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葦葉つみれ

第一章

第一話[秘密の花園-Die Lilien-]

 銃声が鳴り響く。


 戦場にこびり付いた血の匂い。

 地面に倒れ伏している生徒たちを掻き分けながら、二人の少女は走っていた。


! 準備はいいですよね」

「もちろんよ、。一緒に決めましょう!」


 銃弾を補充し、引き金に手をかける。


 たとえどんな過酷な戦いが待ち受けようとも、あなたと一緒なら、乗り越えられると信じているから―――。



◆◆◆



 庭園を飾る白百合の花々。

 行き交う美少女たちの笑い声と足音。

 お城と見間違う校舎からは、軽やかなヴァイオリンの音色が響いていた。

 

 純白のジャンパードレスを引き締めるのは、胸元で結ばれた大きなリボン。


 ―――《私立百合咲女学園》。


 東京都郊外に位置する、中高一貫の女学校である。

 それも、百年もの歴史を持つ超名門校。

 真っ白な制服と、やけに美少女揃いな生徒たちが有名な、我が国随一のお嬢様学校としても広く知られている。

 噂では、百合咲女学園を卒業しただけで素晴らしい将来が確約されるとか……まあ、流石にそれは大袈裟がすぎるけど。


「一体、どうしてこんなことに……?」


 短く切り揃えられた金髪の少女は、そう深いため息を吐いた。


 本当にどうして、こんな名門校に、ど平凡だったはずのわたしが居るんだろう……。

 何度聞いても、いつまで経っても、到底受け入れられる気がしない。



 に目覚めたせいで、転入を強制されてしまっただなんて―――。



「どうしたの、佐伯さん? そんなにうなだれてしまって……私で良ければ、お話を聞きますよ」

「い、一条先輩。お気になさらず……。」


 彼女のルビーのような瞳が心配そうに細められる。特徴的な青髪を高い位置で結んだ、優しげな少女――一条麗香いちじょう・れいかは、そう答えるわたしの頬に手を添え、心配そうに首を傾げた。

 彼女の付けている分厚い革が直で肌に触れて、なんだかむず痒い。


「そういうわけにはいきませんわ。だって、私は貴女の姉役シュヴェスターですもの」


 そう。彼女とわたしは、なる契約で結ばれた擬似姉妹関係らしい。

 シュヴェスターとは、学校側から指名された上級生が特定の下級生に任務から学園生活・はたまた日常生活まで教えを説く、特別な二人きりだけの関係性なんだとか。


「それに。佐伯さんには、大事な大事な『初任務』が控えているんだもの!

万全の状態で迎えましょう、ねっ。」


 ―――任務。


「……ありがとうございます、先輩」

「ええ。絶対に成功させましょう!」


 ああ、本当にどうしてこんなことに!


 「佐伯さんとたくさんの人を助けられる日を楽しみにしているわ」なんて、やけに機嫌が良さげに隣を歩く麗香の横顔を、景は暗い面持ちで見つめていた。


 ―――任務。


 それこそが超能力の存在をも超える、百合咲女学園に隠された驚きの秘密だった。


 超能力に覚醒した少女たちに課せられたのは……

 『及び』。


 多くの女子高生たちが一般の授業を受けている中、彼女たちは射撃訓練を受ける。

 多くの女子高生たちが放課後に遊びに行っている中、彼女たちはハンドサインを覚える。

 そして、多くの女子高生たちが夜寝静まった頃に―――彼女たちは任務に出掛ける。


 銃声のない夜など、ここには存在しない。


(ホント、冗談じゃない!)


 多くの少女たちから尊敬を集めている女学園の実態が、まさかこんなトンデモ施設だっただなんて。

 


 ―超能力。

 ―中高一貫のお嬢様学校。

 ―秘密の任務。

 ―擬似姉妹制度。



(うぅ……わたしはただ、平穏に暮らせていれば良かったのにい……‼︎)


 転入してから早二週間。

 わたし佐伯景さえき・けいは、そんなこんなで、未だに学園生活に慣れないままでいた――。

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