私の名前はダンテ。私は「他の世界」に送られた者たちの未練を片付ける会社を経営している。多元宇宙を行き来できる宝石の力でそれを行っており、今夜は大金になる仕事をこなさなければならない。

「（電話で）安心して、ベア、俺一人でできる。大学生を一人殺すだけだ。そんなに難しい仕事じゃないし、違う、家族と食事に行きたくないための言い訳じゃない。うん、後で話す。花を持っていくよ。愛してる」

本当に妻のベアの家族と食事するのが嫌いだ。義母の料理は耐えられない。彼女には使用人がいるのに、なぜ自分で料理を作りたがるのか。義母の料理を食べるのは、酸に犬の糞を混ぜて飲むようなものだ。義父の「ベアはもっといい人と結婚できたのに、貴族の友人の誰かとか、安っぽいゲームから出てきたようなやつとじゃなくてなあ」といった言葉も我慢できない。最悪なのはベアの弟だ。あのデブは鼻をほじって手がベタベタで、スライムだってあんなにベタベタしない。ともかく、今夜の仕事は大学生を殺すことだ。彼のアパートに忍び込まなければならない。ドアが開いていてくれて助かった。静かにその男の部屋に入ると、彼はヘッドホンをしてアニメを見ていた。簡単な仕事だ。そっと近づき、服からナイフを取り出したが、床に散らばっていた物につまずいて大きな音を立ててしまい、大学生に見つかってしまった。すると彼が言った。

「誰だ？」

とっさに答えられなかった。言い訳が必要だった。すると彼が唐突に言った。

「君、異世界から来た人だろ？」

驚いて俺は言った。

「え…どうして分かった？」

「見ればわかるよ。君がここにいる理由も分かる」

「へえ、そうか？」

彼は続けた。

「うん、君が誰かわかるよ」

空気がしばらく張り詰めた。こいつは俺のことを知っている。だからさっさと片を付けることにした。ナイフを抜こうとしたその時――

「君は俺を異世界に連れて行くんだろ？きっと神々が俺の偉業を見て、選ばれし英雄だって伝えるために君を送ったんだ！」

この男は完全に馬鹿だと分かった。部分的には当たっている。確かに俺は彼を別の世界へ連れて行くつもりだが、彼が思っているような「異世界」ではない。部屋を見渡すと、小説や漫画、ゲーム、ジャンル「異世界」に関するポスターが山ほど貼ってあった。

「ああ…君はそういうタイプか」

「そうだ！俺はそういうやつだ！」

俺はそれを褒め言葉として言ったわけではない。ともかく、こいつは喋り続けたが、義理の家族と食事するよりはこいつのくだらない話を聞いている方がましだ。彼は延々と喋り続けた。

「君は神のような存在で、俺に力を与えてその“異世界”へ行かせ、魔王を倒すんだ。人々は魔王に脅かされて多くが死んだ。だから選ばれし者を探したんだ。魔王はまさか別世界から選ばれし者を連れてくるとは思わないだろう。ねえ、名前は何ていうの？」

「ダンテだ。友達はダンって呼ぶ」

「じゃあダンだ」

「友達にそう呼ばれてるって言ったんだ」

「そうだね、失礼した。もちろん、初対面の相手に全幅の信頼を置くわけにはいかないよね」

「いや、今会ったばかりなのにもう嫌いだ。悪魔だってこんなにイライラしない」

「悪魔？なるほど！悪魔が君の妻をさらったんだね！だから君は神々と手を組んで魔王を倒しに行くんだ、妻を生贄か奴隷にするために魔軍がさらったんだ！」

こいつには吐き気がするほどムカつく。それでも義両親と過ごすよりはましだ。彼は話を続けた。

「心配するな、俺と強力なハーレムの乙女たちが君を助けるよ。聖剣の姫、恥ずかしがり屋でロリ体型の小人で俺を“お兄ちゃん”って呼ぶ子、ツンデレの王族、みんなで魔軍を倒して世界を救うんだ」

俺は言った。

「そうだな、君を殺さないといけない」

「殺すのか！」

「そうだ。お前はネットでクソみたいなことをして、ある人を自殺に追い込んだ。その人が転生して復讐を誓ったんだ。個人的な恨みじゃない、仕事だ」

「分かった、当然俺を殺さないといけない！そうすれば俺は君の世界に行けるんだ！」

「ちょっと待て、俺が言ったことを聞いてないのか。頼む、もし転生するなら俺の世界じゃないことを願うよ」

「さあダン、俺を倒して冒険を始めよう。旅の計画は全部できてるんだ」

するとその男は俺の手を掴み、俺が持っていたナイフを自分に突き立てた。彼は死ぬ間際に言った。

「また会おう、ダン。君の妻を助けて魔王を倒して世界に平和をもたらすと誓う」

「そうか」

その後、彼は死に、俺は仕事を終えて事務所に戻るとベアが待っていて尋ねた。

「どうだった？」

俺は答えた。「話したくない。依頼主に電話して金を受け取って、この日を忘れるつもりだ」

彼女は言った。「それと、弟を連れてきたの。母が数日預かってほしいって言うから」

その子供が言った。「何だよ、失敗作」

俺は苛立ちながらベアに言った。

「聞け、今日は最悪の日だった。寝たいだけだ。お前の脂ぎった、わがままで臭い弟に付き合う気はない」

ベアは言った。「ダン、そんなこと言わないで。彼はあなたをすごく尊敬してるのよ。それに仕事のことを聞きたがってたの」

そのガキが尋ねた。

「何の仕事をしてるんですか？」

俺は言った。

「他の世界に送られた人たちの未練を片付ける仕事だ。今日もさっき、あまりイライラしない奴を一人殺した」

彼は言った。「他の世界？」

俺は説明した。

「そうだ。人が死ぬと神が情けをかけて、より良い人生を送れるファンタジー世界に送ることがある。でも元の世界に未解決のことを残していくことがあるんだ」

彼は言った。「じゃあ、誰かが死んで他の世界に送られたとして、君が殺した人がこの世界で君を見つける可能性はないの？」

俺は答えた。「その可能性は非常に、非常に…」

「ダンさん、ギルドの掲示を見てあなたの広告を見つけました。冒険を始める準備はできてます！」

窓の近くから声がした。すぐにあの男の声だと分かった。

「なんてことだ、あいつじゃないか」

カーテンの隙間からそっと窓の方へ行き、隠れて覗くと、どうやらあの男は神によってこの世界に送られてきたらしい。

「ダンさん、もう超強力なスキルを手に入れて、ハーレムと冒険者の仲間も集めました。ダンさん！」

そんな調子で一日中続いた。俺は事務所から一歩も出られなかった。

終わり。