短夜

3角4ヵ区

序章

 降り積もる雪にも見慣れてしまった、北の街の十二月。


 夜、仕事の手を止め自室の窓掛カーテンを開けますと、暗闇の中に白ばかりが映え、逆に目を傷めてしまうようなのでありました。私は外を覗き込んでは、その白さに目がやられてしまい、慌てて瞼を閉じる、という幼児のようなことを繰り返しては、代わり映えのしない、日常の責務に追われる焦燥感と空虚感からも目を背けておりました。

 雪というのは強情なやつであり、自分が美しく降り積もるために不必要なものは一切覆い隠すのであります。

 私達の移動に必要不可欠な車も

 小さく縮こまり春を待つ植物達も

 自らが地面へ落ちるための音さえも

その殆どを遮り、白一色に換えてしまうのです。まるではじめからであったかのように。


 …冬の景色だけにここまで考え込んでしまっては、私は暫くは仕事へ集中することが出来ません。私はノートパソコンを静かに閉じると、ぼんやりと、窓とも外ともつかない寒空を眺めました。


 私は、時間に空きができると、必ずと言っていいほど、中学生の頃のあの夏の出来事を思い出します。

 思い出す時期に関係はありません。如何なる季節や時刻にも想起の行為が左右されません。


 私はきっと今も、あの夏に囚われているのです。

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