第7話 教室からの脱出
神崎は本当に触るとは思わなかったのだろう。
椅子を倒しながら跳ねるように立ち上がり、慌てた様子で自分の口元を押さえた。
俺がYシャツの中に手を突っ込んだ状態で無理やり立ち上がったものだから、はだけたYシャツから派手な下着が丸見えになってしまっている。
可哀そうに、耳まで真っ赤になった状態で俺を睨みつけているではないか。
現代の男にとって、性を想起させるような女性の大きな胸や尻は嫌悪の対象だ。
男を誘惑するために進化したはずの女性にとっては、非常に酷な話であるが。
神崎も自分の大きな胸を見せつけ、困惑する俺をからかおうとしたのだろう。
髪色の話の時と同じように。
ただ、前世の感覚を持つ俺からしたら効かないどころか、どんとこいという話である。
喧嘩を売る相手を間違えたな、神崎!
俺はさっきの仕返しとばかりに、相手を小馬鹿にしたような表情で神崎を見た。
神崎は瞼をピクピクと痙攣させながら俺を見ている。
その表情を見たことによって色んな意味でスッキリした。
やがて落ち着いたのか、神崎はため息を吐きながら、倒れた椅子を戻しはじめる。
『ため息を吐いたら幸せが逃げちゃうよ?』
頭に浮かんだ言葉は、さすがに殴られそうなので胸の内に留めた。
Yシャツを正して椅子に座りなおした神崎は、顔を紅潮させたまま熱を帯びた眼差しで俺を見ている。
「相沢、この後ちょっと付き合えよ。」
……え、やっぱり殴られる?
内心ビクビクしながらも俺は答える。
「え、えーっとー、今日はちょっと、友達と約束しててぇー」
「――蓮くーん!」
「あ、ちょうど来たみたい。」
俺はこれ幸いと鞄を持って立ち上がる。
「それじゃあ俺は行くから。バイバイ、神崎、綾瀬さん。また明日。」
早口でそう言って手を振り、逃げるように扉の前に居る葉月の元へ向かう。
「ごめーん!クラスの人と話してたら遅くなっちゃったっ!」
そう言って葉月は俺の腕に抱きついてきた。
タイミング良く現れた幼馴染に対し、感謝の意味を込めて頭を撫でる。
「大丈夫だよ。俺もクラスの人と話してたから。」
「んっ、……ふーん。そうなんだぁ。」
葉月は教室の中に顔を向けた。
「葉月?どうしたの?」
早くこの場を立ち去りたい俺は、急かすように立ち止まったままの葉月に言う。
「んー、何でもない。それじゃあ行こっ?」
俺は動き出した葉月を携え、1-Aを逃げるように後にしたのだった。
……ふぅー、なんとか助かった。
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