無記名世界最強 〜裂け目に落ちた一般人、管理者権限で現代ダンジョンを無双する〜
@ARkn3Jnnb1TVm9
第1話 落下──暗黒物質と世界最深層で生まれた器
三年前の“ダンジョン発現”以来、
日本国内では亀裂型ダンジョンの突発生成が続いていた。
それでも――今日のそれは異常だった。
深夜二時十九分。
北部高速下の複合物流路。
可燃性化学燃料を積んだタンクローリー三台が並走していた時だ。
空間が沈んだ。
アスファルトが、液体のようにたわんだ。
黒い水面のような“穴”が中心に生まれ、
その縁が高速で崩落していく。
「まさか……ダンジョン最深層の直結型か?」
桐生ユウトは運転席から飛び降り、
近くにいた作業員の肩を掴んで退避させた。
力加減はした。
だが、押し飛ばした瞬間――
作業員の身体が、紙のように軽く浮いた。
(力が……強すぎる?
いや、そんな馬鹿な)
考える間もなく、
タンクローリー一台目が闇へ落下。
続いて二台目。
三台目。
可燃性液体が霧散し、
空気に触れた途端に引火するはずだった。
だが――
燃えなかった。
爆炎は発生せず、
炎の“情報そのもの”が吸い込まれるように消えていく。
(……燃焼データが消されている……?)
ユウトの分析より、
落下の方が早かった。
踏みとどまるはずの足場が、
何の抵抗もなく“下へ”滑った。
次の瞬間――
ユウトは、三台のタンクローリーと共に
ダンジョン最深層へと落下していた。
◆
落下中、視界は暗黒に覆われた。
だが、ユウトは暗闇を“暗闇として認識していなかった”。
(……見える。構造が)
黒い粒子が霧のように漂い、
その奥に極細の波形が絡み合っている。
暗黒物質――
ダークマター。
だが観測不能なはずのそれが、
はっきりと“形”を持って見えていた。
(あり得ない……
俺の脳が、この密度を処理してる?)
落下速度は上がり続けるのに、
恐怖はこなかった。
代わりに、思考が静かに深まる。
空間を満たす黒い波形。
複雑な揺らぎ。
タンクローリーの鋼材が波形ごと“分解”されていく様子。
次の瞬間――
ユウトの身体も、その波形に触れた。
脳が焼き切れるはずの負荷。
だが。
痛みはなく、
むしろ脳が“拡張される感覚”が襲った。
膨大な情報量に押しつぶされるのではなく、
脳がそれを受け入れられるように
“形を変えられていく”。
(……これ、脳の構造そのものが書き換わっている?
ニューロン……いや、量子層レベルで……)
混乱はなかった。
冷静に受け入れられる自分も異常だった。
やがて、世界が白く弾け――
ユウトは意識を失った。
◆
目を開けた時、
そこは自宅のベッドだった。
時刻は午前六時二分。
服装も変わっていない。
床には昨日脱ぎ捨てた靴がある。
つまり――
“落下による肉体的損傷はゼロ”。
ユウトはゆっくり起き上がった。
視界の解像度が異様に高い。
カーテンの繊維の微細な毛羽立ちまで認識できる。
耳鳴りが消え、
外の車音の距離・速度・車種まで正確に分かった。
身体を動かす。
肩。
肘。
指先。
どれも“意思どおり”ではなく、
意思を先読みして最適化された軌道で動く。
(これ……筋力とかじゃない。
脳神経の反応速度が、桁違いに速くなってる)
心拍数は安定。
呼吸は自動的に最適化。
平静さが過剰なほど保たれている。
そのとき、
《観測ログ開始。
深層権限:封印状態を確認》
視界右側に淡い青のウィンドウが出現した。
現実離れしたUI……だが、
ユウトは直感的に理解した。
(これ、世界側の“通知”か)
《世界ランキング:無記名 1位
※認証理由:深層接続値が基準最大を突破》
「……世界一位? 俺が?」
《補足:
ランキングは“戦闘力”ではなく
“深層アクセス適合度”によって決定されます》
「アクセス……適合?」
《あなたの脳構造は
深層層(Deep Layer)との直接接続を許可された唯一の構造です》
ユウトはゆっくり立ち上がる。
自分の脳が――
感覚や反射速度ではなく、
根本的な処理構造そのものが人類基準を超えていると理解した。
(……脳の強化。
視覚情報、音声情報、重心制御……
全部が“同時処理”できる。
これはもう、人間の枠じゃない)
窓の外に黒い車両が止まる音がした。
複数の気配。
静かな通信音。
(監視か……早いな)
ユウトは冷静に状況を整理した。
ダンジョン裂け目に落下
暗黒物質層で脳・神経・細胞が再構築
世界ランキング1位“無記名”に認定
深層権限は封印されている
それでも器は完成しつつある
「……世界は、俺を“異物”として扱い始めたわけだ」
《肯定:
あなたは“人類として扱えない存在”に分類されました》
ユウトは短く息を吐き、
顔を上げた。
「なら、確認するしかないな。
この器が――どこまで通用するのか」
その声は、
人類の限界を越えた存在の“第一歩”だった。
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