第28話 毒は飲んでも呑まれるな③
気が付けばジョッキも何杯目。
気持ちよく酔えているのは、きっとサウナと風呂で身体から労働の記憶が抜けたからだろう。
「ねぇ〜〜聞いてる?立野くん!!!!」
現在、絶賛だる絡みを対処中。これ業務になんねぇかな。発生してくれ給料……!
お酒飲まないタイプとか言ってたくせに、やっぱりめんどくさい酔い方してるし。
「はいはい聞いてますよ、瑚夏さん」
「適当にしないで!もっと構って!」
つい最近までは一言も話さなかった間柄とは思えないな。
「一緒に銭湯来て飲んでるじゃないですか……これ以上どうしたらいいんだよ」
「んふ〜!」
どんどん減っていくジョッキの中身。
そりゃこれだけ飲めるなら、おじ様たちの飲み会にも呼ばれるだろう。
目の前で気持ちよく飲んでる人間がいれば、飲み会自体も楽しくなるのだ。
……まさか上司とかにこんな絡み方してないだろうな……?
「瑚夏さんって普段からこんな酔い方してるんです?」
「まさか!?カスの飲み会のときはビール1杯と後は烏龍茶だよ〜」
えぇ……。前言撤回、飲みっぷりで誘われている訳じゃなさそうだ。
それがどうやったらでろんでろんなるんだよ。
「……自重とかって」
「どうせここのお代は私がだすから自重なんてしません〜!かわいいかわいい後輩と飲んでるからね!」
勢いよく啖呵を切ると、彼女はおかわりのビールを注文した。
◆ ◇ ◆ ◇
「そろそろ帰りましょう、瑚夏さん」
時計を見れば終電も近い。
せっかくの金曜夜を飲みに費やしてしまった後悔は拭えないが、自分で選んだことだ、仕方ない。
「まだ飲めるわよ〜〜!」
だめだ、出来上がってるわこの人。
「はいはいもう終電ですよ」
「……このままホテルに泊まったら朝まで飲めるのでは
私天才かも……!」
「ありえない話は家に帰ってから妄想しましょうね〜」
「うぅ、後輩が冷たい」
「温泉入ったんでほっかほかですよ」
「そういう言い訳はいいの!」
ばたばた暴れる瑚夏さんを何とか引っ張って店の外へ。
雨はいつの間にか止んでいる。
ぐっしょり濡れたシャツとジャケットが右手にずっしりと響く。
あー、さっさとクリーニングに出さないとな……。
会計はこっそり払っておいた。
最近は何かと彼女に奢られっぱなしだったからな。財布が薄くなったのは気のせいだ。
遠くに見える駅の光、ここからなんとか彼女を電車に乗せないといけないのか。
「立野く〜〜ん!」
朗らかな声に振り向くと手を振る瑚夏さん。
「タクシー呼んだ!乗るよ〜!」
判断が早い。
そうだよな、大人だもんな。
あの千鳥足じゃここから駅まですらどれだけ時間がかかるかわからない。
短い距離で申し訳ないが、タクシーは正解だ。
どうせ乗るなら2人の方が安い。
「はーいありがとうございます、今行きます」
そう言葉を返して、俺も夜の闇に紛れる真っ黒な車にへと足を向けた。
揺られること数分。
「あの、瑚夏さん?」
さっきまでの構って構ってオーラはなりを潜めている。
どうしたんだ……なんだか少しピリついているような……。
「どうしたの?立野くん」
心なしか受け答えもしっかりしている。あれ、もしかしてもう酔いが醒めたのか。
「つかぬ事をお伺いするんですが」
そう、そんなことよりも聞かなければならないことがある。
「それって今重要なこと?」
少し声が震えている気がする。
おい待てよ、確信犯か!
次第に遠くなっていく駅の光。
どこだ、どこからが罠だったんだ……。
タクシーか、飲みか、銭湯か。
「とっても重要……というか自分の今後に関わることでして」
「よろしい、聞きましょう」
負けの確定している勝負があるとしよう。
ならば大切なのは負け方である。
将棋の最後の一手を指すみたいな、確信めいた声が図らずも口から漏れる。
「……このタクシー、駅から遠ざかってるんですけど」
しばしの沈黙。
彼女はくるっとこちらに顔を向けると、とびっきりの笑顔を作る。
「ふへっ……バレた?」
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