『解析』と『再構築』で異世界すべてを最適化する ~「役立たず」と追放された素材鑑定士は、神話級の魔道具を量産して無自覚に世界を支配するようです~
第26話 アレウス、動く。転移魔法陣を「再構築」して王都へ
第26話 アレウス、動く。転移魔法陣を「再構築」して王都へ
王都のメインストリートは、異能の力がぶつかり合う戦場と化していた。
魔人化し、異形の怪物と成り果てた父ガラルド。
魔剣を振るい、狂戦士のように突進してくる長兄クリス。
空を飛び、絶え間なく爆裂魔法を放ち続ける次兄ジュリアス。
かつての家族たちは、その人間性を完全に捨て去り、殺戮兵器として俺に襲いかかっていた。
「オオオォォォッ!! 潰レロ、アレウスゥゥッ!!」
ガラルドの巨腕が振り下ろされる。
俺はそれを正面から受け止めた――わけではない。
接触の瞬間、腕に纏わせた『衝撃分散結界』の角度を調整し、力のベクトルを横へ逸らす。
ドゴォォォンッ!
俺の横の地面が爆ぜ、深いクレーターができる。
「力が強ければ勝てると思うなよ。制御できない力は、ただの暴走だ」
俺は冷静に言い放ち、ガラルドの懐へ踏み込んだ。
カウンターの掌底。
ドォンッ!
腹部に衝撃を叩き込むと、巨体がくの字に折れて吹き飛んだ。
「おのれぇッ! よくも父上を!」
クリスが背後から斬りかかる。
魔剣『断罪』の刃が、毒々しい紫色の軌跡を描く。
「遅い」
俺は振り返りもせず、愛刀『星砕き』を背中に回して受け止めた。
キィィィンッ!
金属音が響き、火花が散る。
「なっ……見てもいないのに!?」
「殺気がうるさいんだよ。それに、お前の剣には迷いがある」
俺は剣を押し返し、クリスの体勢を崩した。
そこへ、上空からセリアが急降下してくる。
「はぁぁぁぁッ!!」
聖剣『蒼穹』の一撃。
クリスは咄嗟に魔剣でガードしたが、その衝撃に耐えきれず地面に叩きつけられた。
「ぐあっ……! こ、この女ぁッ!」
「貴方の剣、泣いてるわよ! そんな禍々しい魔力に汚されて!」
セリアが凛と言い放つ。
上空では、ポチがジュリアスを追い回していた。
『チョロチョロと目障りな羽虫め! 落ちろ!』
ポチが口から極大の氷ブレスを吐く。
ジュリアスは慌てて障壁を展開するが、神獣のブレスは障壁ごと彼を凍らせていく。
「ひぃぃッ!? 寒い、寒いィィッ!」
ジュリアスは片翼を凍らされ、きりもみ状態で墜落した。
圧倒的だった。
魔族の力で強化されたとはいえ、付け焼き刃の力では、俺たちSランクパーティの連携には遠く及ばない。
ガラルド、クリス、ジュリアスの三人は、瓦礫の中で満身創痍となり、肩で息をしていた。
「……終わりだ」
俺は剣を下げ、彼らに歩み寄った。
「魔族の力を抜いて、人間に戻してやる。少し痛いかもしれないが、我慢しろ」
「ふ、ふざけるな……! 我々は、選ばれたのだ……!」
ガラルドが血を吐きながらも、まだ戦意を失わずに立ち上がろうとする。
その執念は、賞賛に値するのか、それとも憐れむべきか。
その時だった。
『――チッ。役立タズ共メ』
空から、不快なノイズ混じりの声が響いた。
王城の方角。
赤黒い結界の中心にいる、古代魔族ザルクの声だ。
『時間稼ギニモナランワ。……回収スル』
ズズズズズ……ッ!
ガラルドたちの足元に、黒い魔法陣が出現した。
重力が反転し、彼らの体が浮き上がる。
「な、なんだ!? 体が勝手に!」
「ザルク様! まだ戦えます! まだ……!」
彼らの叫びも虚しく、黒い光が彼らを飲み込んだ。
強制転移。
一瞬にして、三人の姿がかき消えた。
「逃げたか」
俺は舌打ちした。
同時に、王城を中心とした空間に異変が起きた。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
地響きと共に、王城と城下町を隔てる内堀のあたりから、赤黒い光の壁が立ち昇った。
その壁は天まで届き、王城エリアを完全に外部から遮断した。
ドーム状の絶対結界だ。
『ココカラ先ハ、神ノ領域。貴様ラ如キ矮小ナ人間ガ足ヲ踏ミ入レルコトハ許サン』
ザルクの高笑いが響く。
俺は試しに、足元の石を拾って結界に投げつけた。
石は結界に触れた瞬間、音もなく消滅した。弾かれたのではない。存在そのものが『削除』されたのだ。
「空間断絶結界か。物理的な干渉を一切受け付けない、次元の壁だ」
セリアが顔を青ざめる。
「そ、それじゃあ、城には入れないの!? あの中にザルクがいるのに!」
「空からも無理だぞ」
上空から戻ってきたポチが、人型(小型犬サイズ)に戻りながら言った。
『あの上空の空間も歪んでいる。無理に突っ込めば、体の半分が異次元に飛ばされるぞ』
完全な籠城戦術。
ザルクは城の中で、ガラルドたちや捕らえた人々から魔力を吸い尽くし、完全復活を遂げるつもりだ。
時間をかければかけるほど、奴は強くなり、犠牲者は増える。
「……入れないなら、入る道を作ればいい」
俺は街の中央広場を見渡した。
瓦礫の山となっているが、その中心にある巨大な噴水だけは、奇跡的に無傷で残っていた。
創業神話を模した、古びた石像の噴水だ。
「アレウス? 何を見てるの?」
「この王都グランドリアは、かつて古代魔法文明の遺跡の上に建てられたと言われている。あの噴水、ただの飾りじゃない」
俺は噴水に近づき、その台座に手を触れた。
スキル『物質解析』発動。
石の表面の汚れ、風化、そしてその奥に眠る魔力回路(ライン)を読み解く。
――解析完了。
――対象:古代転移装置(ポータル・ゲート)。
――接続先:王城地下・動力炉(現在はオフライン)。
――セキュリティ:王家の血筋、またはS級魔導鍵による認証が必要。
「やっぱりな。これは王城への緊急避難用、あるいは王族専用の直通エレベーターだ」
古代の王族たちは、有事の際にここを使って城と街を行き来していたのだろう。
ザルクが張った結界は「外部からの侵入」を遮断しているが、この装置は「内部回線」を使っている。
つまり、正規のルートを使えば、結界を素通りして城内へ転移できるはずだ。
「でも、オフラインになってるわよ? それに王家の血筋なんて……」
「血筋はないが、俺には『解析』がある」
俺はニヤリと笑った。
セキュリティ? 認証?
そんなものは、凄腕ハッカー(エンジニア)の前ではただのパズルだ。
「セリア、ポチ。俺がこのゲートを再起動(リブート)させる。ザルクに気づかれないように、魔力迷彩をかけながら回線を繋ぎ直すから、周囲の警戒を頼む」
「分かったわ! 魔物は寄せ付けない!」
『雑魚掃除なら任せておけ』
二人が周囲を警戒する中、俺は作業に入った。
噴水の台座に両手をつき、魔力を流し込む。
脳内に膨大なソースコードが展開される。
――システム領域への侵入。
――セキュリティ・ゲート1:突破。
――認証偽装:ダミーID『初代国王』として登録。
――動力回路:バイパス接続。俺の魔力を動力源として供給。
「……古いシステムだ。穴だらけだな」
数百年、数千年前の魔導技術。当時は最先端だったかもしれないが、現代の(というか俺の持つ)知識からすれば、暗号化が単純すぎる。
俺は複雑に絡まった回線を整理し、断線していた箇所を『再構築』で物理的に修復していく。
ブォン……ブォン……。
噴水が低く唸り始めた。
水が止まり、代わりに台座全体が淡い青色の光を放ち始める。
地面に描かれていた幾何学模様が浮かび上がり、空間が揺らぐ。
「よし、接続確立(コネクト)。転移先座標、王城地下……いや、待てよ」
俺はふと思いつき、座標の設定を弄った。
普通に地下へ行っても、待ち伏せされている可能性がある。
どうせなら、一番派手で、一番相手が嫌がる場所に登場してやりたい。
「座標変更。ターゲット:王城最上階『玉座の間』」
ザルクがいる場所へ、ダイレクトアタックだ。
「……完了したぞ!」
俺が叫ぶと同時に、噴水から光の柱が立ち昇った。
周囲の瓦礫が吹き飛び、強力な転移フィールドが形成される。
「すごい……! 本当に動いちゃった!」
「感心してる場合じゃない。乗れ!」
俺はセリアの手を引き、ポチを呼び寄せ、光の中へと飛び込んだ。
「転送開始(テレポート)!」
視界が真っ白に染まる。
重力が消え、体が粒子になって分解され、そして再構成される感覚。
ザルクの空間断絶結界を、内側からすり抜けていく。
◇
王城、玉座の間。
そこは今や、魔族の巣窟と化していた。
壁や床は肉塊のような有機物に侵食され、天井からはドロドロとした粘液が滴っている。
玉座に座るザルクは、城中から集めた魔力を貪り食い、その体をさらに巨大化させていた。
『ククク……溜マル、溜マルゾ。コノ国ノ人間ドモハ、実ニ良イ養分ダ』
その足元には、強制回収されたガラルド、クリス、ジュリアスが倒れていた。
彼らは魔力を吸い取られ、ミイラのように干からびかけている。
「うぅ……ザルク様……どうか、魔力を……」
「約束が……違う……」
もはや使い捨てられた駒。
ザルクは彼らに目もくれず、さらなる力を求めて触手を伸ばそうとした。
その時。
玉座の間の中心、空間がガラスのように砕け散った。
パリィィィィィンッ!!!
『ヌオッ!?』
ザルクが驚愕に目を見開く。
砕けた空間から、青い光が溢れ出し、三つの影が飛び出してきた。
「到着だ。……相変わらず趣味の悪い部屋だな、おい」
着地と同時に、俺は剣を払い、周囲の粘液を吹き飛ばした。
隣には聖剣を構えるセリア、そして神獣の姿に戻ったポチ。
『キ、貴様ラ……! ナゼココニ!? 結界ハ完璧ダッタハズ!』
ザルクが立ち上がる。
俺はニヤリと笑い、親指で背後(転移ゲートが開いた空間)を指した。
「セキュリティホールがあったんでね。裏口からお邪魔させてもらったよ」
「ア……アレウス……?」
床に転がっていたガラルドが、掠れた声で俺の名を呼んだ。
俺は彼を一瞥した。
哀れな姿だ。国を売り、家族を売り、力を求めた末路がこれか。
「安心して休んでろ、父上。後の始末は俺がつける」
俺はザルクに向き直った。
愛刀『星砕き』を構える。
「さあ、ザルク。年貢の納め時だ。この国から出ていくか、ここで消滅するか、選ばせてやる」
『小僧ォォォッ!! 我ガ計画ヲ、ココマデ愚弄スルカァァッ!!』
ザルクが激昂し、城中の触手が一斉に俺たちに襲いか
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