マットなぼくとPPな彼女

kats(仮)

〜プロローグ〜 気がつけば恋 side MAKOTO

 ぼくは東雲慎しののめまこと、14歳。

 見た目はまぁ中の中……残念ながら特に良いところも悪いところもない至って普通な感じ。

 趣味は漫画や小説を読むこと……オタクと言われるジャンルが少し多めかな。

 当然友人もほとんどがオタクで、楽しくはあるがいわゆるリア充なイベントとは縁遠い。

 その点を除けば、高校受験に向けた勉強に日々を追われ、最近少しづつ教育ママのプレッシャーを感じはじめている、どこにでもいるステレオタイプの中学3年生だ。

 そんな、本来受験勉強に集中しはじめなければいけない現在いま


 突然、自分の気持ちを自覚した。


 同じクラスの学級委員である九重ここのえさん。

 とても明るい性格で誰とでも仲良くなれる社交的な彼女。

 勉強もできるしスポーツも得意。

 当然クラスでも一番の人気者で、先生たちの受けも良い。

 いつも話題の中心にいて、キラキラと輝いて見える女の子。

 ぼくには無いものを全部備えている、そんな存在。


 ━━━ ぼくは彼女が好きだ。




 本を読んでいると時間を忘れる事がある。

 その日も教室で本を読んでいたら、いつの間にか日が傾き、窓からは肌寒い風が吹き込みはじめていた。

 ちょうど良いところまで読んでから窓を閉めようと思った時、誰かがそっと窓を閉じてくれる。

 本から顔を上げると、窓を閉じてくれた彼女が控えめに声をかけてきた。


「あ、邪魔しちゃったかな。ごめんなさい」


 逆光の中、窓際に立っていたのは九重さんだった。

 通り過ぎた風が彼女の…おそらく柔らかで、肩に少しかかった長さの髪を優しく揺らし、夕陽がきらきらと輝かせている。

 あまりにもきれいで、思わずぼーっと見惚れてしまった。

 かなりおまぬけな顔をしてたかも……はずかしい!


「でも珍しいね。いつもは集中しててわたしには気が付かないのに」


 どうやらこのシチュエーションは今回が初めてではなかったらしい。

 自分の気持ちに気がついた今となっては、この素晴らしい時間を過去の自分がスルーしていた事がうらめしい。


「ち……ちょっと集中しすぎてたみたいだ」


 しかも情けないことに返事をした声が裏返ってしまった。

 緊張していることに気が付かれてしまっただろうか。


「九重さんはこんな時間までどうしたの?」


 なんとか会話を繋げようと口をついたのは、正真正銘当たり障りのない言葉だった。


「わたしは学級委員の仕事。さすがにこんな時間まで手伝うことになるとは思わなかったけどね」

「そうなんだ、いつもクラスのためにありがとう」


 微笑みながら言う彼女。

 学級委員の仕事なんて本来教師がするはずの内容がほとんどだ。

 誰もやりたがらないことを率先して行う、そんなところも彼女がみんなから好かれる理由のひとつなんだろう。

 ぼくだったら自分にメリットがないと絶対しない。

 彼女にもお礼を伝えるくらいしかできなかった。

 そんなことを考えていたら、隣の席の椅子を寄せてきて彼女が座った。


「ね。いつもどんな本を読んでるの?」


 ぼくの手元の本をのぞきこんで尋ねてくる。

 ぼくと彼女の顔がぐっと近づき、彼女の髪からいい香りが ━━━ 。


 がたんっ!


「わっ……!

 東雲くん大丈夫!?」


 女性との慣れない距離感に椅子ごとひっくり返ってしまった。


「だ、大丈夫……ちょっと考え事をしてていい匂……いや、びっくりしただけだから……」

「ふふ。いつも落ち着いてる東雲くんでも、そんな事があるんだね」


 好きな子の顔が目の前に迫ったら誰だってびっくりするだろう……!

 いい匂いしたし!

 って言うか何を話せばいいのかもわからん!

 いい匂いしたし!


「……落ち着いてるってぼくが?」


 心の動揺を隠しつつ、体を起こし何とか会話を続ける。


「うん。クラスのみんなが騒いでても混ざったりしないし、でも話かけられた時はちゃんと返事はしてくれるでしょ。みんなの話はきちんと聞いてるってことだよね」


 自分からはうまく会話に混ざれないだけで、でも周囲のことは気になっちゃうから聞き耳を立てているとは思わないらしい。好意的にとらえてくれている。

 やだ、そんなところも好き。


「ほ、本だっけ? 最近読んでるのはラノベが多いかな。今読んでるのは恋愛モノで……」

「東雲くんも恋愛に興味があるんだ?」


 そりゃ興味あるに決まってる。健康な14歳思春期男子。

 しかもあなたを好きになったから興味が溢れまくっているところです。


 ……も?


「えっと……もって事は九重さん、恋愛に興味があるの?」

「あ! えと……うん、人並みにね!」


 ちょっと失言してしまったのか、あせってるところも可愛い。

 人並みとは一体どのくらいなのか。

 このまま恋バナを進めてもいいのか。

 てか好きな人がいるのではないか…!?


「九重さんもしかして、好……」


 思い切って聞こうとした瞬間、教室のドアが大きな音を立てて開いた。


「こら! お前等何時まで残ってるんだ! もうとっくに下校時間は過ぎてるんだぞ! とっとと帰れ帰れ!」


 せっかくのチャンスは見回りの担任によって阻まれた。

 九重さんがこんな時間まで残ってたのはお前のせいだろうが。

 おかげではじめてこんなに会話ができました、ありがとう担任。

 その日はここで彼女との会話は終了した。


 って次のチャンスなんてはたしてあるのだろうか。

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