週末(終わり)のルービックキューブ-影なき侵入者に気をつけろ-

Jack-o’-wisp

第1章 黒きルービックキューブ

プロローグ 文明の終わる日

 FPS症候軍しょうこうぐん、FPSゲーム好きの仲間で構成されて、またたく間に精鋭部隊として恐れられるチームになる。その中心である隊長の神里 悠真かみさとゆうま は、京都府北部の山間部さんかんぶ中腹ちゅうふくの林の中で敵の様子ようすを探っていた。


 あたりは張り詰めたように静まり返り、空気そのものが緊張きんちょうしているようだった。


「今日の敵は手強そうだな!」悠真ゆうまは戦場の匂いを嗅ぎ分けるかのように、全神経を集中して前方をうかがっている。


 その時、ピリッとしていた静寂せいじゃくやぶり、無線のイヤフォンから音がひびく。

「ガッ..10時の方向およそ50m、敵3名尾根おねの影から接近中!」副隊長の伊部 慎いべ まこと 通称シンの冷静で落ち着いた声。


了解、引き付けてダウンさせる。各自指示あるまで待機」隊長 悠真の指示が飛ぶ。


 チームメイト綾瀬 菜乃葉あやせ なのはの声が続く「菜乃葉なのは了解緊張きんちょうした感じだが明るく仲間をほっこりとさせる声だ。

狙撃そげきポイントに移動する。2分くれ!」

アフリカ系ハーフのロペスが、L96スナイパーライフルを背負い低い声で応答する。


一瞬ゆるんだ気持ちが、再度緊張する。

「ロペス、Pポイント到着後、最後尾をダウンさせろ。シンとなのはが先頭。俺が真ん中を取る」


「ガガッ..ガガッ」無言で無線機のスイッチを2回押し、OKの合図だ。

Pポイント到着したスコープ捕捉ほそく、指示待つ」ロペスの少し片言かたことのような落ち着いた声。


「後3m近づいたら、ロペス発砲!」

悠真もスコープをのぞきながら慎重にタイミングをはかる。


「後2m......」


「......イチ」・・・緊張感が走ったその時。


・・・突然、空気がふるえた。


 ドォーン!!……バリバリ……!


 山の木々がざわめき、空気が異様に重くなる。悠真が顔を上げる。青空を見上げると、黒く空が割れ巨大な影がゆっくりと現れた。


「なんだ、あれは……?」


 前方はるか上空から漆黒しっこくの立方体――まるで宇宙うちゅうそのものを切り取ってきたような物体が、空の割れ目から音もなく降下こうかしていた。


 その大きさは尋常じんじょうではない。あまりにも巨大で、距離感すらつかめない。

「富士山がすっぽり入りそうな大きさだな!!」

 場所は、日本海の上空あたりだろうか?それとももっと遠いのか?


 漆黒のキューブ状のまわりには透明の””が不気味にうごめきながら全体をおおっている。


 敵味方すべてが、その光景に目をうばわれた。

 戦闘は止み、ざわめきが起こる。


 そこにいる全員が、その何かを見つめている。

「映画の撮影か?」「いや……ありえねぇだろ……」

「UFOか?」前方の敵チームが振り返り、空を見上げ指さしながら呆然ぼうぜんと、巨大なキューブを見つめている。


 次の瞬間、頭上を轟音ごうおんが切り裂く。

「F-15……!?」

 甲高いジェット音を響かせて、自衛隊のF-15イーグルがキューブに向けて編隊へんたい飛行していく。


 はるか遠くにも別の機影きえいがキューブに近づいている――別の方向からも他の機体が、左側は韓国の戦闘機だろうか? 右側奥から急接近しているのはロシアのスホーイか!



 -自衛隊のF15イーグル戦闘機パイロット-

「未確認飛行物体に接近中、他国の戦闘機も接近しています。警告フレア熱光源弾発射しますか」

「許可する、未確認飛行物体に警告はなて」


 F15がフレアを放ち、キューブに警告を与える。が――反応はない。沈黙ちんもくしたままの巨大キューブ。


F15パイロット

「敵未確認飛行物体、反応はんのう無し。もう一度警告しますか?」

「他国戦闘機接近中にて、指示待て」

了解りょう


 その瞬間、ロシアの戦闘機がキューブに向けて、突如とつじょミサイルを発射。

「おい、マジかよ……!」F15パイロットが息をむ。


 ミサイルはっすぐキューブへ向かう。が、直前でキューブの周囲に広がる“透明とうめい”に吸収され、音もなく無効化されむなしく落下していった。


 そして──透明な“”が ふいに静止した。


 次の瞬間――


 ブワァッ……!!

外側の膜状まくじょうの何かが一気に膨張ぼうちょうした。


F15パイロット

回避かいひ!間に合わなぃ……うわあぁぁ……」


 高空こうくう旋回せんかいしていた戦闘機編隊――あの、F-15イーグルも、韓国機と思しきKF-16も、ロシアのSu-35らしき機影も、透明な何かに飲み込まれている。


 時間ときが止まったかのような……


 次の瞬間、まるで糸が切れたように、重力に引かれ、彼らは――落ちた。


「……うそだろ……」

 悠真の目の前で、戦闘機が何機も、ゆっくり、木の葉のようにくるくると回転しながら落下していく。

 爆炎もなく、ジェット音もなく、ただ静かに。


 一瞬ののち、海上に落ちた戦闘機の爆発音だけが、遅れて耳に届いた。


「一体……何が起きてる……?」


 周りがザワつき始めた。

「ヤバいんじゃないの」


 数名が逃げようと動き出し、その不安が瞬く間にパニックとして広がる。


 その時、突然巨大キューブが光を吸い込みだした。

 外側から漆黒しっこくやみが“流れ込むように”キューブへ集まり始める。


 ギュィィィィィィン……

 甲高かんだかい、不気味ぶきみな音が世界を満たす。


「夜……? なんで……急に……」


 次の瞬間


バシューーーン!


 キューブ全体がまばゆく輝き出した瞬間、はげしく閃光せんこうを放つ。まるで太陽が地表に降り立ったかのような、強烈な白い光。


「くっ!」

悠真は反射的に身をひるがえし、岩の陰に飛び込む。


飛び込みながら悠真が叫ぶ。

「全員、退避!」


 飛び込んだその瞬間、世界が真っ白にまった。

目を閉じていても、まぶたの裏が焼けるような激しい閃光――

 直後、全身を突き上げるような衝撃波しょうげきはおそい、耳が壊れたようにキーンとり続ける。


「俺は、こんな所で死ぬのか.....」

 意識が薄れていく……


 悠真はまばゆい光に包まれながら、世界が静寂せいじゃくまれて行く気がしていた......。


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