第4話FileNo.04 箱根湯本 とんかつ殺人事件
【プロローグ】
箱根・湯本。
観光客で賑わう繁華街を、芋三郎刑事はコート姿のまま歩いていた。
今日は完全にオフ。
温泉につかって酒でも飲もう――
そう思っていた矢先である。
「きゃーっ!誰か警察呼んで!!」
ただならぬ悲鳴が響いた。
芋三郎は眉をひそめ、
すっとタバコの火をもみ消した。
「……また厄介な夜になりそうだな」
声のする方向へ向かうと、
そこには老舗とんかつ店「かつ豚庵」の看板。
店の横にある倉庫の前には人だかりができ、
警察と救急隊が慌ただしく動いていた。
「倉庫内で従業員の田中さんが……荷物の下敷きに……」
店長は青ざめながら説明する。
どうやら休憩時間中、倉庫に入った田中が突然崩れ落ちた荷物に潰され、
即死したらしい。
地元警察は腕を組んで頷いていた。
「まあ、こりゃ事故だな。棚が古いんだよ」
その横で、もう一人の従業員――峯岸さくら(22)が
怯えた様子で立ちすくんでいた。
その時、芋三郎は静かに宣言した。
「……これは事故じゃない。殺人だ。」
ざわっ。
地元警察が眉をしかめる。
「刑事さん……何を根拠に?」
芋三郎は倉庫の中を一瞥し、
薄く笑った。
「理由は簡単だ。“わざと崩れるように仕掛けてある”」
さくらの肩が、びくっ!! と跳ねた。
芋三郎の目が細く光る。
「少しお話を聞かせて頂きますよ。……さくらさん。」
【解明編】
倉庫の前で、芋三郎はゆっくり歩きながら説明を始めた。
「まず、この棚だが、崩れた形が不自然だ。
上段の段ボールだけが前に落ちるように、絶妙な角度で置かれていた。
普通の積み方では起こらない」
地元警察「いや、でも田中さんが自分で触ったんじゃ……」
芋三郎「田中さんは上の段には触れていない」
地元警察「どうして言い切れるんだ?」
芋三郎は懐から一本の透明ボトルを取り出した。
「これは……かつ豚庵の特製ソースの容器ですね?」
「そうだ。だが、中身を見てみると……」
芋三郎はふたを開け、
店長に渡す。
店長「え……これ、醤油だ!」
ざわざわ……
芋三郎「そう。店内にある“すべてのソース容器の中身が醤油にすり替えられていた」
「田中さんはとんかつを食べようとしたが“ソース”がなかった。
そうすれば必ず倉庫へ補充を取りに行く」
店長「あ、そうか。醤油じゃしょっぱいもんな……!」
芋三郎「つまり、犯人は田中さんを“倉庫に行かざるを得なく”した」
芋三郎の視線が、ゆっくりとさくらに向けられる。
「そうですよね……さくらさん?」
さくら「ヒッ……!? も、もうばれちゃったの……!」
地元警察「お、おい、認めるのか!?」
さくらは目に涙を浮かべながら叫んだ。
「だってアイツが……!!
私のこと……毒ピクミンに似てるって言ったんだもん!!」
一瞬の静寂。
芋三郎は淡々とつぶやいた。
「……なるほど。“ノーデリカシー田中”ということですね」
地元警察「はぁ?」
店長「はぁ?」
さくら「はぁ?」
さくらは静かに手錠をかけられ、
そのまま毒ピクミンのように連行されていった。
パトカー「パーーーッ……プー……(妙に古い音)」
芋三郎「そろそろ宿に戻って温泉にでも入りましょうかね。」
地元警察「芋三郎刑事、ご協力感謝します!!」
背を向けて軽く手をあげる芋三郎。
しかし彼は知らなかった。
旅館の温泉では、修学旅行の小学生たちが――
“大量のバスボムを同時投入する実験”
を始めていることを。
――FileNo.04 完。
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