ファンに手を出した芸人の回顧録

ハクション中西

ファンに手を出した芸人の回顧録

ちょっとどうしても心の中に留めておけないので、ここで吐き出します。

正直言って、僕のことを見損なうかもしれない内容です。


【芸人とファンの関係性】というか、【あるべき距離感】について思ったことがあるので、書きます。


自分のアホさと後悔の記録です。

少し長くなります。

あれは20年ぐらい前。僕がTwitterをはじめたばかりの頃でした。



突然こんなDMが来たのです。

「今度のバトルライブで一位になったらヤラセテあげる」

アイコンを見ると、とても可愛い女性で、モロに僕のタイプでした。


当時まだ童貞だった僕は舞い上がりました。

もちろん、怪しすぎるし、頭の中の警戒アラームは鳴ってはいるのですが、アラーム音よりも、波打つ鼓動が抑えられない状態になりました。



当時、定期的に出ていたそのバトルライブで、一位になったことは過去に一度だけありました。


しかし、一位なんて、狙って簡単にとれるものではありません。

僕は、どうしよう、と思いました。


僕は当時コンビで活動していました。



さて、僕はそのDMですっかり舞い上がってしまいました。


それまでは新ネタにこだわっていたのに相方に突然、「今回はガチガチの鉄板ネタをヤろう」と言い出したので、少しケンカになりました。

「お前、新ネタやるって言うてたやんけ」と。


僕は、事情は何も話さずに「あのネタを育てたいんヤ。新ネタをヤることも大切やけど、ありネタをヤることも大切ヤろ」と言いました。



「なんやねん、それ」と言いながらも、相方は、渋々了承してくれ、バトルライブの日が来ました。


結果は20組中8位でした。

そもそも、イタズラかもしれないDMに踊らされて、新ネタをヤらずにありネタをヤってのこの結果。


自分にとって情けない限りでした。


そもそも、あのDMの女が本当に観にきてるかどうかもわからないのです。



そんなことを考えていたんですが、それでも、受付でチケットバックのお金をもらう時、少し期待している自分がいたことをここに白状します。



見覚えのない女性の名前で、僕らのコンビの名前で入場している人が一人いました。



芸人からの打ち上げも行かずに、ソワソワしながら会場を出て、用事もないのに、コンビニに行ったり、忘れ物を取りに帰るふりをしたり、またコンビ二に行ったり、かなり不自然にウロウロしていました。


すると、後ろから声をかける女性がいました。


「◯◯◯(コンビ名)の中西くんですかあ?」


振り返ると、あのアイコンの女の子でした。しかも写真で見るより、実物のほうがめちゃくちゃ可愛い!!!!!


僕は、童貞丸出しの「は、はーい」という返事をしました。


結論だけ言います。


「わたしの中では、一位でしたよ」と言って、結局ヤラセてくれました。

僕はとても嬉しかったです。


その後の話です。



なぜか連絡先も教えてくれなかったその女の子とは、TwitterのDMしか連絡手段がありません。


こちらからDMで何か話そうと思っても何を話していいかわからないぐらい、当時の僕は奥手でした🙇‍♀️


また、同じバトルライブの日が近づいてきました。


すると、またDMが来ました。


「次のバトルライブで、今度こそ本当に一位になったらヤラセテあげる」


僕はドキッとしました。あの夜のことがずっと忘れられないでいたからです。


さすがに、バトルライブの名前は言えません。それを言うと、どの女か分かってしまうからです。すいません🙇‍♀️



今度こそ一位、、か。。。。

僕は気合いが入りました。オレの全てを出し尽くしてヤる!!



どうしても一位になりたかった僕は、突然、相方にこう言いました。

「ブラックマヨネーズさんのネタをそのまんまヤろう!」


当時の相方は怒りました。

「何考えてんねん!アホか!!」

「いや、なんというか、すごい人のネタをヤることによって、俺たちに足りない技術がつくと思うねん」

「頭おかしいんか!お前!」



相方があまりにも怒るので、僕は途中から冗談にしようと不自然な笑い方をして、「いやいや、信じてマジになられても!!🤣🤣🤣」と言いましたが、次の瞬間、相方にぶん殴られました。




そんな状態ですから、コンビ仲は、めちゃくちゃになっていきました。


険悪な状態での新ネタの練習なんて、やる気も起きない二人は、お互いにムキになりながら


「もうあのネタでええやろ」と言いながら、また別の鉄板ネタをやることになりました。




結果は23組中3位でした。



僕は、ガッカリしながらも、それでも、期待しながら、ソワソワして、会場の外を出て、また無駄にウロウロしました。




またその子が現れました。

結論から言います。


「わたしの中では一位でしたよ」と、結局ヤラセテくれました🙇‍♀️🙇‍♀️🙇‍♀️


年月が過ぎました。。



そのバトルのたびに、その女性は「わたしの中では一位でしたよ」とヤラセテくれました。


僕は“少し前からうっすら思っていたこと”が自分の中で“大きく”なっていくのを感じました。



「どっちにしてもヤりたがってるやんけ。この女。何位でもヤるつもりやんけ」


僕は思いました。


それなのに、毎回毎回、「わたしの中では一位でしたよ」って、上から目線で決めゼリフみたいに何を言うてんねん、と。



そして、ある日、その子にヤらせてもらったあと、僕は、それとなく言ってしまったのです。


「順位とか関係なく、オレらのネタがおもんなくても、ヤラセテくれたんじゃない?」


その瞬間、彼女の体温が冷たくなったように感じました。


怒るでも、言い返す、でもなく、ずっと黙っているのです。

「ねえ、ごめん」と謝っても返事もしてくれません。


もう終わりなんだ。

そう、僕は肌で感じました。


その日はそのままお別れをしました。



次のバトルライブが近づいてきました。


いつもなら来るはずのDMもきません。



もういい!!関係ない!!

今日こそ、新ネタで一位になってヤろう!!


結局、そうしたら、あの子もまたヤラセテくれるさ!!!



何位でもヤラセテくれるので、気迫がなくなり、相方とはすっかり仲良しになっていたのですが、僕は、相方とまた久しぶりの大喧嘩をしました。



僕が本気で一位になりたかったからです……。



「なんで、三日間も練習であけなあかんねん!」と言う相方。


「それぐらい必死でヤらなあかん時やろ!オレら!」と返す僕。


「いつもそう言うてるなら分かるけど、急やねん!いつも!!!バイトとかあるやろ!!」



「お前、バイトとお笑いどっちが大事なんや!お笑い舐めてるやろ?

そんな覚悟で、この世界でヤっていかれへんぞ!!」


そう言って僕は相方に怒鳴りました。



“本当の一位になったら、あの子が戻ってきてくれるかもしれない”


そう思っただけのくせに、怒鳴りつけたのです。

最低ですよね。


相方は、怒っていた顔を急に冷めた顔に変え、ポツリとこう言いました。


「変なことを言うけどさ。お前、最近、『練習をやろう』って言うてくる時の“やろう”のや”が、カタカナの“ヤ”な気がするんよ…」


ドキッと、心臓が波打ちました。


「な、なにを、お、おかしなことを言うとるんヤ。あはは。

ケッタイなことを言う奴(ヤつ)やな。早く、練習ヤろうや。練習ヤラセテや。ははは」



その後も二人の空気は最悪のまま。


そのあと、練習の時にイライラして、殴り合いの喧嘩をしました。


お互い歯が3本しかない、そんな状態でやった漫才。


僕らは見事、優勝しました。



もうあの女性のことなんかどうでもいい!!オレは、お笑いに殉ずるのだ!!


優勝した瞬間のトロフィーの重さと美しさが僕をそう思わせてくれたし、後にも先にも初めて相方と抱き合って喜びました。


そして、僕は会場を出て、またウロウロしました。


一時間はウロウロしたでしょう。


しかし、結局、あの子はもう来ない。


そう諦めかけていたんです。


ただ、結論を言うと。


「わたしの中では一位よ」と声をかけられ、結局ヤラセテくれました。



ご心配をおかけしました🙇‍♀️🙇‍♀️🙇‍♀️



余談ですが。


「わたしの中では一位よ」の文言が、本当に一位になったらどう変わるか?



それを密かに楽しみにしていたのですが、全く変わらなかったのです。


【笑っていいとも】のタモリさんが「明日もまた、見てくれるかな?」と呼びかける定番のシーン。



それに応えたオーディエンスが「いいともー」と言って番組が終わるノリがありました。


“いいとも”が終わる最終回で、タモリさんは、何と言うのだろう?と当時、話題になりました。


あの時の感覚に似ています。


タモリさんは、最終回の日も同じようにこう言いました。


「明日もまた、見てくれるかな?」

「いいともー」



これだ。これが正解なのだ。僕はそう思って感動しました。


それと同じです。

彼女は何位の時も「わたしの中では一位よ」とヤラセテくれていたのです。

それは本当に一位をとったとしても変わらない。


極端な話、きっと舞台に行かなかったとしても変わらなかったのです。


そんなこともわからないなんて、僕は、ナニワのウッカリ男子です。


具体的にどれだけウッカリ男子だったかは言えません。

それを言ってしまうと、あの女の子が誰か分かってしまうからです🙇‍♀️🙇‍♀️


さて、バトルライブがまた近づいてきました。


DMがあの子から、また来ます。


「次のバトルライブで一位になったらヤラセテあげる」



僕は気が引き締まりました。

よし!!!

どっちにしてもヤラセテくれるにしても!!

自分らしく頑張ろう!!!



次の日、不思議なことが起きました。



別の知らないアカウントからDMが来たのです。



「次のバトルライブで、一位になったら、ヤラセテあげまSHOW」



別のアイコンです。しかも、また僕ごのみの、かなり可愛い女の子です。


僕は、前の子は、何位でもヤラセテくれたけど、今回の子は、違う人なので、一位をとらないとダメなのかもしれない、と思いました。



次の日です。僕は相方に言いました。

「オレらのネタの中で一番ウケるネタに、M-1の準決勝あたりのコンビのウケてるボケを気づかれないように混ぜよう!」


相方は怒りました。

今、考えると怒って当然です🙇‍♀️🙇‍♀️🙇‍♀️



結局、僕らは、最下位でした。



「わたしの中では一位よ」の女性も待っていましたが、「今日はそんな気分じゃないのさ」とトボトボと僕は帰るフリをしました。



そして、完全に帰ったと思わせながら、戻ってきて、会場の外を、僕はウロウロしはじめました。



すると、いた!!いた!いたのです!

いたのです!!!

新規の女が!!!!!


“ヤラセテあげまSHOW”の女が!!!!!


その女は、なぜか会場の近くの河川敷で夜道、ゴルフをしていました。


危ないし、絶対そんなとこでやったらあかんし、そもそも舞台観にきてたんだろうか??

でも、僕には分かりました。

新規のあの子です!!

でも、ゴルフしてるし、さすがにネタは見てないかな。



あのDMはイタズラかな?

いろんな考えが頭をめぐります。


「あ、あのー」


と僕が声をかけると、その女はこちらを振り向きました。


そして、ゴルフクラブをポトリと手から落としました。


僕をジロジロと見ています。

彼女は何も言いません。


なんだ、この目は。。。

僕は今までに感じたことのない恐怖を覚えました。


目がこちらを見てくるのはもちろんのこと。



“鼻”も


「今宵ばかりはにおうのを忘れて、アチキも見させてもらうでござんす」と言ってきています。


すると、女がピューイ!と口笛を吹きました。


すると、なんということでしょう。

「わたしの中では一位よ」の女が河川敷にやってきました。


“ピューイのゴルフ女”の横に、いつものヤリマンが並びました。


そして、二人で、僕のことを“見てくる”のです。



僕は金縛りにあったように動けず、かたまっていました。


この二人は、一体、どういう関係なんだ???

なんなんだ??


でも、声が出ない。。


彼女たちの“目”はずっと僕を“見てくる”



見てくる!見てくる!

何も言わずに!!せめて何か言ってくれ!!!見てくる!!見てくる!!

助けてくれ!!もうこ◯してくれ!!!!!



僕がかたまって動けないでいると、もう一度ゴルフの女は、ピューイ!と口笛を吹きました。




すると、ゆっくりと黒い影が近づいてきて、彼女たち二人の横に並びました。


僕の“相方”です!!!!!!




三人が横並びで僕を凝視しています。三人とも、“全く同じ目”をしています。



そして、三人の目は、“ジュラ紀の恐竜の目”になったかと思えば、“ツパイという原始のサルの目”になったり、変化しました。



この地球上の“覇者”たちの目に変化していきながら、僕を見ているのです。



そして、最後に人間の“目”になったのです。


しかし、その目は、全くの“円”そのものでした。


“楕円”ではなく、“円”なのです!!!!


深淵、深遠、真円!!!!はううう!!!!

“直径に円周率をかけたら、本当にちゃんと円周の長さになる目”で、オレを見てくるーっ!!!!!!


助けてくれーっ!!!!!

ヒイイイイ!!!!!!!




……



そこからの記憶はあまりありません。

半狂乱で走って逃げたような記憶がぼんやりと。。


気がついた時は僕は病院のベッドの上。

意識不明になり、運ばれていたのです。


僕は、ガタガタと震えながら、病院での治療を受けました。

謎の高熱がおさまり、ようやく自分で歩けるようになりました。


退院したあとも、僕の恐怖は続きました。常にあの二人の目に見られている気がするのです。


余談ですが、退院したあと、なぜか手が少し短くなっていました。


他人から見たらわからない程度ですが、確実に手が少しだけ短くなっていたのです。



その日から、僕は“いつもなら届いていた距離”よりちょっとだけ前に行ってから、エビの殻を剥くようになりました。


どんなエビかは言えません。

すいません🙇‍♀️

それを言ってしまうと、二人の女が誰か、相方が誰か、分かってしまうからです。



恐怖と睡眠不足で頭がおかしくなる毎日の中で、僕は決心しました。


…見てやる…


そうなのです。

僕は、“見る側”にまわることにしたのです。。



【目〜見てくる〜】

4/24(木) 20:00開演〜21:30(終了予定)

出演 ハクション中西

場所 阿佐ヶ谷プロット

内容 “見てくる”単独ライブです。“見てくる”にふさわしいネタを10本集め、当日、ハクション中西が“見てくる”のです。

当日は、“鼻”でさえ、あなたを見てくる…



【入場料】

見られる席2500円

見られたくない席2000円

⚠️どっちにしても見られます。




【TIGETでのご予約はこちら】

見られる席


(ここにURLを貼り付けていた)

見られたくない席

⚠️どっちにしても見られます。

(ここにURLを貼り付けていた)




と、いうことで、実はこれは、Twitterに昔長文ツリーでアップした、ライブの宣伝文でした。


過去に終わったライブですので、運営さまは目くじらを立てないで寛大な気持ちでお許しください。



いやー、バカバカしい笑笑。

ご精読ありがとうございました。

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ファンに手を出した芸人の回顧録 ハクション中西 @hakushon_nakanishi

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