豪腕ルーキー、国難クエストに突撃す!

桃色金太郎

第1話 ルーキーの日常

 巷で、こんな噂が流れている。


【最近ぶっそうだけど、なんだかんだで解決してるよな?】

【ありがたいけど、誰がやってくれてんだろねえ】

【さあな】

 と言う声がチラホラ。


 ​ただその【なんだかんだ】の一端を担っているのは、意外と近くにいたりするものだ。




「おう、ルーン坊や。今日もクエストを代行してくれるか?」


 ギルドに併設されている酒場で、呑んだくれのお爺さんと目が合うなり、上機嫌で声をかけられる。

 まあ、俺もそれを目当てにしているからお互い様だ。


「今日のはどんなのですか?」


「へへへっ。超カンタン、下水道のヘドロ掃除さ」


 俺の名前はルーン・ピスタチオ。

 まだ冒険者登録のできない12才で、こうやって日銭をかせいでいる。


 それに、昨日から感じている地下の強い気配を確かめたかった。

 下水道の依頼ならちょうどいい。


「はい、お願いします。それで、分け前はいつものでいいですか?」


「ああ、半分ずつだ。報酬の銅貨5枚は坊やの分な」


 ここ王都でも、子供だけで生きていくのは大変だ。

 ただ、気のいい連中と、面倒臭がり屋のお陰で、俺は今日も救われている。

 と、そこへギルド受付嬢のノヴァさんが、渋い顔をして近づいて来た。


「こらルーン君、またここね。子供が危ない事しちゃダメでしょ」


「ノヴァさん、これは只の触れ合いです」


「もう嘘ばかり。モグリの代行は禁止よ。これは君のためなんだからね!」


 この人は事あるごとに世話を焼いてくれる善意の塊で、呑んだくれとは正反対だ。

 ただ一本気なところがあり、周りが見えないこともしばしばある。


「あれ、受付に行列できてますよ。ノヴァさん、仕事はいいんですか?」


「しまったわ。また怒られる」


 見事な慌てっぷりだ。見ていてホッコリさせられる。

 そんな慌てているにもかかわらず、去り際に釘を刺してきた。


「いいルーン君、絶対に無理しちゃダメよ。もっといいお仕事を紹介してあげるから」


「はーい、ノヴァさんも頑張ってくださいねー」

「嬢ちゃん、頑張っての~」


 ふたりでノヴァさんを見送ると、お爺さんだけ睨まれていた。

 それでも平然と下水道の鍵を渡してくるので、受けとり足早に現地へと向かう。



 王都の外れにある暗く重たい鉄格子が、下水道への入り口だ。

 中は薄暗く、光源は時たまある排水口からの差し込む光だけ。


 悪臭と治安の悪さで、敬遠される場所。

 よほど物好きでなければ受けないクエストだ。


 まあ、他の目的がある俺は別だけど。


「さてと、モンスターを狩りつつ掃除だな」


 それと不人気な理由がもうひとつ。

 内部には小型のモンスターがやたらと多いんだ。

 しかも報酬の出ないポイズンラットやゴーストバッドばかり。


 初心者には難しい相手だし、かといってこれ等を狩れる冒険者はわざわざ来ない。


 増えていくのは当然で、掃除は狩りをしながらになる。

 といっても別々にする必要はない。まとめて一気に片付ければいい。


「これで……いいか」


 落ちていた棒を拾い振ってみる。

 胸ほどの長さはあるし、思ったより頑丈そうだ。


 この棒は武器というよりは、掃除の道具として使う。

 手元でくるくると回し、おこる風圧で汚泥をこそぎ落とすのだ。


 始めはゆっくり、折れないように。

 速度をあげていくと風を切る音が鳴る。

 徐々に練り上げられる風は、一つの輪へと凝縮される。


 ちょっと力を溜めすぎたのか。暴風の輪は光を歪ませ、今にも弾けそうだ。


「いっけー」


 押し出すと暴風の輪はすそを広げて、暴れる竜のごとく突き進む。

 バリバリと汚泥の引き剥がされる音が、唸りをあげる。


 風と汚泥の塊と水しぶきが舞い、互いにケンカしながら、そのまま遠くへ飛んでいった。


「ふう、満足まんぞく~」


 壁も天井も全てがピッカピカ。

 まあ、他に人がいると出来ない技だ。

 特別なスキルはいらないし、ちょいと力を込めるだけで良い。

 もちろん自分は汚れないし、一石二鳥で楽チンだ。


 だけど、これには欠点がある。

 それは綺麗になりすぎるってことだ。


 クエストとしては完了しているのに、他の汚れが気になってしまう。

 そうなるともう大変、止めどきが分からない。


 巨大迷路と言われる王都の下水道を、これでもかと突き進んでしまう。

 ひびく轟音、舞う汚泥とモンスター、残るは地肌が露になった水路のみだ。


「あれ、何か忘れてないか?」


 気づけば、大広間へとやって来た。

 いくつもの水路が集まってきており、一番大きな水路へ流れている。

 位置的には町の中央あたりかな。


 だけど、妙に静かである。

 ラットの鳴き声も、水滴の落ちる音さえもしない。

 不自然な静寂がここにはある。


 それもこれも原因はただ一つ。


 主水路の奥で蠢いている異質な気配がそれだろう。


 粘つくような魔力の波動。

 捕まえた獲物を決して放さない、そんな嫌らしさがムッとくる。


「そうだったよ。これを求めて来たんだったよな」


 昨日から感じていた強敵とやっと合いまみえた。

 軽く来る高揚感を抑え、あえて棒を床にたてる。

 来るのは向こう。デンと構え迎えるのは俺。

 そのスタイルは崩したくない。


 その瞬間、主水路の奥でヌルッとヤツが動いた。



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