。


''もう私たち終わったんだよ''


そう言えるほど私は強くなかった。

私は涙目になりながら


「私も忘れられなかった。今の今まで唯杏くんのこと思わなかった日はないよ。」


涙が一滴頬から流れると彼は指で涙を拭い

「ちょっと外でよっか」


そう言い、飲みかけのビールをそのままにし、

二人分のお金を置いて外へ出た。


彼は道路に走ってたタクシーを止め、

私は彼に手を引っ張られて後部座席に乗った。


「○○街のアパート○○までお願いします。」


彼の家だった。

''あ、そういうことか笑

やっぱり私って馬鹿だな〜笑''


そう思いながらもなにか少しの光に期待をしていた。


家に入ってすぐ、背後からそっと抱き寄せられ、振り返った瞬間にはもう唇が触れていた。

''止めなきゃ''と頭では何度も声がしたのに、彼の手慣れた指が服の端をなぞるたび、その声はどこかへ逃げていく。

押し倒されるようにベッドへと誘われても、本気で抗えばきっと止められた。

それでも私は、その腕の温度に甘えてしまう弱さを隠せなかった。


そのまま寝てしまい、気がつけば朝だった。

目が覚めると昔は唯杏くんの方が起きるのが遅かったのに彼の方が早かった。

彼は背を向けてスマホをいじっていた。

背中を見ると左首筋部分にほくろがあった。


「ここにホクロあったんだ。」


ホクロを触ると、彼の体はとても冷たかった。


「生まれつきだよ。気づかなかった?」


「うん、分からなかった。初めて気づいた。」


静まり返った部屋の中で時計の針が動く音だけが鳴り響く。


「すき」

私がそう言うと背を向けていた彼が振り返り


「ありがとう」


そう言われた。私は静かに頷いて床のくしゃくしゃの服を取って着た。


六時過ぎに私は彼の家を出た。

夕日が沈むのを見ながら電車に乗った。


家に着いて缶ビールを開ける。

半分まで飲み終えるとLINEが来た。

唯杏くんからだった。


「俺、実は仕事の関係で来月から大阪に行くんだ。」


頭が真っ白になった。

''久しぶりの彼からのLINEが別れのLINEって笑

酷いよ。こんなことなら昨日合わなきゃ良かった。なんで昨日家に呼んだの。

好きって言ったばっかだよ。''

色んな気持ちが混み上がってきた。

既読をつけてもすぐ連絡を返すことが出来なかった。

一時間くらいが経ち、連絡を入れた。


「来週の土曜日最後に会いたい。」

そう連絡を入れるといつもは連絡が遅い彼も

「うん」

とすぐ連絡が着いた。

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