お姉さ魔王と少年勇者のラブラブな日々-2

 千桜は千年のその人生をとても簡単に、掻い摘まんでライトに教えてくれた。


 千桜が生まれた頃は、各種族がとても長い争いを続けていた時代だったこと。そんな中、時を操る魔法使いが魔王を名乗って暴虐を尽くし、そのため各種族が協力して魔王を打ち倒したこと。そしてその力が今も千桜の中で健在であることを教えてくれた。


「先代の魔王が時の魔法使い……」


「時を操作する魔法は禁忌の魔法。わたしは魔王の魂に自分の人格が浸食されないために、自分の時を止めたのだけれど、平和になっても、それが解呪できずに千年が過ぎてしまったの。時を止めたことで、わたしは結果的に不老不死になった」


 千桜は遠い目をする。実際、千年も前のことを思い出しているのだから、それはそうなるだろう。


「最初は不老不死を僥倖だと思ったわ。長い時間があるから貪欲に全ての魔法を修めることができたし、時の狭間に魔力をためることで膨大な術を駆使できるようになった。そして1人で軍隊と戦えるようになった頃、戦争をなくしたい一心でこの星の統一に乗り出した。この近辺を平定してから今の星帝国になるまで何百年もかかった」


「でもそんな頃、地球人が侵略してきた……」


「最初は彼らもこの星の種族とうまくやろうとしていた。でも、地球人は地球人だけで長い時間を過ごしたからか、他者を排除する本能を制御することができなかった。その結果が、地球庄というわけね」


「でも、地球庄が危機に陥って、どうしても外の世界に助けを求めに行かなければならなくなったとき、勇者育成計画が始まったんです。大人たちはいろんな種族に変装し、外見からの偏見をなくそうと苦心していましたし、魔法を一から開発した人たちもいました。勇者となるに足る子どもたちはみな自分が地球庄を救うんだと、厳しい訓練にもめげず、切磋琢磨しました。結局、地球庄を出られたのはボクだけでしたけど……」


 ライトは故郷と勇者育成計画に参加した仲間たちを脳裏に蘇らせた。


「会いに行きたいです」


「その望みは叶えられるわ。でも、いつになるかは部下たちの立案した内容次第ね。彼らなしではこの広大な星帝国を統治することはできないし、わたしのわがままで統治にほころびが出ることも否定できないから……」


 ライトには知る由もないが、長い統治の間には失敗もあったことだろう。その失敗を糧に千桜は今まで長い間、この星の平和を守ってきたのだ。強大な魔王の力をその身に封じて、孤高の存在として千年を生きてきた。その魔王の力は時を操るという。


「――ボクの未来視は、千桜さんの魔王の力の影響で引き出されたんでしょうか……」


 ライトはそう思い当たり、彼女の顔色を窺った。


「なるほど。それは考えたことがなかった。だとすると気を付けないとならないね……君と会ってからわたしに未来視はなかったから」


 千桜はしばらく考え込んだあと、話題を変えた。


「それより、これからどうしようか。でもまずはガストルニスたちが到着するまでは御所ここでゆっくりしましょう」


「はい!」


 ライトは元気よく答えた。


「もちろん、これからライトきゅんとあんなことやこんなこともしたいけどね」


「望むところです!」


 2人は顔を見合わせて笑った。


 もう2人が結ばれるのを遮るものはなにもないのだ。


 その日からライトは帝都の御所で夢のような生活を送ることになった。


 千桜は魔王・黒曜石の君に戻り、1年近い期間をアバターに任せていた帝国の執政を自ら担うようになった。帝国第二の都市で起きたようなお家騒動は巨大な帝国の綻びとなりかねず、千桜は帝国全土の再調査に取りかかるよう指示した。


 その間、ライトは千桜のアバターに家庭教師になってもらい、様々なことを学んだ。以前千桜はライトのことを『お婿さん候補』と言っていたから、帝王学の下地となる基礎知識を叩き込まれているのだと理解した。


 夜になると一緒に夕食を食べ、そのうち、自然に一緒のベッドで寝て、夜を過ごすようになった。ライトはこんなに幸せでいいのだろうかと夢見心地になるほかなかった。


 1週間後、帝国の地球庄支援策が実行フェイズに移り、外から中に入るときの結界は解かれ、支援物資が地球庄に送られるようになった。地球庄は突然の支援開始を勇者が任務を果たしたのだと受け取り、全面的に歓迎した。


 この段階に至り、千桜はライトを、御所の地下深くにある巨大な造船ドックに案内した。造船ドックの中に入ると宙空に浮かぶ、虹色に輝く流線型の巨大な物体がライトの目に飛び込んできた。ライトは顎を上げ、美しいそれを見つめ、唖然としつつ言葉にする。


「あれは……何ですか?」


「わたしが作った宇宙を旅する船、〝銀河の泪〟号よ。地球人の故郷がこことは異なる別の星だということは習っているでしょう?」


 千桜はライトの顔色を窺っているかのような声色だった。


「……一応。500光年離れた太陽系の地球という星から地球人は星の海を渡ってきたと地球庄には伝わっています」


「彼らがこの星に到着した時には、星の海を渡る術はもうオーバーテクノロジーになっていた。その上、建造から長い時間が経っていたから、再現不能なくらい痛んでしまっていて、わたしでもその機構を解析できなかったの。でも、星の海を渡る術は、詳しいことは省くけど、ある意味、時を制御する術とも言える。だから絶対にモノにしたかった。でも、叶わなかった……」


「たぶん、説明されてもボクではわからないのでしょうね……」


「そうね。とても難しいことなの」


「勉強して分かるようになります」


「頼もしいね」


 千桜は微笑み、続ける。


「わあしは、この広い宇宙のどこかに、時を完全に制御する方法を知っている知性体がいると思うの。少なくとも、地球人発祥の地では超光速航行が開発されたことは間違いないわ。地球にはまだ超光速の秘密が残っているかもしれない。だとすればわたしの時を再び進めることもできるのかも……って考えたのよ。たぶんね。魔王の力の源をどうするかはまた別問題なのだけど……宇宙から来たものなら宇宙に捨てるか、もしかしたらこの〝力の源〟が来たところに時を制御する真理が眠っているのかもしれないし。いずれにせよ、今の心は決まっている。わたしの代で魔王を終わらせて、ライトくん――君と一緒に生きて、子孫を作って、年老いて、死にたいの」  


「……そうですよね。千年も生きていたら、そう考えても仕方がないですよね」  


 それはまだ11年しか生きていないライトには想像できない境地だ。知っている人は皆、人としての何かを成し、幸せか不幸せかはその人によるのだろうが、少なくとも千桜よりも先に死んでいく。それが千桜が時々見せる悲しげな表情の理由なのだと分かり、ライトは腑に落ちる思いがした。


「わたしが千年生きたからこそライトくんに会えた。それが魔王の力のお陰だって分かってる。でも、あとたった数十年で君とお別れしないとならないなんて、想像するだけで辛いの」


 千桜はライトを見つめた。


「寿命ばかりは仕方がないですよ……」


「だから今は、時を止める魔法の解除をもう一度試したい。過去に何度も解除を試みて、失敗して、もう諦めていたけど、数百年ぶりに挑戦したいって思ってる。ライトくんと出会ったことこそ、わたしが千年を生きていた理由だと思うから」


 千桜は悲しげに微笑んだ。 


「もちろんまた失敗してしまうと思うのだけど……そうしたら、この船で宇宙を旅して、方法を探しに行きたい。ライトくんは……一緒についてきてくれる?」


「……ええ。ボクの身体は千桜さんのものですから。そうでなくても、千桜さんを1人にはしたくないとボクは心から思っているんです」


 たとえその航海で千桜の時を再び刻むことができるようにならず、自分が先に塵となっても、ライトは命の限り彼女と共にいたいと願う。それは地球庄を救ってくれた恩を感じているからではない。ただただ千桜を愛しているからだ。


「ライトくん……」


 千桜はライトをきつく抱きしめる。鬼人特有の力強さで抱きしめられて息が苦しくなっても、ライトはやせ我慢をするのであった。

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