第12話

「申し訳ございません。現在、ポーションが品薄となっていまして」

 

 申し訳なさそうにする店員に此処もかと幾つか店を回ってきたがどこも品薄状態で何故、そんなことになっているか尋ねると獅子王が五階層を制覇したことで触発された生徒達がダンジョンに潜る為にポーションを買い漁っている様で逆にポーションを売ってくださいという事態となっている。

 

 困ったことになった。フラウが神聖魔法を手に入れたお陰で左程、ポーションを必要としてはいないもののフラウを回復役だけに使うのは勿体なくいざという時の為にポーションは確保しておきたい所でどうしたものかと悩みながら店を後にする。


「良かったら錬金術師を紹介しようか?」

 

 金倉と装備について打ち合わせをしていた所でポーションが品薄な状況を伝えるとあっけらかんと提案してくる。


「それは有難いが。今、手隙な錬金術師なんているのか?」


「職人肌な子でねー。認めた相手にしかポーションを売らないの」

 

 このポーション品薄の状況でやろうと思えば荒稼ぎ出来るだろうにそれをしないという事は自分の仕事に誇りを持っている職人気質の人物であるという事であり金倉は携帯で連絡を取っており直ぐに来るってさと言う。

 

 そう時間を置かずに部屋がノックされて入ってくる。清潔そうな白衣を羽織った眼鏡を掛けた少女で目元に大きな隈を作り見るからに不健康そうな子でありかなり瘦せすぎている印象だ。


「同じクラスの那須香蓮ちゃん」


「よ、よろしく」


「どうも。柏崎命です」

 

 お互い自己紹介して向かい合う様に座る。目線を合わせようとせず人付き合いが苦手な子なのかなと思い出来るだけこちらから喋らず相手のペースに合わせて話すことにしよう。


「命くんが香蓮ちゃんのポーションが欲しいんだって」


「わ、私のなんかで良いんですか?」


「もー!直ぐそうやって自虐するー。香蓮ちゃんは薬師なんだからポーションの専門家でしょう?」

 

 薬師とは生産職の中においてポーションに特化した職業でかなりレアな職業だと聞いたことがある。そんな彼女のポーションは普通のものよりも値打ちのあるもので是非とも手に入れたい。


「是非、購入させてほしい。必要なら素材集めも任せてほしい」


「ち、近い」


「すまない」

 

 興奮してつい前のめりになってしまっていた。


「素材を集めてきてくれるなら売ってもいい」


 オドオドした態度とは一変して毅然とした職人の顔に変わり那須は懐から手帳を取り出して必要な素材を書き出していく。書き終えた紙を手渡されてその内容を見て目を疑う。到底、一人では集めきれないだろう途方もない量で普通の人間ならば怒って突き返すだろうが命は違う。


「ちょっと時間を貰うことになるかもだけど大丈夫かな」


「え?」


「言ったでしょ、香蓮ちゃん。命くんは普通の探索者じゃないって」

 

 驚いている那須だが彼女のポーションを得るためならば多少の苦労があって然るべきで命は全然気にしていない。


「馬鹿正直に集めなくていいよー。これ見てどういう反応するか試してただけみたいだし」


「そうなのか?」


「う、うん」


 話によると那須は前にポーションを売った生徒がいたのだがその生徒がとても横柄な人だったらしくポーションを作らせるために那須の事を脅してきてそれから正直にポーションを作ることはせず作りたい人にポーションを作るようになったのだという。


「つまり命くんは合格ってこと!」


「そうか。それは良かったよ」

 

 ほっと胸を撫で下ろす。命はいつも通りにしていたつもりだが那須のお眼鏡にかなったようで幸いだった。


「これからよろしく」


「よ、よろしく」

 

 お互い手を握る。専属の鍛冶職人に加えてポーションの専門家である薬師との繋がりを得ることが出来て紹介してくれた金倉になんと礼を言ったらいいものか。二人の事を見守っていた金倉は工房の奥から装備を持ってきてくれる。


「忘れない内に渡しておこうと思って」


 『蛮族の杖』ランクC+

 攻撃力45 耐久度50


 『蛮族の軽鎧』ランクC

 防御力40 耐久度50


 『蛮族の腰当』ランクC

 防御力40 耐久度50

 

 相変わらずの見事な仕事ぶりで肉弾戦を行うアヴァリスの体の邪魔にならないようにと腰帯は防御力に不安が残るアヴァリスにとって最適な装備だと言える。それから那須が自分の工房からポーションを持ってきてくれて見た目からして市販のポーションとは大違いで回復力が三割増しだという話で薬師という職業の凄さを思い知らされた。


「凄いな」


「ふ、ふふ。自信作」

 

 胸を張るのも納得の逸品で今までのポーションは何だったのかと思うほどの出来でこれならばハイオークキングとの戦闘にも役に立つだろう。暴走のスキルを使わせない戦い方をするべきでそうなってくると必要なのは短時間での決着で那須に筋力上昇ポーションの類はないかと聞く。


「あ、あるけどあんまりオススメしない」

 

 薬師である那須の手で作られた上昇ポーションは効果が倍増しているがその分、副作用のステータス減少も増えておりもしも戦闘中に効果が切れたら大惨事でそうなることを考慮している那須からしたら使用は進められない。


「結局は自力で戦うしかないってことか」

 

 クイーンとの戦いは毒を警戒して上昇ポーションを飲んだがハイオークキングはそういった不確定要素は存在しておらずただただ強いだけであり薬に頼ることなく自力で戦ってこそ探索者としての真価が問われる。


 装備もポーションも準備は出来てついにボスに挑む。ボス部屋全体にハイオークキングから発せられる覇気が広がっており目の前の相手が今まで戦ってきたモンスターの中で最も強いのだと嫌でも分かる。


「エンチャント・アース・ダーク・ファイヤー」


 命もただ準備だけをしてきた訳ではなくこの戦いに向けて修練を重ねており三重のエンチャントを召喚モンスター達に施す。アースは防御力を、ダークは魔力を、ファイヤーは筋力をそれぞれ上昇させ戦いが幕を開ける。


「グルァ!」


「キー!」


 先ず駆けだしたのはブランとフォボスで嵐のようと評すべきハイオークキングの攻撃を振り切りダメージを与える。エンチャントが施されて強化されているはずの攻撃はハイオークキングには通用しておらず分厚い皮膚が防いでいる。


「カタカタ」


「ブヒィ!」


 ハイオークキングの斧とアインの盾がぶつかりけたたましい音を響かせる。この中でハイオークキングとまともに渡り合えるのはアインと同じ体格と力を持っているアヴァリスでそれをハイオークキングも理解しているからこそ執拗にアインを攻撃している。


「ファイヤー・ランス」


 炎の槍が飛来するがハイオークキングはそれを掴んで握り潰す。生半可な攻撃は通用しないという事で弱点である火もあたらなければ意味がなくどうやら戦い方を考えなければならないらしい。

削られていくアインの体力をフラウが神聖魔法で回復させる。このままでは押し切られるのは明白であり眼前に迫ってくる危機に焦ることなく冷静で状況を俯瞰して見ている。


 この状況をひっくり返すにはやはりアヴァリスだ。


「アヴァリス!」


「ギャ!」


 アインがハイオークキングの攻撃を引き受けているのがチャンスでアヴァリスは命の号令と共に駆け出しその巨体でハイオークキングと相対する。アインに構ってばかりのハイオークキングは自分と同等の力を持つアヴァリスの登場に動揺しつつも直ぐに冷静となりアヴァリスの拳を受けながらも倒れる姿はなくノーガードの殴り合いとなる。


 しかし、アヴァリスばかりに気を取られていたハイオークキングは背後からのアインの刃をまともに受けその分厚い皮膚で僅かに血を流すだけで済んだのだが次第に傷口から猛毒が体中に流れる。


 どれだけ分厚い皮膚を持とうとも内部からのダメージから逃れることはなく見るからに動きが鈍くなりアヴァリスの拳もまともに受けてしまう。


「ファイヤー・スピア!」


 大量の魔力が込められた大槍を猛毒に侵されたハイオークキングに逃れる術がなく右足が吹き飛ぶ。悲痛の叫びを上げられない位、全身に毒が回っており意識も朦朧としている様子でクイーンの毒が強力である証拠でこうなってしまったハイオークキングは恐る恐るに足らずで分厚かった皮膚もしぼんでおりフォボスが喉笛を嚙みちぎり長かった戦闘が決着した。


《レベルアップ!スキルレベルがアップしました。召喚モンスターのレベルがアップしました》

 

 柏崎命

 レベル9→13

 スキル

 召喚魔法18→20、土魔法→大地魔法、連携15→18、指揮14→17、魔法強力9→12、闇魔法10→13、魔力回復6→9、火魔法5→8、魔力操作3→8、付与術5→10


 アイン

 スケルトン・ナイト

 レベル11→13

 

 ブラン

 ファイティングオウル

 レベル10→12


 フラウ

 ピクシー

 レベル10→12


 アヴァリス

 レッサーオーガ

 レベル10→12


 フォボス

 ホワイトウルフ

 レベル10→12


『蛮族大王の指輪』Bランク

 攻撃力50 防御力50 耐久度50

 スキル

 金剛力、剛皮


 絶大な経験値に破格な性能のレアドロップ。激闘が報われるようであり今回ばかりは流石に死ぬかと思った。ハイオークキングに毒が通用しなかったら今回の勝利は得られなかっただろう。


 アインの剣を作ってくれた金倉とクイーンのブローチを手に入れた自分の幸運をただただ感謝したい。新たに上位魔法を取得し自分はまだまだ強くなれるのだという実感が湧いた。


「ちょっとは強くなれたかな」


 入学式の時に比べたら偉い違いで少し前の自分にハイオークキングを倒すことが出来たと伝えたら現実を見ろと一蹴するだろう。それだけ成長が劇的で自分一人の力だけでなく一緒に戦ってくれた召喚モンスターもお陰でここまでやってこられた。


 幼い頃、憧れた探索者になったんだなと感慨深いものがある。

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