第4話:『嫌ってるはずなのに、助けてくるのやめてくれません?』

イリスが気絶したあと、近くの街まで運んだ俺たち。宿に着き、ルナが淡々と告げる。


「イリス=ローヴァの魔力は安定したわ。……でも、目覚めたらまたあなたを襲う可能性が高い」


「いやもう、あいつ絶対俺の顔見たら“うわ最悪だ”って言うだろ」


「正確には“殺す価値もない雑音”って言いそう」


「表現のダメージがデカい!!?」


そんな会話をしていると、ドアの向こうから小さなノック音がした。


コン、コン。


ルナが開けると――そこに立っていたのは、さっきまで気絶していたイリスだった。


「……起きてんのかよ!?」


イリスは無表情で言った。


「お前が寝かせたベッド、硬すぎ。腰痛めた」


「最初の文句がそれ!?」


イリスは部屋に入ってくる。が、距離を詰めるのはユウではなくルナの方。


「……そこの天界の女。少し話がある」


「私? なんの用?」


「“何故、あいつを守った”」


指差された俺は、思わず変な声が出た。


「え、俺関係の話!? 聞きたくないんだが!?」


ルナは淡々と答える。


「護衛の役目だからよ」


「嘘だな」


即答だった。


イリスの目がルナを鋭く読むように細まる。


「お前の戦い方、完全に“消す側”だった。護衛なんて柄じゃない。それがお前みたいな神託士が守りに回った理由は――」


視線が俺に向く。


「……あいつに“興味”を持ったからだろ」


「ッ……!」


ルナの耳が赤くなった。


わかる。俺でも分かる。完全に図星食らった時の反応だ。


「お前……なんで分かんだよ」


「俺は“奪われた人生の感情の揺れ”に敏いんだよ。他人の表情ぐらい読める」


イリスは吐き捨てるように続けた。


「だが忠告しとく。そいつは“未来改変の中心”。近づけば、お前の運命まで巻き込まれる」


「……わかってる」


ルナはきっぱり答えた。

その目は静かだけど強くて、俺はちょっとだけ鼓動が跳ねた。


イリスは小さく鼻を鳴らす。


「で、ユウ」


「なんだよ」


「俺はまだお前を許してないし、むしろ見てるだけでムカつく」


「言い方ァ!!?」


「だが――」


イリスは俺に歩み寄り、胸ぐらを軽く掴む。


殺意はさっきより薄い。

けど、怒りはちゃんとある。


「未来のお前が消した“俺の人生”……その痕跡が、まだ世界に残ってる。俺はそれを取り戻すまでは死ねないし、お前を殺す気も、今はもうない」


「……今は?」


「邪魔なら殺す」


「やっぱ殺意あるじゃねぇか!!」


ルナが横から制止するように言う。


「イリス。ユウを狙うなら、私があなたを敵と見なす」


「脅しのつもりか?」


「忠告よ」


2人の間に強い魔力が走り、ピリッと空気が震えた。

俺は慌てて割って入る。


「やめやめ! 俺、挟まれるの慣れてねぇから!!」


イリスは一歩下がり、ふっと息を吐いた。


「……まあいい。お前とはまだ決着をつける気はない」


そう言って、踵を返す。


だがドアを開ける直前、イリスは少しだけ振り返った。


「街の外れに“黒痕こっこん域”が出てる。ヴォイドが近くにいる合図だ。……死にたくなければ、今夜は出歩くな」


「え……それ俺を助ける忠告……?」


「勘違いするな。お前が死ぬと、俺の人生の痕跡も完全に消えるだけだ。お前を守ってるわけじゃない」


そう言って、イリスは去った。


扉が閉まった瞬間、ルナがぼそっと呟く。


「……不器用ね、あの人」


「いや、あれはもう不器用ってレベルじゃないだろ。ツンデレの重症患者だよ」


「ツンデレ……?」


「説明は後でいい!!」


その夜、窓の外で黒い靄が揺れていた。

ヴォイドは確実に近づいている。


そして俺は悟った。


――敵は世界の修正だけじゃない。俺が背負った“未来の俺の罪”が、次々と形になって迫ってくるんだ。


でも逃げない。

逃げていい気もしない。


「未来の俺。お前が残した修正跡……全部、俺が向き合ってやるよ」


静かな誓いの中で、夜が深く沈んだ。

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『転生したら“未来の俺”が神になってて、全部決め打ちで運命操作してきたんだが!?』 紫亜 @sorair

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