Obscene talk

青切 吉十

再婚

 高校受験を控えた正月。

 年号が平成に変わるというニュースを聞きながら、父さんの作った夕飯をふたりで食べていたところ、父さんが「ちょっと、いいか」と口にした。

 いつもとちがう父さんの様子に、僕は手にしていた茶碗を置き、「なに、どうしたの」とたずねた。

 すると、父さんが言った。

「さいきん、帰りが遅いから、おまえも気がついていたかもしれないが、父さん、付き合っている女性がいてな。それで、きのう、プロポーズをしてオーケーをもらった。まあ、そういうわけだ」

 父さんからの思いもよらない話に、十数秒、僕は困惑したが、それから慌てて、「それはおめでとう。よかったね」と言った。

 僕の言葉に父さんは微笑を浮かべて、「おまえの受験後にプロポーズしようと思っていたが、まあ、タイミングのあることだし、多少、相手からせかされてな」と口にした。

 それに対して、僕が相手のことなどを聞こうとしたところ、父さんが先に口を開いた。

「まあ、おまえもいろいろと気になるだろうが、先方がね、おまえが受験生であることをずいぶんと気にしていてな。相手のこととか聞きたいだろうが、そういうのはもろもろ、おまえの受験がおわってからにしようという話になった。だから、最初の顔合わせは三月以降だ。おまえは優秀だから大丈夫だとは思うが、念のためにな」

 そのように告げた父さんに、僕が「そんなに気を使わなくてもいいのに。でも、そのほうが助かるかもしれない……。気配りのできる人なんだね。なまえは?」とたずねたところ、「オイカワミナコだ。名字は及ぶに川と書いて、及川。下は美しいの美に、奈良の奈だ」と答えが返ってきた。

 一瞬、僕は動きをとめてから、「とにかくよかったね」と口にした。すると、長年、一緒に生活をしていた親子だけあり、父さんは僕のしぐさに気がつき、「やっぱり、嫌か」と聞いてきたので、僕は首を横に振り、「そんなことはないよ。ちょっと、驚いただけ」と言いながら、箸を手に取った。

 ふたりとも無言のまま、食事が再開したところで、父さんが声を上げて、箸を置いた。そして、僕に向って手を合わせて、「すまん。大事なことを言い忘れていた」と言った。

 僕がいぶかしがりながら、「なに」とたずねると、父さんがすまなそうに言った。

「美奈子も再婚でな。娘さんがひとりいる。おまえと同い年だが、相手のほうが誕生日が早い。義姉ねえさんだ。一緒に生活するとなれば、いろいろとあるだろうが、まあ、よろしく頼むよ。おまえのとなりの部屋がちょうど空いているから使ってもらう予定だ。……おまえが、いまさら姉弟ができるのが嫌なら、この話はなかったことにするが、どうだ?」

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