双子
第1話
渋谷の大型のスクリーンビジョンには、女が拷問される様子が映し出されていた。私はその様子を見ても可哀想だとは思わなかった。なぜならその女は新興宗教を作ってテロを起こし、たくさんの市民を殺した凶悪殺人犯だからである。あんな事件を起こしたのに、私の娘も妻もあのテロで死んだのに、たとえ捕まえたとしても絞首刑でしか殺せない。それに納得出来なかった私は、警察官にも関わらず、私刑を黙って眺めていた。あの市民の中には部下もいたのに、だ。
「無垢な市民の私刑を止めないとは警察としてどうなんですかね? 中山警部」
私の耳元で聞き覚えのある声がした。
「……なぜ、お前がここにいる? あの映像はどう見てもお前だろ?」
「違いますよ」
「じゃあ、あそこにいるお前は何者なんだ?」
「あれ、多分私が生まれた時に引き離された双子の妹ですね。会ったことないので喋ったことはないですけど」
「……は?」
それが本当だとしたら、今やってることは……。
「だから私刑なんて認めちゃいけなかったんですよ」
女はそう言うと、映像を眺めながら興味なさげに「あーあ、可哀想」と冷たく呟いた。
「犯人間違えちゃったせいで正義のヒーロー気取りが、殺人犯の仲間入りですね」と女は言うとニヤリと笑った。
「お前のせいだろ!」
「嫌だなぁ。責任転嫁しないで下さいよ。どう見ても、ちゃんと調べずに拷問した市民のせいじゃないですか〜。私刑なんてしなければこんなこと起こってないですよ。警察官ならそんなこと一発でわかるでしょうに」
「お前のことだからどこでやってるか本当はわかるんだろ。早く住所を教えろ」
「知らないですよ。さっきも言いましたけど、私は彼女と血は繋がってるけど、赤の他人です」
「じゃあ、どうすれば……」
「大丈夫ですよ殺しても。私と一卵性なら私と同じ凶悪犯になり得たかもしれないじゃないですか。……でもまぁ、私が生まれてくる時に私があの子の悪意を全部吸い取ってしまって、あの子が完全に善人ってこともあり得ますけどね」
私は全てが嫌になり、女の言葉を聞きたくなくて、赤信号にも関わらずスクランブル交差点を駆け出した。すると、走ってきたトラックが私に衝突した。そして青信号になったのか、大勢の人が私を避け歩き出した。女は私を見下ろしてじっと見つめた。
「……轢き逃げするなんて」と私は恨めしげに呟いた。
「赤信号で突っ込んでいった人が文句を言う権利はないです。ルールを守らないからそうなるんですよ。今死んどいた方が責任問われなくて楽だと思いますけど、どうします? 救急車呼びます?」
女は冷ややかな目で私を見て、そう吐き捨てた。
双子 @hanashiro_himeka
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