ありんこ召喚無双 ~王族に転生して天才と持て囃されたけどろくに召喚術が使えなくて追い出されました~

農民ヤズー

第1話クソったれな未来の出来事



「どうかお願いします! 俺と契約してください!」


 すがすがしい青空が広がる中、ここでお昼寝したら気持ちいいんだろうな、という木陰の下で俺は今――土下座をしていた。


 召喚術によって栄えた国、シンクレア。その一番最初に生まれためちゃくちゃかっこいい王子。それが俺だ。

 周辺国からの戦争を吹っかけられることはあっても、その全てをはねのけてきた俺達が誰かに遜ることなど、普通であればありえない。


 それなのに、今の俺はこれ以上ないくらいきれいに土下座をすることになっていた。


「嫌よ」


 このクソアマ……俺がこうして頭を下げてるっていうのに断るとはいい度胸してんじゃねえか!


 とはいえ、ここでそんなことを言うわけにはいかない。

 今俺が頭を下げている相手は、俺と相性のいい存在であり、召喚獣として契約することができるかもしれない相手。

 ここで契約することができなければ俺の今後は色々と不味いことになるためどうにかして契約したいのだが……相手は女王を名乗るほどの存在だ。流石においそれと契約をとはいかないようだ。


 じゃあどうするか? そんなの決まってるだろ!


「そこをどうにか! マジでこの通りです! お願いします!」


 全力で頭を下げてお願いする。これに限る!


「契約ってあなたね……私が誰なのかわかっていっているのかしら?」

「ははあ! それはもちろんでございます女王様!」


 必死になってへつらい、頭を地面にこすりつけてでも下手に出て頼み込む。

 哀れでも惨めでも知ったことか!


「そう。私は女王なの。それが分かっているのに、貴方はたったこれっぽっちに貢物で私を使役しようっていうの? 私と契約をしたいのなら、この三倍は持って来なさい!」

「さ、三倍ですか……?」

「ええ。それとも、何? 私ごときには三倍も出せないっていうの?」

「い、いえ、決してそのようなことは!」


 三倍なんて交渉してきたことには驚いたけど、それで済むなら安いものだ。いや、ほんと。マジで安いものだ。


「なら、早く用意しなさい。そうしたら契約してあげるわ」

「ありがたき幸せ! 女王様万歳!」

「ふん。まったく、態度だけはしっかりしてるわね」


 そうして下手に出続けたおかげか、女王は契約に応じてくれた。ヨシッ! これで俺も今日から召喚術を使えるようになったぞ!


 内心では狂喜乱舞しているが、それを表に出して嫌われてもまずいし、殺してしまってもまずい。少し踏んだだけで相手は死ぬかもしれないからな。


「こちらをどうぞ。契約の対価として|角砂糖三つ(・・・・・)をお渡しいたします」


 そう言いながら、持っていた小袋から角砂糖を取り出し、一つ二つと〝女王蟻〟の前に追加で積み上げる。


「それでいいのよ。仕方ないから契約してあげるわ。私の子供達を自由に呼ぶ許可を出してあげる。私を呼ぶときは別途今回と同じだけの報酬を用意なさい」

「へへえっ!」


 まるで下民が王にするように、土下座をしながら大げさなくらいに返事をする。

 そうしている間に女王は自分の巣に戻っていき、俺が積んだ角砂糖は無数の蟻たちが運び、巣に持ち帰りだした。


 持って帰っても入り口で詰まっているが、まあ何とかするだろ。契約した以上はもう俺関係ないし。精々困ってろクソ虫ども。


「……ふう。何とかなったか」


 十歳で契約することが普通の国で、十五歳になるまで契約することができなかった俺はだいぶ肩身が狭かった。それでも何とか契約を結ぶことができた。


「でも、これで俺も契約はできたぜ! 行くぞ、召喚!」


 人生で初めての召喚をするために何度か大きく深呼吸をし、複雑な感情が渦巻いている心を落ち着ける。

 そうして召喚術を使用し……召喚できた。………………蟻が。


「……ハッ。召喚、できたなぁ……」


 召喚術はうまく発動した。契約した対象も呼び出すことができた。……虫眼鏡で見ないといけない程小さいけど。だって蟻だし。魔物の蟻ではなく、ただの蟻。文字通りで言葉通りの、何の変哲もない蟻。踏めばプチッと死んでしまいそうな蟻。

 それが俺の召喚獣だった。……召喚〝獣〟か、これ?


「すぅ………………くそったれがあああああああ!! なんだよ蟻と契約って! これのどこが召喚術だ!」


 俺の人生、どこで狂ってしまったのだろうか? この世界に生まれ変わった時は割とかなり大分順風満帆な人生だったのに。

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