恋の行方 ◇悠太◇

 クラスで人気者の青咲菜々あおさきななに恋をした。

 彼女とは、たまたま席が隣になったことで、話す機会が増え、同じアニメが好きだということが分り、更に話すようになった。

 そして、話しているうちに俺は菜々ななのことが好きだと気付いた。

 でも、恋愛経験ゼロの俺にはどうすればいいか分からず、幼馴染の雛野美幸ひなのみゆに相談のメッセージを送った。

『好きな人が出来たから、相談乗ってくれない?』

『いいよ』

 美幸みゆは快く承諾してくれた。

 それから、美幸みゆのアドバイスを受けつつ、自分なりにアピールした。

 そして、一ヶ月が過ぎたある日、告白しようと心を決めた。

菜々なな俺菜々ななのことが好きだ!俺と付き合ってくれないか?」

 菜々ななは突然の告白に驚いていた。でもすぐに笑顔になって俺の手を握った。

「私で良ければ」

 高校二年の冬、俺の恋が実った。

 その夜、すぐに美幸みゆに報告した。

『無事に付き合えた!ありがとう!』

 

 菜々ななと付き合うことになってから美幸みゆに避けられることが多くなった。

美幸みゆ。今日…」

「ごめん、悠太ゆうた。ちょっと急いでるからまたね」

 次の日も、そのまた次の日も、急いでいるからと言って俺を避けていくようになった。

「み…」

 美幸みゆの名前を呼ぼうとした声をのみ込んだ。

 どうせ話そうとしても避けられるからと、廊下ですれ違っても話しかけることはなくなった。最初は少し寂しいと思ったけど、慣れって怖い。

 美幸みゆと話すことがなくなり、一年が経った。

 時の流れは早く、卒業式を迎えていた。

「ゆう、写真撮ろ」

「いいよ」

「はい、チーズ」

 撮ったばかりのツーショットを眺めながら笑顔を浮かべている菜々なな。そんな彼女が可愛くて仕方がない。

 そんなことを思っているとスマホの通知がなった。

 美幸みゆからメッセージがきていた。

『ちょっと時間ある?体育倉庫裏で待ってる』

 何か話したいことでもあるのだろうか?

 そんなことを思いながら、体育倉庫裏へと向かう。

「卒業おめでとう!」

「ありがとう!美幸みゆもな」

「ふふ。うん。ありがとう」

 久々に話したけど、変わってなくて安心した。

「話って何?」

「…悠太ゆうたは小さい頃にした約束、覚えてる?」

「小さい頃にした約束?…なんだっけ?」

 幼い頃の記憶から約束事を探すが、これといった約束事は思い出せない。

「何?何か大事なことだった?」

 少し焦りながら言う。けど美幸みゆは笑顔で答えた。

「ううん。全然。」

「そっか。驚かすなよ~」

「ごめんごめん」

「ゆう~?」

 直後、俺を呼ぶ声がした。声の主は菜々ななだった。

 そういえば、卒業式終わったらゲーセン行くって約束してたっけ。

「あ、ごめん。もう行くわ」

「うん。あ、彼女と幸せになってね!」

 予想外の言葉が飛んできたて、少し驚く。

 そうだよな。あれだけアドバイス貰ったんだから、菜々ななと一緒に幸せにならないと!

 心の中で覚悟を決めて、満面の笑みで返す。

「おう!またな!」


 それから、菜々ななとデートを楽しんだ。

「お帰り。あんたまたデート?いいわね〜若いって」

「別にいいじゃん」

「それより美幸みゆちゃん進学するの?それとも就職?」

「え…知らない」

「えー!知らないの?幸来ゆきこさんに――」

 そういえば、美幸みゆの進路全く知らないな。美幸みゆのこと知らないって変な感じ。

 保育園から高校一年までずっと一緒にいたから、今まで美幸みゆのことで知らないことなんてなかった。

 美幸みゆの進路が気になり、メッセージを送った。

『そういえば、進路どうしたの?』

 いつもはすぐに返信がくるのに、この時は返信が来なかった。

 夜が明けて返ってきたのは人さし指を立てて、しーっとしている女の子のスタンプだった。

 秘密ということだろう。納得はいかなかったが、とりあえず朝食を食べようと思い、リビングに行った。

「おはよ」

「おはよう。ねぇ、朝美幸みゆちゃんが来たんだけど、美幸みゆちゃん上京するんだって!」

「え、まじ?」

「そう。もう会うことが少なくなっちゃうからって少しいいお菓子くれたのよ!私はそんなのいいって……ちょっとあんたどこ行くの?」

美幸みゆん家!」

 気付いた時には足が動いていた。

 美幸みゆが上京?俺に何も言わず?

 美幸みゆの思考が分からない。スタンプじゃなくて上京するって送ればいいのに、なんでスタンプだったのか。なんで秘密にしようとしたのか。

 そんなことを、考えているうちに美幸みゆの家に着いた。インターホンを押すと美幸みゆのお母さんの幸来ゆきこさんが玄関から出てきた。

「あれ、悠太くん。こんな早くにどうしたの?」

幸来ゆきこおばさん。美幸みゆが上京するって本当ですか?」

「ええ。」

美幸みゆいませんか?少し話したいんです」

「……始発の電車で行ったからもういないのよ」

「そんな…じゃあ、何か聞いてませんか?」

 幸来ゆきこおばさんをじっと見つめていると、観念したように口を開いた。

「実は、あの子から二つ頼まれたのよ。一つは、悠太ゆうたくんが来ても何も言わないでくれって。だから、あの子がどこに行ったか教えることは出来ないわ。」

「そんな…じゃああと一つは何頼まれたんですか?」

「これ」

 そう言って、一つの封筒を差し出した。

「もし、悠太ゆうたくんが来たらこれを渡すように頼まれたの。」

「理由なくそんなことする子じゃないから、何からしら理由はあると思うんだけど、話してくれなくてね。」

 少し悲しそうな表情を浮かべながら言う幸来ゆきこおばさん。

「早くにすみません。ありがとうございます」

「気にしないで。何も話せなくてごめんね」


 もうちょっと美幸みゆと話していれば良かったと後悔の念が押し寄せる。メッセージを送ろうとしたが、絶対に返信は来ないという確信があったから、何も送らなかった。

 自分の部屋でグルグル考えていると幸来おばさんから渡してもらった封筒が目に入った。

 封筒を開けて中を見ると手紙が入っていた。


「っ!……」

 手紙は所々滲んでいた。

 美幸ごめん。ずっと美幸の優しさに甘えてた。俺が鈍いせいでずっと辛い思いをさせてしまった。必ず幸せになるから。


 ごめん。ありがとう――

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