止まない雨

宵月乃 雪白

晴れない

 母親とはこの世界に子が生を受けたその瞬間から母親になる。父親と違って母親は約一年も早く親になると実感するのだ。

 一人縁側に腰掛け、降り続く雨のほうを何日も何十日も何ヶ月も見続けている妻の腕には、あの子が好きな猫のぬいぐるみが抱き抱えられていた。

 妻は誰よりも娘を愛していた。一日一日と日を追うごとに大きくなっていくあの子との時間を妻はきっと僕以上に喜んでいた。

 誕生してからずっと、娘の初めてを僕と一緒に。それはそれは嬉しそうに見守らせてもらっていた。

 新米ママが居ない地域での子育ては不安で仕方なかっただろう。共感してくれる人も、一緒に愚痴を言ってくれる人だって居ない村で子育てを僕と同様楽しんでいた。

 そんな毎日が楽しそうだった妻が精気を失ったように、縁側でずっと外を向いている。何を見ているのかは分からない。けれど何を考えているのかは、こんな僕ですらも分かる。

「畑、行ってくるね」

 あの子のように消えてしまいそうな背中と向き合うことなく家を出た。

 僕は彼女の心と向き合う術を持ち合わせていない。彼女のようにユーモアや明るさもなければ、口下手で何を言いたいのか自分でも分からないときがある。そのような人間が彼女の胸の内を聞くわけにはいかないんだ。

 こんなとき、彼女ならなんて声をかけていただろう。優しく落ち着きのある声で相手の意見を否定することなく、黙って話しを聞いたりするのだろうか。

 雨がずっと降っている。田畑をダメにしてしまいそうなほどずっと、止むことのない雨が降って、キラキラ輝く太陽は見つからない。

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