第3話:『未来の俺が消した人生、その被害者が目の前にいた』
森を抜けて二時間。 ルナと二人、街へ向かって歩いていた。
「……で、さっきのヴォイドは何だったんだ?」
「簡単に言えば、“あなたを消去するための世界の意思”。 未来のあなたが運命をいじりすぎたせいで、世界が修正を始めたの」
「未来の俺、あらゆる方面に迷惑かけてんじゃねぇか!」
「今さら?」
即答された。 心に刺さるわ。
そんな会話をしていると、前方から騒ぎが聞こえた。
「避けろーーッ! 魔力暴走だ!!」
「魔力暴走?」 「珍しい。普通は抑え込めるものだけど……」
人だかりをかき分けると、そこには一人の青年がいた。
銀灰色の髪。 鋭い目つき。 魔力がまるで刃のように身体から漏れている。
そして視界の端に、俺だけに“修正跡”が見えた。
〈修正跡:イリス=ローヴァの人生: 本来“英雄候補として生涯を歩む” → 神ユウにより“一度削除”〉
「………………は?」 未来の俺、何やったんだ???
ルナも気づいたようで、目を細めた。
「ユウ、あの人の修正跡……すごい量」
「俺も見えてる……なんでこんな……」
青年は地面に手をつき、苦しそうに歯を食いしばった。
「チッ……まただ……! 俺の“本来の未来”が……どこにあるのか分からねぇ……!」
魔力が暴発し、周囲の地面がひび割れる。
人々が逃げ惑う中、俺はなぜか足が勝手に動いた。
「おい! 大丈夫か!?」
叫んだ瞬間、青年の視線が俺を射抜く。
そして、俺を見た途端――
「……っ!!」
魔力の暴走が一気に落ち着いた。
周囲の空気が凍りつく。
青年は俺を睨みつけ、震える声で呟いた。
「お前…… ……やっと見つけた。俺の人生を“壊した”元凶が」
「待て!? 俺じゃなくて未来の俺だ!!?」
「知るか!!!」
青年の怒りが爆発した。 いや文字通り魔力が爆発した。
地面がめくれ、空気がうねり、魔力の奔流が俺に向かう。
ルナが即座に俺の前へ立った。
「下がって。殺される」
「いやいやいや! なんで初対面で殺される流れなの俺!?」
だが青年――イリスの魔力は明らかに質が違った。
圧が重い。 殺意が刺すようだ。
「未来のお前が……俺の道を奪った。 俺が積み上げた全てを消した。 気づいたら人生が“書き換えられて”いたんだよ……!」
「俺は知らねぇ! ほんとに知らねぇんだって!!」
「だからなんだ!」
イリスは手を突き出す。
魔力が刃のように凝縮する。
「“
黒い文字列が空中に浮かびあがり、 それが一斉に俺へ殺到する
「ユウ、伏せて!」
ルナが光の盾を展開する。 だがイリスの魔法がぶつかった瞬間、盾が一発で割れた。
「えっ!? 割れんのこれ!? 魔王級じゃん!!」
「この魔力、“書き換えられた人生”の反動…… 普通じゃない」
イリスはゆっくり歩み寄る。
怒りで狂ってるわけじゃない。 ただ、奪われた人生を返してほしいだけだ。
だけど彼は俺を見るたびに、 その怒りを意味もなく俺にぶつけるしかない。
「お前を……許さない」
「俺じゃない! 未来の俺だって!!」
「未来のお前も、お前だろうが!!」
逃げ場なし。
その瞬間だった。
視界の端に文字が走る。
〈修正跡:本来“ユウ死亡” → 神ユウが“イリスの攻撃を途中で中断”に変更〉
「え……?」
イリスの動きが、ピタリと止まった。
表情を苦しそうに歪め、胸を押さえて喘ぐ。
「ぐっ……また……! またこの“書き換えの痕”が邪魔を……!!」
地面に片膝をついた。
ルナが小声で言う。
「ユウ、今なら逃げられる」
「……いや」
俺は一歩前に出た。
「逃げねぇよ。 こんだけ苦しんでるやつ置いて逃げられるかよ」
イリスが顔を上げる。 その瞳は、憎しみと……迷いで揺れていた。
「なんで……近づく……」
「未来の俺がやったことだからって、 “今の俺までお前の敵でいる理由はないだろ」
沈黙。
イリスは悔しそうに唇を噛みしめ、顔をそむけた。
「……気に入らねぇ…… ……けど、今は……殺す気が起きねぇ……クソッ……」
魔力が完全に収まり、彼はその場に崩れ落ちる。
ルナがぽつりと言う。
「ユウ。あなた……“本来の主人公像”じゃないのね」
「え、どういう意味?」
「普通は逃げるのに、あなたは“改変の被害者”に手を伸ばした。 その行動……未来のあなたが“予測していない”」
「それって――」
「えぇ。 あなたが自分で選んだ一歩が、この世界の運命をずらし始めた」
俺はイリスの横にしゃがんだ。 彼は気絶してるけど、呼吸はある。
「未来の俺。 お前がいじった運命、全部俺が直してやるよ」
誰に聞こえるでもなく、呟いた。
――その言葉が、この世界にとって“最大の選択”になることを、 この時の俺はまだ知らなかった。
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