第3話 転生者はとりあえず冒険したい
ギルドの受付で冒険者登録を待っていたのは、やっぱり黒髪に黒目の女だった。
その瞳は夜空のようにきらめいている。
クロは正直、その黒い目だけは嫌いではない。
この世界の現地人には「黒髪黒目は呪われている」と忌避する者もいる。
転生者が増えすぎたせいで、反発が生まれた結果だ。
クロにも思うところはあるが――あの瞳だけは、しばらく眺めていたくなる。
……って思ってる場合でもないか。
可愛い子だからって仕事はサボれない。
さっさと登録を済ませよう。魔王(書類の山)もお待ちかねだし。
「冒険者登録、ありがとうございます。それでは、この書類に必要事項を」
書面を差し出すと、女は丁寧な字で記入していく。
同じゲンダイニホンから転生してきたもので、冒険者になりたがるのは大半が男だ。
このネイバーランドの人間は、性別関係なく戦うための身体能力が備わっている。モンスターを狩る程度であれば女でも問題ない。
ただ、転生者の女はなぜか恋愛に走りたがる。
「悪役令嬢ムーブをするわよ!」「婚約破棄してもっといい男を探す!」と息巻く。
……いや、ネイバーランドで貴族や王族なんてごく少数だ。
庶民の女に『悪役令嬢』の出番が来るとは思えない。
まあ、本人たちの自由だが。
考え事をしている間に書類が戻ってきた。目を通す。
「ベル・ソリティア。これは転生後の名前ですか?」
「はい。私はこの世界で生きていきたいので」
転生者にしては殊勝な心がけだ。
なにしろ、転生したということは、逆立ちしても元のゲンダイニホンには戻れない。
酒場で元の世界について未練がましくグチグチ言ってる連中よりはよほどマシである。
「それから、パーティー名も登録したいんですけど」
「ああ……申し訳ありません。『黄金の夜明け団』は既に登録が30件ほどあるので、被ってもいいなら」
「え……。あ、じゃあもう少し考えます」
「それがいいですね。パーティー名はあとからでも登録できますから」
クロが書類に判を捺していると、「あの!」とベルが声を上げた。
「早速冒険に出てみたいんですけど、何日くらい待てば
「え、もう登録は終わるので、いつでもどうぞ」
その言葉を聞いた途端、彼女はキラキラと目を輝かせる。
「わぁ……! 私、ゲンダイニホンで冒険小説を読んでいて、剣と魔法の世界に憧れていたんです! これで長年の夢が叶う!」
「はあ……。よかったですね」
クロは思わず気の抜けた声を出してしまった。
モンスターを退治するだけで、こんなに純粋に喜べるのは珍しい。
まずは他のパーティーに混ぜてもらって、狩りについて学ぶのがいいだろう。クロはベルにパーティーを紹介した。
ベルを含んだパーティーが街の外にある森へ出発して、数時間後。
モンスターの肉や骨、爪や牙が納品されてくる。
彼女は涙目で震えていた。
「なんでこの人、泣いてるんですか」
クロが尋ねると、パーティーリーダーは申し訳なさそうに頭を掻いている。
「モンスターを倒して解体してたら、なんか知らんけど失神してしまってなあ。解体を初めて見たらしい」
「ああ~……」
……まあ、気持ちは分からなくもない。
モンスターとはいえ、生き物だ。狩ったその場で解体しないと部位ごとに分けられない。
……ゲンダイニホンってどんなところなのか、ますますわからない。
モンスターをバラすことに慣れてないってことは、人間以外の生物がいないのかもしれないな。
ベルはその後、「私にはこんな残酷なことできません!」と冒険者登録を除名申請した。
……早いな。
〈続く〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます