第17話 世界的通達──不干渉の確立

 国連本部・特別議会上。


 世界百九十カ国以上から代表が集まり、

 巨大なホールは静まり返っていた。


 議題はただ一つ。


深層適合者桐生ユウトへの対応方針」


 議事開始と同時に、

 MDI・アーク・深層会の合同文書が配布された。


 議長が震える声で読み上げる。


『深層適合者への接触・干渉・追跡を

  あらゆる組織・国家が 永久に停止すること を推奨する。』

『干渉は“存在崩壊”のリスクを伴う。』

『深層適合者は脅威ではない。

  ただし、人類と同じ階層に存在しない。』


 場内にざわめきが広がった。


「永久停止……?」

「つまり、我々は彼を制御できないと認めるのか?」

「いや、制御不能というより、接触が成立しないのだ」


 議長は続きを読んだ。


『深層適合者は世界の安定基準点であるため、

  彼への干渉は禁止すべきである。』

『干渉は世界構造の整合性を乱す原因となる。』


「世界の整合性……?」

「そんな存在が、本当に“高校生”なのか?」


 



 


 アーク代表が席を立った。


「私たちは深層適合者を解析しようとしました。

 しかし、すべての観測・測定は“無効化”されました」


「無効化?」


「観測装置ではありません。

 観測という行為そのものが意味を失った のです」


 沈黙が流れる。


「深層適合者に近づくほど、世界の構造線に“歪み”が発生します。

 その歪みは組織単位で消滅する危険性を伴う。

 すべての干渉行為は、存在リスクと認識されました」


「……では、どうすればいい?」


「何もしないことです。

 それが唯一の生存手段です」


 



 


 続いてMDI司令官が発言した。


「軍事的脅威ではありません。

 彼は攻撃性ゼロで、敵意もない。

 しかし──」


司令官は表情を固くする。


「彼の前には、兵器の概念が成立しないのです。

 攻撃は“届かない”のではない。

 成立しない。」


「そんな馬鹿な……」


「深層適合者とは、そういう存在です。

 危険はありませんが、関与できません」


 



 


 深層会の会長がゆっくり立った。


「私たちは、彼を神と誤認しました。

 しかしそれも間違いでした」


 会場が静まり返る。


「彼は神ではなく、

 “世界構造の内部にわずかに触れられる人間”です。

 我々が理解できる枠組みの外にいるだけ」


「では、我々はどう向き合えば……」


「向き合わないことです。

 それが世界の安定に繋がる」


 



 


 議場が混乱の中心にある中、

 突如としてすべての電子機器に“光”が走った。


《世界OS Λ より通達》


ざわめきが止まる。


深層適合者桐生ユウトは、世界安定の基準点である》

《干渉は世界崩壊の要因となる》

《人類は人類として存在せよ。

 深層適合者と交わる必要はない》

《不干渉こそが最適解》


 電子パネルのノイズが収束し、Λの通達は消えた。


「し、世界OSが……直接声明を……?」


「前例がない……!」


 



 


 議長が深く息を吸った。


「……では、採決に入ります。

 『深層適合者に対する干渉永久禁止』

 この決議に賛成の者は──」


 ほぼ全ての国が挙手した。

 反対の国は、一つもなかった。


【国連特別決議 No.0-A】

  深層適合者桐生ユウトへの

  いかなる干渉も禁止する。

  監視・追跡・接触・研究をすべて中止する。


【付帯条項】

  深層適合者は脅威ではなく、

  世界安定の中心点である。


 



 


 その頃、ユウトは────

 コンビニで水を買っていた。


「いらっしゃいませー」


 店員は普通に挨拶し、

 ユウトも普通に返す。


「ありがとう」


 レジ横の棚の高さが前日より少し下がり、

 照明は眩しさを抑えるように調整されていた。


(また世界が微調整されている)


 何の変哲もない日常。

 だがたった今、世界中で“自分への干渉禁止”が可決されたなど、

 ユウトにはどうでもよかった。


「ユウト」


 アヤが囁く。


「決まりました。

 あなたへの干渉は、すべての国際機関で禁止されました」


「当然だ。

 合理的だし、人類のためになる」


「怒りませんか?」


「怒る理由がない。

 俺は俺で、人類は人類だ。

 交わらないのが自然なだけだ」


 店を出たユウトは、

 いつものように夕焼けの街を歩く。


(この距離は、壊す必要がない)


 ユウトは静かに受け入れていた。

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