第3話 地方都市のギルド

 俺はまず王都の冒険者ギルドで登録をした。



 偽名を使ってもいいのだが、セシルとだけ記入した。



「セシルか。じゃあ、これで登録しておくよ。職業は魔導士であってるか」



 ギルドの受付のおっちゃんは俺の記入用紙を何も疑わずにそう言った。



「ああ、魔導士だ。姓は記入しなくていいんだな」



「いらないよ。そもそも大半は姓なんてないか、忘れちまった連中ばかりだからな」



 これならセシルという名前ですぐにバレることもないだろう。そもそもありふれた名前だ。



「初心者向けの簡単な依頼なら、壁に貼ってるからな。それを見てくれ」



「いや、せっかくだし、地方を拠点にしたいんだ」



「地方? もしかして、何かやらかしたのか?」



 受付のおっちゃんは怪しむように俺を見たが、すぐに関心を失った顔になった。



「まあ、そんな奴もいるか。別に好きにやってくれればいいぜ。王都にいられなくなる奴もいれば、その逆で王都に潜伏する奴もいる。死なないように気をつけな。あと、盗みと殺しはするな。謝っても許してもらえなくなるからな」



 まるでほかの詐欺とかは許してもらえるような言い方だが、ギルドの底辺の冒険者は軽犯罪ぐらいはやってる奴もいるのだろう。



 こうして、俺はセシルという名前で冒険者登録をした。











 遠方に行く商人の馬車を乗り継ぎ、とにかく王都から離れた。





 実に三週間かけて、西のトールカという地方都市に着いた。別にこの街を目指したというわけではなく、なんとなく流れに流れて到着したというだけだ。





 規模は小さくてもこの土地の中心都市なので、冒険者ギルドもちゃんとあった。俺は早速、そのギルドに入った。




 ギルドの中では包帯をしたケガ人が何人かいた。




「いやあ、腕力には自信があったんだけどな。あいつらのほうが一枚上手だったぜ」

「腕なんて大木ぐらい太かった。ありゃ、どうしようもねえよ」




 男たちの声が思ったよりも陽気なのは生きて帰ってきたからだろうな。苦戦も含めて武勇伝になっているんだろう。




「なあ、この土地は初めてなんだけど、何があった?」



 俺は口にしてから丁寧語のほうがよかったかな……と思った。貴族の生活が染みついてたから、素でタメ口が出てしまったのだ。これは世渡りをミスしたかもしれない。



 だが、その心配はなかった。



「おお、若い奴だな。いやな、オーガが畑を荒らすんで剣士三人で向かっていったんだけど、オーガの棍棒で返り討ちさ。この報酬額じゃ割に合わねえよ」




 俺のタメ口は一切咎めずに、冒険者の一人が答えた。どうやら、冒険者業界では年功序列も、芸歴の差もあまり気にされないらしい。




「剣士三人って言ったな。ということは魔法を使える奴はいなかったのか?」



「こんな田舎には魔導士なんてなかなかいねえよ。もっと大きい都市でも引く手|数多(あまた)だからな。やけに身ぎれいだけど、もしかして王都のほうから流れてきたのか? あっちなら魔導士だって珍しくないだろうな」



「ああ、そのとおりだ。でも、犯罪やって逃げてきたんじゃないぞ」




 冒険者たちは豪快に笑った。




「心配すんな。白だろうと黒だろうと、俺たちは他人の過去は漁(あさ)らないぜ。みんなお互い様だからな」




 冒険者らしいと言えば、らしいな。




 にしても、長らく学院での生活に慣れてたから意識してなかったが、ちゃんと学院の外側にもこういう社会が存在してるんだな。当たり前だが、上流階級だけで世界が構成されてるわけがない。



 魔導士がいなかったのか。ちょうどいいな。自分の魔法がどれぐらい通用するか、実戦で試せる機会になる。



「そのオーガ退治、やってみる。どのへんに出没するんだ?」




 冒険者たちがぽかんと口を空けた。




「おい、本気か? 一人で行ったらほんとに死ぬぞ!」



「俺は魔導士として冒険者に登録してるんだ。登録したてだから実戦経験はないが、だからこそどこかで実力を見ないといけない」




 冒険者として暮らすための魔法の特訓はこの二年欠かさずやっていた。




 もともと、乙女ゲーの世界でもセシルは魔法の素養があった。シナリオによっては怪しい黒魔法を使う集団と接触して、そいつらにマーガレットの排除を画策したりまでする。




 明らかにヤバい奴との接触はやめておいたが、セシルが魔法が得意だったことは事実だ。その能力をひけらかしたりもせずに、独り立ちの時のために磨いてきた。




 魔導士は冒険者の中でもある程度、稀少価値がある。滅多にいないってものではないが、重宝はされる。なら、食っていけると思ったのだ。




「そっか。新人、俺も同行する。料金は酒3杯だけでいい」




 男の一人は真面目な顔で言っていた。俺を心配してくれてるのは誰にでもわかった。




「ありがとうな。でも、俺に優しくしてくれてもコネも何もないぞ」



「はぁ? 冒険者のコネに期待する人間なんているわけねえだろ。貴族じゃねえんだからよ」




 権力とか一切抜きで、優しくしてくれる人間もいるんだな。




 正直、ちょっとうれしい。媚びへつらってくる奴ばかり学院では見てきたからな。何割かは転生前のセシルの生き方のせいなんだが。




「じゃあ、案内してくれ。オーガを仕留めてみせる」



「わかったぜ。新人、名前は?」



「セシルだ。そっちは?」



「ガーラントだ。よろしくな」


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