6話 罠
「補給も済んだことだし、そろそろ行くか」
「じゃあカレン。また魔力感知をお願いできる?」
「分かった」
反応は無い。このまま進んでも良いだろう。
「大丈夫。魔物はいないよ」
「よし! じゃあこのまま進もう!
楽園に俺達はきっと近づいてる。
今日はペースを上げて行けるところまで行こう」
移動中、荷として運ばれている時に気になった事を投げかけてみる。
「二人はどうして楽園を目指そうと思ったの?」
「お? ついにその質問が来たか。どうする? イリーナ」
「どうするじゃないわよ。教えてあげましょ。
カレン、私達は賭けをしてるの」
「賭け? 何の?」
「どっちが早くあの腐った世界を元に戻せるのかよ。
楽園に全てが揃ってるのならきっと魔物が現れた原因も、その魔物を消す方法だってきっとあるはず。
だから私達はコンビを組んでここまで来たし、腐れ縁になるくらい時間もかかったけど、結局方法がどこにも無かったから楽園を目指すことにしたの」
「凄いね、二人は。
色々考えて楽園を目指してる。
私はもう一度会いたいってだけの理由だし」
ここでフレイルが少し上擦った、恥ずかしさを隠しているような声で声をかけてきた。
「何言ってんだよ。楽園目指してるやつに野望が無いやつなんかいないんだ。
お前の望みだって、楽園とは直接的に関係なくてもここまで一人で来た。
俺はすげぇと思う。
いくら大事なやつが楽園に行ったとしても、足が竦んで一歩を踏み出せないかもしれねぇからな」
「それ、私が先に楽園に行ったら来てくれないって言ってるの?」
「そうは言ってねぇだろ」
「あはは」
イリーナが少し拗ねるように軽口を叩いたが、私はこの会話の流れを聞いて、急に惚気が始まったのかと思って微妙な表情をするだけだった。
再び勾配のついた坂に差し掛かる瞬間。
私は強烈な違和感に襲われる。
感知範囲には魔物はいない。いないけれど、この下り坂の先には魔力が一切感じられないのだ。
「止まって!」
「なんだ? まさか、魔物か?」
二人の表情に緊張が走る。
続く坂は一つのみ。これより先は魔力の全く無い空間が広がっている。
「ううん、その逆。魔力が全く感じられない。
雪山の上ですら少ないけど魔力は感じながら歩いてた。
でもこの坂を下ったら、ずっと濃くなってきていた空気中の魔力がぽっかり空いたみたいに全く感じないの」
二人が少し考えるように目を合わせるが、頷き合う。
「今から戻って他の道を行ったとしても、魔物がいる事は確実だしな」
「ええ、私達にはもう魔物と戦う術が無い。
だから進みましょう。また安全地帯かも知れないし」
私は二人の意見に賛成し、共に坂を降りていくとそこは氷の地面から土へと変わっていた。
巨大な空間だ。
天井は今まで下り続けていた分、どこまでも続いていきそうな程高く、仄かに陽の光りが白く差し込んでいる。
また下も全く見えないほど深く、異常な高低差がある。
三人は上を見上げたり下を覗いたり警戒しながら周囲を探索していたが、どうやらこの先に続く一本道を進む必要があると生唾を飲み込んだ。
スキー板からアイゼンへ、そして普通の道を歩くための靴へと魔力を通して変形させ、久しぶりに歩く感触を踏みしめる。
私の怪我の状態も七日に及ぶ旅で普通の床なら歩いても問題ないだろう。
フレイルの荷から降りて、感触を確かめるように久しぶりに歩いて進む。
二人は微笑むように長く細い道を歩き、大空間の中心にある真円に近い大理石のように美しい、そして白く輝きを放つ場所へ足を踏み入れた。
三人が歩いている大理石には規則的な線が入った、ある種の図形に近い模様が描かれている。
すぐにその場を通り過ぎようとゆっくりと歩いていると、突然図形の模様が青白い光りを放ち、鈍い音と共に地面が揺れてバランスを崩した。
私は気づいた。気づいてしまった。
大気中に存在していないはずの魔力が、この図形、床の模様に魔力が吸い寄せられていることに。
先に楽園を目指してしまった友人から聞いたことがある。この模様はきっと。
否、間違いなく『魔法陣』だ。
(すぐに二人に教えないと!)
フレイルとイリーナに振り返った時、信じられない光景を目にする。
この魔法陣が描かれている床へと通じる、土で出来た道が奈落へと崩壊して既に落ちている。
「くそっ! 走れ!
反対側へ進む道まで崩れたら俺達はここで終わりだ!」
一斉に駆け出す。
治りかけの足に鞭打つように走る。
だが、それでも間に合わなかった。
進む道に通じる土の足場も崩れ去り、心なしか今いる円形の床の位置が上昇している。
「トラップだな、カレンが感じた違和感はこれだったか」
「ここから降りるとしたらどれくらいのかかるかしら」
「無理だ、深すぎる。
ロープを下ろそうにも引っ掛ける場所もない」
床の上昇は止まったが、助けを求めるにもここは楽園があると言われている秘境。雪と氷に覆われた世界だ。
そもそも生きた人間と鉢合わせるのがレアケースと言える。
仮に落ちた道の向こう側に人がいたとしても、飛行魔法が使えなければ助けられない。
それこそあり得ない確率。
「二人共。これは魔法陣だと思う。
私も見るのは初めてだけど、魔力がこの床に向かって流れ込んでる。
多分、私達が床に乗った事で発動してる」
「何だって? そんな古代の代物廃れていると思ってたが、こんな所でお目にかかるとはな」
「なんでこんな所に……」
しばらくすると、魔法陣と思われる模様の光りが一層強くなる。
絶望的な状態から、三人を更に深い絶望へと落とす事象が目の前に現れた。
ダンジョンという楽園は、君達に夢を見せるか 雪白ましろ @yukishiromashiro
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