瞬と春としゅん...と
神主 水
回想
俺が小学生の頃。海の見える神社があった。
本殿が海に向いており鳥居が縁取って
写真を撮ったように海を縁に収めている。
太陽の反射光は目を瞑るほど眩しく、飽きさせないように
漣にゆらゆらと揺れ、その主張の仕方を変えている。
そして蝉が夏の合唱をしている真夏の日。
滴る汗が居心地悪く俺の頬を伝った、暑苦しくて残酷な夏。
その日は太陽の主張が一段と強くなっていたのを思い出す。
俺は友達のAとBとの3人である計画を立てていた。
「誰か、あいつのカバン取ってこいよ」
Aがそう言ったのはなぜか今でも覚えてる。
他責のつもりだろうか。Aのせいにでもしたかったのだろうか。
そもそも、あいつと言うのは、小学校の頃いつも自分の席で本を読んでいた女子だ。
以下C子と呼ぶことにする。
顔はあまり覚えていないが、華奢で可愛かったことは覚えている。
彼女を見ると、いつも時間が過ぎていることに気づくのが遅くなる。
彼女に認知してもらいたいと思って、色々やった。
わざと横を歩いてみたり、消しゴムを近くに落としてみたり、
今考えると相当な変態だと思ってしまうのだが...
いわゆる恋心に動かされていたわけだ。
それが悪い方向に伸びてしまった。
この誘いに乗ったのも躊躇がなかった、
負の後先を考えずに欲に忠実な生き物だった。
何故そんなことをしたのか今でもわからないが、
きっと万人共通だろう。小さい頃ほど
生きやすかった時期はないなんてことは周知の事実ではないのだろうか?
何からも縛られないし、何をしても、それが悪いことでもいつかは
収束してきた。子供騙しの世界を俺は舐めていたのかもしれない。
初めて世界が自分に刃を向けた時、
それは一生物の深い傷になるとも知らずに。
不謹慎だが、俺はそう思ってしまう。
そして、決行の時。じゃんけんで僕が実行役と決まる。
その時の気分は、
当たりくじで大吉を当てたような高揚感に包まれていた。
AとBはいつもC子と遊んでいたように見えて、
俺は彼らをひどく羨ましく
C子はいつも笑って場を和ませて、
その表情を崩さない。
それが僕には楽しそうに見えた。
それが行きすぎた行動も時々あることは重々承知している。
筆箱がわざと落っことされて、中の文房具が机に散乱し、
それを踏む。彼女は笑って拾い上げていた。
本が教室の窓に投げ捨てられたとき、彼女は笑って、
教室から本を取りに出て行った。
AとBがいるからきっとC子は笑ってくれるだろう。
そんな欲望的観測で未来を測定をする。
そして鳥居をくぐる、彼女と目が合ったとき
俺は蝉の声が引き延ばされて、
夏がこのまま彼女に飲み込まれてしまう心地がした。
今はまだ彼女の口に笑みは浮かばないが、
むしろ少々の警戒と、目がぐらぐらと痙攣していた。
動揺か?逃げ道の確保か?恐怖か?
わからない。
だが、わかっていることは一つ。
AとBに言われたことをすればきっと彼女は笑ってくるれはずだ。
そして、無駄な自信だけを持って彼女に近づいて行った。
「D君?ど、どうしたの?」
彼女が、か細い声で俺に話しかけてくる。
名前と顔だけは覚えているらしい。
無駄な自信がさらに肥大化していく。
その栄養源はわからなかったが、いや、わからない。
なんであんなに自信が肥大化してったのか。
今になってもそれは理解できない。
年を重ねてくごとに消えていく何かなのだろう。
「えっ、あ、あの...」
肥大化した自信が一気に興醒めしていく。シラフに戻っていく。
今、理性が戻ってきた。
こんなことをして、彼女は笑うのか?
だが理性は、欲望に駆られていく。欲望は衝動に駆られる。
そして一気に動きを早めた俺は、
カバンに手を引っ掛けてAとBの元へ駆けて行った。
「えっ!?ちょっと!」
呆気に取られた彼女は、
おそらくこの状況を理解できてなかったのか、
言葉だけが、俺を追いかけてきた。
これできっと...なんて思ってた俺は馬鹿の極みだ。
その言葉はやがて嗚咽に変わって、何も生まなかった。
違う、俺が求めていたことはこんなんじゃない。
心に穴が空いたみたいになる。その中から黒い血飛沫が飛び散る。
とめどなく。そして僕の心は黒に染まって、
やがて虚無が生まれた。
あの日を境にC子は学校に来なくなった。
先生からの口からもこのことについては黙秘されていた。
まるで最初からなかったかのように。
それについで、AとBもいなくなった。
それ以外は何も変わらなかった。
そして今もその神社に参拝に行く。
傍に包装された花が枯れているのが、俺をまた苛んでいく。
瞬と春としゅん...と 神主 水 @kannushi125
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