没落済みの悪役貴族の俺は、世界最強の【救世主】へと昇格する〜エンディングスタートとか聞いていないよ!!〜

おこのみにやき

第一章 

第1話:始まり



最初は小さな違和感だった。


「…ぅっ…ん〜!!」


朝の澄んだ香りが俺の鼻を優しく撫でる。

目をむずむずさせながらゆっくり目を開いた俺は、手元にあるはずの目覚まし時計がないことに気づいた。

そして、やっと意識は覚醒する。


「…あれ?ここは?」


うん、マジでどこやここ。

寝ぼけたかと思って目を何度も擦るが、俺の知っている部屋ではない。


ちょっと質素だけど俺が寝ていたベッドより豪華だし……。

なんか俺の部屋とは比べ物にならないくらい大きいし…。


少しだけ、部屋を見渡してみる。


少しばかり豪華な部屋には大きな机が置かれており、その上には新聞がある。


監禁?誘拐!?

様々な可能性もある。


よく見れば、窓に鉄格子がはめられていて出れることはできない。

よっ、とベッドから足を下ろした俺は入り口らしき扉に近づいて、開けようとドアノブを何度も何度もガチャガチャさせる。


やっぱり誘拐か?

いや、でも俺の中で緊急事態の警報は何故かなっていない。


ほうほう…それにしてもだいぶ綺麗な部屋だな〜……。

それはもうどこぞの貴族のお家みたいな—————————。


「……うぐっ!?」


心臓が握りつぶされるかのような痛みが俺を襲い、倒れるかのように地面に手をつける。


吐き気、頭痛、その他諸々。


そして数々の掘り出される記憶。


「——あっ」


ふと、思い出した。


ここは俺の元いた世界ではなく、俺が愛してやまなかった異世界ファンタジーゲームの中。


そして俺は、そのゲームの中でも屈指の悪役貴族でもある『レベリス・アンタレス・マールム』なのだ。


俺の記憶ではないのに、彼の記憶が俺の中にすんなりと落ちてくる。


「も、もしかして…異世界転生ってやつ?」


別に、元の世界では……。

あれ?元の世界ってなんだったけ?


このゲームや他のゲーム…常識などの関する知識はある。

でも、いつの間にか俺の頭の中にあるはずの前の『俺』の情報が消えていた。


俺の名前は?…分からない。

家族は?…分からない。


前の俺の人生が消えていく喪失感を感じた……けど、なぜか涙も出なかった。


というか、コレって記憶を思い出した『転生』なのか?

それともどちらかといえば『憑依』なのか?

…でも、それを悲しいと思う気持ちさえ、どこか薄れている。


う〜ん、それにしても都合良すぎないか?

自分だけの記憶が消えるとか。

俺は『レベリス』という男について、思い出していく。


「…ちょっと待てよ」


そういえばこの貴族って最終的に—————————。


俺は青ざめていく顔を無視しながら、ゆっくりと机の上にある新聞を手に取る。

書かれている文字は日本語じゃないけど…なんとなく読める。

埃をかぶっているところを見るに…ちょっと昔のらしいけど。


『【救世主】アレス、魔王の討伐達成!!』


その大きすぎる見出しを見た俺は、ゆっくりと崩れ落ちた。


「エンディング後じゃねぇかぁあああ!!!!!」


◆◇


『INFINITUs』というスマホゲームは王道異世界オープンワールドRPGである。

圧倒的グラフィックと、剣と魔術は元より、【固有スキルオリジン】と【固有魔術シングラ】いう、異能バトルのような爽快アクションで爆発的に売れまくった。


そしてこのゲームにおいて『レベリス』という男は、一番ヘイトを買っており、一番ネタにされていた…とも言える。


金属を変形させる【錬成】と、姿を隠す【隠密】とかいう二つの【固有スキルオリジン】が発現し、かつては神童と言われた彼は、両親が魔物の大量発生スタンピートによって亡くなった瞬間に何故か魔王軍の元に下り、主人公の前に何度も何度も立ち塞ってくる。


彼を一言で表すなら、傲慢を体現したかのような存在。

性格も、通常一個しか発現しない【固有スキルオリジン】が世界初の二つ持っているということもあって、人を常時見下している。


そして最終決戦にて魔王軍の四天王の一人として立ち塞がった存在だ。


『クハハハハ!!!!このボクを倒してみろォオオオオ!!!!』と傲慢な口調で登場したかと思うと、錬成して作成した剣を投げて、下がってを【隠密】によって透明になって剣を投げるのを繰り返す…ただただウザい奴になる。


逃げても逃げてもレベリスは障害物を貫通して追いかけてくるので、安全地帯に入る瞬間に背後から剣がドシュッ!!!みたいなこともある。

今までのウザさそのものな言動と、この行動から『害悪』や『魔王よりも倒す時間がかかる』とヘイトを向けられまくった。


そして、主人公に倒された瞬間に、『このボク…が!!うォオオオオオオオ!!!!!』と言いながら爆散して戦線離脱する様子は瞬く間にネットのおもちゃと化し、このゲームの人気をさらに上げるきっかけともなったというのが悲しい。


つまりレベリスとは、

①性格がクズ

②戦闘スタイルがウザい

③ネットのオモチャにされた男

この三つで説明できる存在だった。


悲しきかな…そう、俺はそんなネットミームに転生してしまったのである。



俺はこのゲームを愛していた。

素晴らしすぎる展開に何度涙腺を破壊されたか……。


…そうだ。

そんな世界に転生したんだ。

好きなように見て回りたい、あの場面で見た風景を見たい。


「いやいやいやいや待て待て」


普通のラノベなら『この〇〇年間で努力してやる!!!とかで回避する!!』とか言えるだろう。

残念無念、エンディング後でした!!!


ふざけんてんじゃねぇよ!!!!


『レベリス』は最終決戦後、ゴキブリのように生きていたところを国に捕らえられ、もちろん処刑されそうになったが、『【錬成】は役に立つ』という理由で幽閉されているという話をナレーションで聞いたが、まさか、事後とは……。


だから窓に鉄格子がついているのだろうな。

レベリスを逃がさないためにも。


ちなみに〜これって【錬成】で鉄格子を剣にして破壊したりして脱走とかは…。


俺は鉄格子にゆっくりと手を伸ばし、目を瞑る。


「【錬成】!!」


体の丹田のあたりに巡っているであろう何か熱いものに力を込める。

主人公、トールの修行パートでも『丹田に魔力はある』とか言っていたし…。


つまり、この熱いものは『魔力』。


レベリスは片手にずっと金属を持ちながらその金属を剣に変えていた。

窓に張られている鉄格子から剣を作るイメージをしながら形を構築するっ!!!



……。



結果としては魔力が散り、空気がピシッと震えるだけだった。

何も起きないことに関して、俺は小さく息を吐く。


(ですよね〜)


まぁ、国に刃向かっていた犯罪者が脱走しても困るだけだし…。

それに【錬成】も【隠密】も、簡単に脱走できるスキルだから流石に対策されているのだろうね〜。



俺はゆっくりと窓から離れると、椅子に座りながら頬杖をついた。

恐らく、この腕に嵌められているブレスレットみたいなモノが邪魔しているのだろう。


「ちなみに【隠密】は……」


【隠密】はあのクソボス『レベリス』の代名詞でもある体を透明化させるスキルだ。

あの時のレベリスは体を粒子とイメージすることで障害物も通過し、完全に見えなくなる。


魔力を体に巡らせ、透明になるようなイメージを作る…が、何度魔力を注ぎ込んでも、どうしても発動ができない。


俺は何回も無意味な魔力を使用して、ゆっくりと空を仰ぐ。


あれ?詰みじゃね?





この時は、まだ知らない。




——————【錬成】という【固有スキルオリジン】の真なる力も。


——————やがて、周りの人間から崇められるようになることも。


——————いずれ、【救世主】と呼ばれるようになることも。



俺は、まだ知らない。

この瞬間から始まる“最強の物語”を。









ここまでお読みいただきまして、誠にありがとうございます。


『エンディングスタートは草』

『続きを見させろやボクコラァ!!』


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