ベテラン冒険者はついていけない
黒米
脱出方法についていけない
はぁ…やっと終わったか…
目の前には、先程まで死闘を繰り広げていた相手が横たわっている。
冒険者になって、はや20年。
最近は後進の育成のため、初級冒険者たちの面倒を見ている。
今日は、初級ダンジョンの攻略に付き添っていた。
道中、何度か危ない場面もあったが、なんとかダンジョンのボスを討伐することができた。
ドロップアイテムも回収できたようだし、そろそろ帰りますか。
そう思い、目の前で攻略できた達成感に満ちた彼らの方に寄っていく。
「おーい、そろそろ帰るぞ」
「わかりました」
そう言って集まってくる。
「これで、初級ダンジョンはクリアだ。で、帰る時の注意点だが、ダンジョンから脱出する時は、必ず脱出魔法を使うように。間違っても、移動魔法や移動用アイテムを使わないように」
「使ったらどうなるんですか?」
「まあ…これも経験だな。じゃあ試しに全員で、ここから街へ移動魔法を使ってみるか」
「ここでですか?わかりました」
「じゃあ、せーのでいくぞ。せーの!」
「「「移動魔法」」」
どぉーん!!
ものすごい音を立て、全身に衝撃が走る。
「とまぁ、こんな風に、ダンジョン内で移動魔法を使うと天井にぶつかってしまう」
初心者の頃なら誰でもやってしまうミス。
身をもって経験したなら、今後間違えることはないだろう。
そろそろ大丈夫かなと思い、振り向くと誰もいない。
「やられたなぁ…」
おそらく知っていたのだろう。移動魔法を使うフリをして、脱出魔法を使ったようだ。
「脱出魔法」
全身が光に包まれ、周りの風景が変わる。
目を開けて周りを見渡すが、やはりいない。
「置いてかれたか。仕方がない。後で説教だ。移動魔法」
また周りの景色が変わる。
どうやら街の入り口についたようだ。
そしてこちらに気がついた、あの初心者冒険者達がこちらに向かってくる。
「おい、お前ら。置いていくのはひどいんじゃないか?」
「そんなつもりはなかったんです。ただ…」
「ただ?」
「最近の移動魔法は、ダンジョン内で使っても天井にはぶつからないということを知らないとは思わなかったんです」
「…え?」
「冒険者学校の歴史の授業でそう教わりました。今はもう年配の方しか脱出魔法は使わないと」
「年配…」
「あっ…えーっと、今日はありがとうございました」
そうして足早に去っていく。
そして残された時代遅れの冒険者。
「…ついていけないかもしれん…」
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