不仲説流れる2topの裏側に。

木種

前編

「じゃあ、今日はこんなところで配信閉じまーす。明日のお楽しみが待ってるから多分今日はもうないかな。

 ばいばーい」


 とあるVtuberの配信が終わった数分後、同事務所内のメンバーのユウナが配信を始めた。


「んー、おはよう。今日も朝雑していこっか。

 昨日からね、友達が遊びに来てて朝食つくってあげるために早起きしたからあんまり眠れてないんだけど――」


 活動時間が殆ど被らず、同箱内ではあるがコラボ歴なし、箱内イベントでは同じチームになったことすらないがために不仲説が密かに噂される事務所発足時からいるメンバーの二人。

 登録者数が箱内においてNo.1とNo.2であることも拍車をかける要因になっている。


 ニナはその配信をスマホで流しながら湯気の立つコーンスープをひと口。配信後の栄養補給に頬を緩ませる。


「はぁ⋯⋯疲れた体に染み渡るぅ」


 画面に映るおっとりした雰囲気と柔らかい声質がマッチしたお姉さんの姿をスワイプして今日のスケジュールを確認する。

 明日は人気RPGゲームの待望の新作発売日。もちろんダウンロード版を購入済みでログイン戦争に参戦するつもりだ。

 ニナ自身はあまり思い入れのあるタイトルではないが、ストーリークリアまでの想定時間と数字の賞味期限を考えれば触れておいて損はない。前作から五年振りとあって、新規プレイヤーへの面倒な指摘よりも歓迎ムードが多いのも良い点だろう。

 加えて素が明るいニナはポジティブな発言が好評でこういったゲームとの相性が良い。


「始まる前に雑談枠をいれて人を集めておこうかな」


 配信告知をSNSにあげ、空になった食器を洗面台に置いて就寝した。



 時は進み、既に月夜に変貌しているなかベッドの上でようやく目を覚ますニナ。


「やばっ! もうこんな時間じゃん!」


 つくっておいた雑談枠まで残り五分。急いで喉を潤して、どうせ映らないのだからと部屋着のまま配信を開始する。


「こんばんはー。いやー、ギリギリ、ギリギリだったよー」


 そんなスタートに何があったと流れるコメントたちと会話しながら、夜食の配達を頼んで待つこと十分。

 エンジンが掛かり始め、前作について詳しい視聴者たちから学びながら楽しく過ごしているそのとき、配信部屋のなか、ニナがいる防音室の扉が開かれる。しかし、盛り上がる配信に夢中のニナは気付かない。


『今、音しなかった?』


 違和感を感じ取ったコメントが流れたその瞬間ときだった。


「ニナ、おかえりは?」

「えっ――んっ!?」


 イヤホンが擦れる音と何かに覆われるニナの唇。


『え、誰?』

『大丈夫⁉︎ 誰か鳩飛ばして!』

『通報案件じゃない?』


 加速するコメント欄の反応は様々で、一度も耳にしたことのない低い声に焦りと心配が混じったようなものが徐々に勢いを増していく。


「んー!! ちょ、ちょっと待って今配信中!

 ご、ごめんねみんな! 私は大丈夫だから! このあとの配信は一旦なしで!」


 突然やってきた相手を手で押し離したニナはそう言い、混乱収まらぬまま配信を切った。

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不仲説流れる2topの裏側に。 木種 @Hs_willy

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